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くすりの色

「くすりの色」のことで最近患者さんに聞かれることがありました。

 大学病院では、ワーファリン顆粒0.2%が処方され、地元の病院では採用医薬品の関係からワーファリン錠粉砕もしくは、ワルファリンK細粒0.2%で調剤を行っていた患者さんです。

概要

 お薬手帳の内容からワーファリン顆粒0.2%を使用していたことは知っていましたが、処方内容が

 ワーファリン錠0.5mg 1.6錠 / 分1 (粉砕)

といった内容だったため、先発品から先発品への変更はできず粉砕調剤としていました。
 その後継続処方となっていましたが、粉薬の方がいいのかなと思い、患者さんと相談の上”類似する別剤形”への変更調剤で、ワルファリンK細粒0.2%となりました。

 定期的に大学病院に通院していますが、あるとき検査で人工弁の動きが悪くなってる時があったようで、お母さんが薬の色の違いを気にし始めました。

 ワーファリンの粉薬を見たことが無い方はわからないかもしれませんが、ワーファリン顆粒0.2%は赤っぽい色(添付文書的に言うと、暗赤色)をしています。
それに対して、ワルファリンK細粒0.2%は白色です。

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お恥ずかしい話ですが、ワーファリン顆粒0.2%は店舗の在庫としてはなかったため、この色であることも患者さんから言われてはじめて気づきました

 同じ成分、同じ含量なのになんでこんなに色が違うの?

正直これがこのときの気持ちです。

ワーファリン粉砕について

 最近では、出血リスクが少なく、モニタリングも容易で食事の影響も少ないなどの理由から、直接経口抗凝固薬(DOAC:Direct Oral AntiCoagulants)が用いられることが多くなってきましたが、小児科領域ではまだまだワーファリンの処方がみられます。

 特に用量調節が細かくなるため粉砕調剤も多くなる訳ですが、粉砕調剤では、

 ・粉砕機への付着
 ・乳鉢、乳棒への付着
 ・分包機への付着

などによるロスの問題が指摘されています。

 また、ワルファリンの原末の光安定性が低いため、粉砕したワルファリンが光に曝露されると含有量が低下するとの報告も見受けられます。

粉砕による付着と光安定性の問題があるわけです。

ワーファリンの粉薬発売の流れ

2009年11月 ワルファリンK細粒0.2%「NS」「YD」発売

2011年12月 ワーファリン顆粒0.2% 発売

 これ意外なところなんですが、先発医薬品であるワーファリンの顆粒が後発品より2年も遅れて発売されています。光安定性を高めるための製剤設計を行っていた期間なのかな?とも予測されますが、この2年間に何があったのか気になるので後日エーザイさんに確認してみましたが謎のままです。
 ワーファリン顆粒0.2%が赤い理由については、原薬が光に不安定なため、光安定性を担保する目的で三二酸化鉄を配合しているためとの回答を頂いています。


ワーファリン粉砕 ⇒ 細粒0.2% への変更は良かったのか

 今回の患者さんでは途中で錠剤の粉砕から細粒0.2%への切り替えを行っています。まずはこれが良かったのかどうか?

中村安孝ら,ワルファリンカリウムの錠剤粉砕から細粒製品への変更によるPT-INRへの影響,医療薬学,38(4),pp246-250,2012  J-STAGE

細粒製品変更群 15症例
錠剤継続群   26症例

変更前後のPT-INRの推移と変動幅を算出して比較

無題

PT-INRは細粒製品変更後、上昇傾向にあったが統計学的に有意差は認められなかった。

変動幅についても同一量を継続的に服用しても個人内のPT-INRは一定の変動をすることが示唆されている。

症例数が少ないため今後のさらなる検討が必要になりますが、考察結論としては、
「細粒製品変更群にPT-INRが上昇した症例も認められたことから一定の注意が必要であるものの、臨床への影響は限定的であることが推察された
とまとめられている。

なんとなくですが、しっかり調剤を行っていれば変更調剤による影響は少なそうです。

余談ですが、この文献の中で気になる一文がありました。「WF細粒製品の採用と同時にメーカー提供の遮光袋に入れて予薬することとなり、光に対する問題にも対応した」。この試験で使われたものは、陽進堂の「YD」製品で当薬局もYDを使用していますが、遮光袋はもらったことはありませんでした。
ちなみにうちの薬局で遮光が必要な製品を渡すのに使用しているのはこれです。

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陽進堂さんに確認したところ、下記の2サイズがありました(どちらも1梱包100枚)。
 遮光袋(小)
  約15+160×140mm(チャック上+チャック下×袋巾)
 遮光袋(大)
  約15+277×216mm(チャック上+チャック下×袋巾)
ありがたいことです。

届いた遮光袋は黒くて、しっかりした作りで、大きさも薬をいれるのに十分な大きさでした。今後しっかり利用させてもらいたいと思います。

ワルファリンカリウムの光に対する安定性

ワルファリンカリウムが光に不安定ということは、保管条件によっては効果が減弱した可能性もある?と思い安定性のデータをまずはみてみました。

〇ワルファリンK細粒0.2%(インタビューフォーム)

無題

残念ながら、ポリエチレン容器に入った状態の安定性のデータしかありませんでした。

〇ワーファリン(インタビューフォーム)

<原末>

無題1

5日間で2~3%の含量低下がみられているため、開放状態での長期保管では薬効に影響する含量低下も懸念されます。

<ワーファリン顆粒0.2%>

無題2

薬袋中までも検討されており、600時間(25日間)までは含量低下もみられず安定とされています。無包装状態においても類縁物質が増加するものの含量に対する影響はなさそうです。

ワルファリンカリウム製剤の安定性と保存条件の影響,第21回日本医療薬学会年会講演要旨集,p320

この抄録の中では、

・粉砕後のワーファリン錠1mg
・ワルファリンK細粒0.2%
・ワルファリンカリウム原末

の3種類の光安定性に関する比較を行っています。

直接粉末,分包のみ,分包後薬袋に挿入,黒色ビニール袋に挿入
⇒粉砕後のワーファリン錠1mg、ワルファリンK細粒0.2%
直接粉末のみ
⇒ワルファリンカリウム原末

結果)

直接照射粉末=すべてのワルファリン含量低下

薬袋保存=若干の分解が認められた

遮光袋
=粉砕後のワーファリン錠とワルファリンK細粒0.2%は安定で同等の結果

最終的には
分包後、薬袋、遮光袋に入れた場合には、光分解を十分に抑制することが示された。」という結果で締めくくられています。

この結果から考えると、遮光袋がベストですが、薬袋に入れて保管さえしていればある程度安定性は保たれるということなので、今回の例においても光に対する安定性が薬効に影響を与えた可能性は低いと考えられます。

さいごに

くすりの「外観の明らかな違い」は、「効果の違い」を患者さんに感じさせてしまうひとつの要因になる可能性があるというのが今回感じたことです。

リスクマネジメントという観点からは、後発品を選定する場合に先発品と外観が類似していない商品を選ぶという選択肢もあると思いますが、変更の違和感を減らすという意味では、後発品選定の際には外観類似品を選ぶという選択があった方がいいと思います。


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