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IR(投資家向け広報)とは営業だ!


はじめに

始めまして。及川と申します。
この度、Scale Cloud社の広瀬さんにお声がけをいただき、経営企画のアドベントカレンダー を執筆させていただくことになりました。
まずは私についてです。元々は金融業界出身で証券会社所属のセルサイドアナリストを2年少し、その後運用会社で約6年間アナリスト(企業調査)、ファンドマネージャー(実際に株式を買って超過収益の確保を目指す)として日本株の調査・運用業務を行ってきました。その間数多くの上場会社の経営陣やIR(投資家向け広報担当者)と議論してきました。ここでの知見を活かそうと思い、事業会社に転職して、その後は10年ちょっと事業会社の経営企画・IR・M&A担当としてとして色々やっています。
経営企画の守備範囲は会社によってもまちまちだと思いますが、①狭義の経営企画(単年度・中期経営計画の立案・進捗管理、子会社管理、特命プロジェクトの推進)、②攻めの成長支援(M&Aや資本提携、ベンチャー投資等)、③守り分野(コーポレートガバナンス、コンプライアンス推進)、④投資家向け広報(IR)あたりが大きくくくった守備範囲じゃないかと思っています。
それぞれについて語りたいことがいっぱいありますが、今回はその中でも④IRについて私見を述べてみたいと思います。

IR(投資家向け広報)とは営業だ!

まずここでは常に投資ユニバース(投資対象銘柄リスト)に入らないような時価総額1,000億円未満の会社(つまり中小型株)を対象にします。

そもそもIR(投資家向け広報)って何のためにあるんだろう

  • まずそもそも企業がIRを設置、強化する目的は何でしょうか。一般的に「企業が株式市場において正当な評価を獲得するため」とよく言われていますが、端的には株価を上げるため(もしくは下がりづらくするため)だと考えています。最近は「新上場区分の上場維持基準の適合に向けた計画書」という東証プライム市場、スタンダード市場への上場を維持したい企業が取り組みとしてIRの強化とうたっていますが、まさにこれが典型だと思います。

  • 株価を上げることがそもそもの存在意義なので、IRは基本的に自分の会社の株式を商品とする営業マンであるべきと思っています。なので、評価軸は株価変化率ということになります。株式市場全体の変動要素を考慮すると「同業他社比の相対株価変化率」がいいと思っています。(加えて後述しますが、ミーティング設定数など活動量もとっても大事です。)

  • 以下に営業活動という視点からIR活動を整理したいと思います。

投資家とのIRミーティングに関して(=商談)について

  • 機関投資家はなぜ企業に対してIRミーティングを申し込むのでしょうか。それは、時価総額1,000億円未満の会社の場合、企業の概況、ビジネスモデル、株価の変化点につながる情報が証券会社のアナリスト(セルサイドアナリスト)から情報が得られないからです(証券会社のアナリストの数は以前より減少しており、大手投資家の需要の高い時価総額1,000億円以上の大型銘柄に調査リソースを集中しているため。)。つまり投資家から取材をされない限り自社の株式に興味関心を持ってもらえず、結果投資対象銘柄に選ばれず他の銘柄に埋もれる形になります。

  • 一方で、一言で機関投資家と言っても国内だけでも数百、海外まで含めると4ケタ弱はいるのではないかと思っています。また、その中にいるファンドマネージャーの投資スタイルはまちまちです。なので、IR自らがより多くの機関投資家にアプローチすること、つまりIRミーティング設定件数が大変重要なKPIになると考えています。改めて、待っているだけではミーティング件数は増えません。なので新規開拓営業を行うことが大事になってきます。

  • 新規開拓営業のために、「会って話を聞いてくれませんか?」というアプローチを行わなければいけません。かといって機関投資家の代表電話にテレアポを取るのはさすがに抵抗があると思います。なので、IR-Naviやみんかぶの投資家DBを使ったメール営業が効果的だと考えています。

