え?ってなった話
まだ私が若かりし頃の話。
大学を出てから議員秘書→広告代理店→パチプロ生活者を経て、国産建築資材メーカーに勤務した時の話。
中途募集をハローワークで見つけて、入社テストでなんとか受かって採用を貰ったのだが東証一部上場企業でとても安定した会社だった。
一次面接が広島のオフィスで行われるのだが、当時の所長が面接官だった。
笑顔で柔和な感じなのだが、死ぬほど滑舌が悪く質問内容すらまともに聞き取れない。後にわかるのだが、異様に思考力が高くて回転が早いのに、口が全くついて来てないのだ。
意識がはるか先に先行して、滑舌が全くついて来ていない。
そんな人だった。
当時は会社もいまみたいにオンライン化が全く進んで居らず、帳票類や報告書も手書きだったのだが所長の文字は読めないことで有名だった。
報告書を提出した後、所長から指摘ポイントが記入されて返却されるのだが書かれてる指摘を読めたことは一度もなかった。落ちてる陰毛みたいな文字だ。読めるはずもない。
ある日、全社的にオンライン化をすることになり新しいパソコンが全員に支給される事となり帳票類等を電子化するにあたり営業所に本社から講師が来て使い方をレクチャーしてくれる事になった。
一台の真新しいパソコンの前に所員一同集まって、講師の方のやり方を必死で見る。みな一様にメモを細やかに書き留めているが、所長だけは目が死んでいた。
ノートとペンは持っているが白紙だった。
レクチャーは順調に進み、概ね完了する頃に所長がノートに何かを書き留めた。
あれだけ色々レクチャーされたのに、数文字しか書いていないのはなぜなのか。逆に全然書き留めなかったのに、その所長が唯一書き留めたものはなんだったのかすごく気になった。
所長のノートを遠目に見た。
ただ「クリック」と書かれていた。
「え?」と声が出た。
その会社をその数年後に退社したため、所長がいまどうしてるのかはわからないが、いつか会うことがあるなら、なぜクリックと書いたのか聞いてみたい。
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