喪主

24歳の時に母親が急死した。
早朝に自宅に帰ると母親がソファで横になっていた。普通なら寝てるのかなと思うがその時はなぜか嫌な予感がして慌てて確認をしに行ったら母親の身体は冷たく硬直し、息をしていなかった。
救急車を呼び、亡くなっていることが確認された。
そして警察もやってきた。
自宅などで亡くなった際は事件が絡んでる可能性もあるので遺体を一度警察に預け司法解剖を行い死因を特定させるらしい。
警察に状況を説明している時に母親が運ばれる。
一応息子なんですが見送りくらいはさせてくれませんかね。そう思いながら警察とのやりとりは続いた。

司法解剖の結果が分かるのは翌日になります。警察も職場に戻っていった。
朝6時くらいの出来事だったが長い1日が終わったような気持ちだった。
しかしやる事はまだまだある。葬式はどうしようか。
葬式はすごいお金がかかるという事は知っていた。当時はお金が全然無かったので葬式をやろうとは思っておらず直葬で済ませようとしていた。
その前に親戚に連絡する。伯母(母親の姉)に電話し母親のことを伝えると驚いていた。
当たり前だ。自分の妹が亡くなったのだから。
既に亡くなっている兄妹はいたが母親は1番下の子だった。尚のことショックは大きかっただろう。
伯母は他の親戚に連絡をすると言ってくれた。親戚全員の連絡先を知っているわけではなかったのでありがたかった。
葬式はいつやるの。
葬式をする気はなかったが伯母はやる気満々だ。巨人やロッテで活躍したシコースキーの様に腕をぶん回してるんじゃないかと思えた。
もう会えなくるんだ。葬式は最後の別れの儀式という。母親の兄妹には会わせてあげたい。
気持ちは一転して母親の葬儀をやることにした。

両親は幼い頃に離婚していて母親と2人暮らしだったので葬式の喪主を務めることになった。
司法解剖の結果も出て警察署へ母親を迎えに行った。
そして葬儀屋と打ち合わせをする。
そこには叔母とは別の親戚も同席した。お金がないことを正直に話し、削る所は削りたい旨も伝えた。
しかし葬儀屋の代表は最後のお別れなのであまり削らない方が仏様の為になるなど言ってこっちの要求をなかなか受け入れようとしてくれなかった。
何が仏様の為だ。俺の母親の為の葬式だ。
急死だった為、葬式はどうしたいなどは一切言っていない。決定権は俺にある。
母親には申し訳ないがとにかくお金がなかったので削れるところは削りたい。
葬儀屋から提示された金額は貯金と香典で賄える様なものではなかった。
話しはなかなか進まず親戚がお金を借りてでもやった方がいいんじゃない。と言った。
やはり削ることは難しいのか。親戚にどれくらいならお金を出せそうか聞いたら、大人なんだから消費者金融でもいいからお金を借りて働いて返しなさい。と言われた。
消費者金融から借金してでも葬式に見栄を張る必要はあるのだろうか。
たぶん俺の困り顔が自然に出ていたのだろう。助け舟を出してくれた人が現れた。
葬儀屋代表の奥様だ。大事なのは気持ちです。
これとこれは削ることは出来ます。それとここも削りましょう。と提案してくれた。
葬儀屋代表に何も言わせず話を進めてくれた。本当に助かった。
なんとか葬儀代を支払える金額まで削り葬儀のプランが決定した。
話し合いは終わり一息つく為にタバコを吸っていると葬儀屋の奥様が来て、ここもまだ削れそうだから削りますか。と聞きに来てくれた。
本当にありがたい。その言葉に甘えさせてもらうことにした。

葬儀会場が出来上がると費用を削った割には見窄らしさもなく、無事に葬儀を執り行うことができた。
告別式の日も新聞社からの電話対応(お悔やみ欄の掲載について)など忙しく息をつく暇もなく通夜、告別式、火葬となんとか喪主としての仕事も果たせた。
葬儀が終わるとその場で支払いを行なう。普段絶対に手に持たない様な多くのお札を出しこれで本当に葬儀が終了した。
今思うとお金にはじまりお金に終わった葬儀だった。

喪主を務めて感じたこと
葬儀に見栄は必要ない。
葬儀は予想以上にお金がかかる。仮にお金を持っていたとしても費用に疑問が浮かぶくらいの金額だ。
費用を削ったところでケチをつけてくる人間なんていない。
ケチをつける人間がいたらそいつの人間性を疑え。

お悔やみ欄には掲載してもらおう。
母親の元職場の人が新聞を見て家まで線香をあげに来てくれた。連絡が取れなくなった人や生前に付き合いがあった人が来てくれて愛されていた人なんだなあと実感できた。

俺みたいにお金がないという人も葬儀をやらないという人も形はどうあれ亡くなった人をちゃんと送ってあげてください。
そして葬儀が終わった後は休んでください。葬儀中は休む暇もないし、緊張しっぱなしです(ドキドキするなどではなく常に冷静を保つ為)
終わって家に着いたら一気に緊張が解けます。美味いもの食べて寝ましょう。

※約5年前のことなので記憶が曖昧な部分もあります。

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