  • 実際のIRミーティングでも営業のスキルが大事になってきます。商談の場で一方的に自分の会社(商品)説明を長々とされたら相手はつまらないと感じると思います。私は初回の投資家様との面談では、「当社のことはご存知ですか?」「当社ってどのように見えますか?」「当社について何が知りたいですか?」「当社の株価水準はどう思いますか?」を4点セットで聞くようにしています。そこで課題を集めて一つずつつぶしていく。これを繰り返すことが認知度の向上と評価の適正化につながると思っています。(営業現場と同様にIRミーティングのロールプレイングを事前に行うことはとても大事です。)

  • 個人投資家対応についてですが、彼らの声は非常に大事です。最近は個人投資家の窓口をホームページ問い合わせやメールに限定している企業も多いと思いますが、私は電話対応こそ大切だと痛感しています。確かに内容が乏しく、株価が下がったことのクレームみたいな電話も多いです。対応にうんざりすることもあります。ただ、その中でも下手な機関投資家よりもはるかに会社のことを調べていて、今後の開示シナリオのヒントをくれる投資家が必ずいます。その彼らの声を真摯に拝聴するだけでなく、彼らが会社のことをどう思ってるのか質問することが大事です。そこでの反応を集めて機関投資家対応と同じように課題を一つずつつぶしていくことが後々の評価につながると考えています。営業においても同様ですが、クレームから逃げてはいけない、真摯に向き合うべきと思っています。(大きな声では言えないですが、Yahoo!ファイナンスの株価掲示板はいろんな方が見ています。)

決算説明資料やIRサイト(=営業資料)について

  • IRは自分の会社の株式を商品とする営業マンだと上に記載しましたが、その文脈で言うと、決算説明資料やIRサイトは、営業資料やサービスサイトと言い換えられます。

  • 決算説明資料(=営業資料)は自分の会社の魅力を伝えるためのものです。かつ、読み手の興味を引くものであるべきと思っています。会社の業績やKPI進捗をひたすら並べるだけのデータ集を好んで読みたい人はいないと思います。なので、個人的に必要だと思っている要素は①中期的になりたい姿(目標)、②目標に向けた進捗(進んでいるか、立ち止まっているか)、③進捗をより速めるための戦略・施策、④足元の状況(決算説明)だと思っています。つまりストーリーが大事です。今回の資料を読んだ方にどのように思ってほしいか。そのゴール感を先に設定しておくと、そのページ構成や選ぶコンテンツが劇的に変わってくるはずです。

  • ホームページも同様です。単なる会社紹介ページではなく、目標と進捗、そのための戦略が分かりやすくまとまっていることが大事です。なので、それを端的に説明する社長・経営陣のメッセージが最も重要だと思っています。なお、様々な会社で行っているIRサイトランキングは自社の商品価値を示す上でとても大事だと思っています。

  • 余談ですが、採用面接を受けようとする方(新卒、中途とも)や営業上のお客様が面談前に決算説明資料やIRサイトをくまなく見ることが多いと聞きます。なので人事やマーケティング担当者にも見てもらってコンテンツを作り込むことも実は大事だと思っています。

経営陣へのフィードバック(=営業戦略会議)について

  • 株式を上場している以上、資本市場の声を経営陣に届けることはとても大事です。ただ、単なる報告だけだと「ふーん」と流されたり、投資家からの辛辣な言葉をそのまま伝えると「あいつらは何もわかっていない」とへそを曲げたりします。

  • そこで、フィードバックを振り返りとネクストアクションを考えるいわゆる営業戦略会議ととらえなおすことが大事です。お客様(個人・機関投資家、証券会社のアナリスト)の声と現状の商品(株式)の魅力度の報告と改善に向けたディスカッションを行う場と考えると腰の入れ方が変わってくると思います。自分の会社の価値(株価)が下がって悔しいと思わない経営者はいません。報告ではなく、もっと売れるように価値が上がるための方針を一緒に考える機運をその場で醸成する。これが進むと経営陣はIRミーティングに進んで同席したくなると思います。(IRミーティングの場に経営陣がいるといないとでは価値がまるで変わってきます。)

最後に

IR活動をやっていると嬉しい瞬間よりも嫌になったりすること、疲れることが多いと思います。何を目的に活動しているのか分からなくなることがあると思います。IR活動は上場会社にとって経営の根幹を担う大事な業務です。こうした視点の転換が皆様のIR活動のヒントに少しでもなれたら嬉しいです。

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