14日目。お年寄りは転ぶというけれど

プー

1階から内線の電話がなった。電話にでると応答なし。ママが1階にむかう。すぐさま大きな声で私の名前を呼び「来てー!」。嫌な予感がして急いで1階へ降りる。途中、ドアに左の頭を思いっきりぶつけびっくりする。夜にはたんこぶができていた。

1階へ降りると、おばあちゃんがキッチンで倒れている。とうとうかと思ってびっくりしたが、そんな雰囲気じゃない。どうやらキッチンに置いてあるキャスターの椅子に座ろうと思ったらすべってしまい、転んでしまったそう。おばあちゃんは意識もあって、ただ一人では動けないだけで、痛みはそんなにないようだった。お尻をぶつけて痛いと言っていたけど、骨は大丈夫とのこと。

ママと一緒におばあちゃんをよいしょと持ち上げ、まずは床に座らせた。ママは「びっくりさせないで」と泣きそうな顔をしながら頑張って笑顔をつくって、おばあちゃんを抱き寄せた。ギュッと。それを見て泣いてしまった。

本当にびっくりした。お年寄りは転びやすいというけれど、まさかこのタイミングでおばあちゃんが転ぶとは。おばあちゃんいわく「お米を計ろうと思って立ったら転んだ」らしい。ママが「頼まなければよかった」とぽろっと言った。ここ最近ずっとママが夜ご飯を2階で作って、夜になると二人の食事を配膳しにいっていて。ご飯を炊くのはおじいちゃんの仕事なので、たまには役割を担ってもらおうと「今夜はおじいちゃんにご飯を炊いてもらって」とおばあちゃんに言ったことで、おばあちゃんが動いてしまったらしい。ママいわく「寝たきりじゃないのに、家のこと何もできないで申し訳ないという気持ちがあるみたい」。気持ちはわかるけど、何もやらなくていい。やらなくていいから安全に元気に過ごしてほしい。願いはそれだけ。

ママは何度も「お願いだから、もう何もやらないで」と言った。おばあちゃんは「はいはい」と笑った。

電話のプーは、おじいちゃんが鳴らしたらしい。おばあちゃんが転んで「ママをよんで」と頼んだのだった。ただ、おじいちゃんは最近幼稚園児くらいの思考なので、自分で助けることもできず、立って見ていたらしい。ママと私が大変だ大変だ!とおばあちゃんのサポートをしているときも、黙って見ていた。

おじいちゃんは健康で、自分のことは自分でできる。いい年齢なのに「まだ自分は大丈夫」と思っているそうで、ママやおばあちゃんが何度も「補聴器つけて。補聴器買いにいこう」と言っても、嫌な顔していらないと言う。おばあちゃんはもうおじいちゃんの耳に合わせて大きな声をだせない。だからおばあちゃんのためにも買ってほしいのだけど、ダメらしい。ストレートに言っても嫌がるだけなので、それはわかっているのだけど、今日のおばあちゃん転倒事件があり、おじいちゃんの耳遠い問題も解決しないとこれからが心配なため、ママが強くおじいちゃんにお願いしていた。いつもだったらママに「そういう言い方はよくない。絶対に聞いてくれないよ」と話すのだけど、今日だけは、ママが言いたいことを止められなかった。ママも心底びっくりして、きっと恐怖や危機感をこれまで以上に抱いたはず。驚きや悲しさや心配な気持ちが、おじいちゃんへの声掛けに出ていた。

おばあちゃん自身も転んでびっくりしたようだけど、痛みは本当にないようで、しっぷをして横になった。おばあちゃんは以前より20キロ近く痩せてしまったので体が軽くなったことが不幸中の幸いだったのかもしれない。これで骨折となったら大変。まだ油断はできないけど、こうやってお年寄りは転ぶのかと学んだ。

ママはその後、後ろ髪を引かれながら3時間ほど仕事へいき、私もテレワークに戻った。おばあちゃんの部屋で仕事をしようと思ったけど、「ここでお仕事できるの?」と私のことを心配してくれるので、今日はいろいろあったり気遣わせるのも嫌だなと思って、中二階で仕事を続けた。途中様子を見に行ったらご飯を食べた形跡があり、そして眠っていたので、声をかけずに仕事に戻った。

会議が無い時間は、やっぱりおばあちゃんの部屋で仕事をしようかな。目を離したすきに、またどうにかなったら大変。「ここにいたらお仕事できないでしょ?」というけど、隣にいたほうがたとえテレビで気になる相棒がやっていたとしても、安心するし仕事も進む。おじいちゃんは頼りにできないし。ずっと側にいるのはおばあちゃんも気が気じゃないと思うので、ちょっと様子をみつつ、側にいようかなと思う。

おばあちゃんがキッチンで倒れているシーンが脳裏に刻まれてしまった。心臓をグッと掴まれたようなショッキングなシーンだった。味わいたくない。今後また似たようなことが起こるのか、おばあちゃんが横たわっている側で声をかけても、応答してくれなくなる日がくるのかと思うと本当に怖い。


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