Waves騒動の本音部分
先日、「全ての商品をサブスクにするぜ!」って発表して、反対意見が世界中で発生しまくって取り下げることになった、sound系プラグインの最大手Waves。その真意というか本当に広げたかったものってなんだろう?
サブスクの準備
これは明確にやっていて、ここ5年ぐらいWavesはものすごい勢いで大安売りしていた。どれぐらいって、90%off当たり前レベル。商売辞めるんかってレベルで商品の普及のために売りまくっていた。
元々はWavesは「高いしプロしか使ってない」プラグインの代表格だったのに、今は仕事じゃない趣味のDTMerもかなりの数所持しているほどに普及した。その理由はこのばらまきにあったと言える。
仕事の人たちは知っている大事なポイント
Wavesのプラグインの特筆すべき点としては30年前の同じプラグインであっても、今の最新バージョンで開くことができるという部分にある。これ、何気にプラグインとしては異常にすごいこと。Ozone7で作ったデータを最新のOzone10で開くことは当然できないのだ。違うプラグインなので当たり前。だが、Wavesは大昔にRcompを使って作ったデータは最新版のRcompで普通に再現できる。
ただし、大昔にインストールしたプラグインがそのまま使えるわけではない。OSも変わるのが時代の常なので、それに合わせてアップデートが必要になる。Wavesはこのアップデートが有料なのだ。Waves Update Plan (WUP)と表記されるこのプランは年間契約で、仕事で使う我々はこれに毎年お金を払っている。過去の資産捨てられないからね。
あとメリットもおまけであって、このWUPでお金払っていると二台のマシンで所持しているプラグイン全て使用可能になる。これも地味にありがたい。
サブスクになって困ることってあったの?
やいのやいの言われていたのはまさにこの部分。
サブスクの内容をひとまず箇条書きにしてみよう。
年間契約でWavesのプラグイン全て使い放題
今後単独でプラグインを売ることはない。サブスクで増えるだけ
今まで個別で買い切りだったものは最終的にWUPがなくなります
サブスクはパソコン一台限りになります
Studio Rackでプラグインチェーンのテンプレ検索し放題になります
冷静に見ると改悪と言えるのはWUPで二台に入れられたのがダメになった部分と、欲しいものだけ買いたい人が困るぐらいで、あとは今までとそこまで実は変わっていない。
確かに膨大なWaves製品群で全部押し付けられてもって意見は多いのはわかるんだけどね。ただ、年間契約でWUPしていた層に対しては金銭的なメリットがあるとも言えるし、二台で使えないデメリットもある。個人的には二台で使わせて欲しいってのが一番大きいけど。
サブスクに踏み切った本当の理由(勝手な推測)
ここから個人的な考察多め。
で、今回の新サービスというか体制変更(したかった)内容の肝って上記箇条書きの一番最後。Studio Rackじゃないかと思ってる。これ、ちょっとすごすぎて「頭おかしいやろ!(いい意味で)」となっている。
こんな感じでプラグイン内部で他のプラグインを追加して行って、自分オリジナルのモジュールチェインを作るという、割と便利でいじってると無限に時間がかかるのがStudio Rack
これがサブスク導入でどう変わるのか見てみよう。これがちょっとえげつないぐらいすごい。
こんな感じでに画面になっている。向かって右側の上の方にscanってのがあって、刺したトラックを再生しながら押すと音をリスニングしてくれる。
リスニングがある程度進むと、こんな感じで「おすすめモジュールチェイン」のテンプレートを提示してくれる。このテンプレート群、かなりの数が世界のトッププロたちが作っているし、自分で作ったものを上げることも可能。
見ての通り選んだらちゃんとモジュールは配置されているし他の画面で空間系なども調整済み。もちろん組み込まれたプラグインは設定済みという恐ろしさ。
ハッキリ言ってしまうと、これは人間が作ったものなのでAIでの自動選択と違って、気に入るテンプレートを探すという時間は発生するが選んで挟み込んで少しだけいじるだけで、完成度がめちゃくちゃ高いものになる。そのテンプレートが無限に手に入るのだ。まじでこれ選んでるだけで勉強になる。他人の思考が見えるってこんなに楽しいのか、と。
この機能を中心に考えるとWavesのプラグインを全部持っている人前提の機能になるのは想像つくはずだ。選んだテンプレートで使っているプラグイン持ってません、だと話にならないんだから。本丸はこれだろうなぁって思うぐらいこの機能はすごいし、触っていて楽しい。
さらに所有しているプラグインをスキャンしてからStudio Rackは起動するので、こういうことまでやってくる。Waves以外の会社のプラグインも含めてのモジュールチェインすら対応するという・・・
これはこの会社にしかできない
このための準備、かなり時間がかかったと思う。サブスクスタート(予定だった)の当日のテンプレート作成者に、世界トップのエンジニアたちの名前が普通にたくさん載っていた。つまり事前に時間をかけて作りまくってくれていたのだ。
こんなことができるのは、200を超えるプラグインを出し続け、プロの現場を知り抜き、シグニチャーバンドルを作るだけの関係性を作り続けてきたWavesにしかできない。
そしてAIに全自動でやらせるのではなくトラックの解析はさせるけど最終的にテンプレートを選ぶのは人間であるというAI時代への強烈なアンチテーゼというか共存のあり方を示しているのも、現段階ではこのメーカーしかできないと思う。
サブスクのみになったらなったでこちらは対応するしかないのだが、こういう革新的な、それでいて地道な部分がちゃんとあってのことだと理解すると受け止め方が変わるんじゃないだろうか?
教える立場なのでできる限りはワークショップなどで教えた内容を説明していこうかなと。地方の人やワークショップに事情があって参加できない人たちへのサポートが今後もやっていければと思っています。