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「国家」の3要素『万物の黎明』ノート28

本書は、農耕と都市と国家の起源について通説を覆していくところが売りであり、第10章と11章が国家について議論する最大の山場となっています。 著者たち(二人のデビットなので、以下WDと略します)は社会進化論的人類史を徹底的に避け続けており、歴史上のあるポイントで「国家」が現れて、それが周囲に広がっていくというような見方はしません。それに代わるストーリーとしてWDが出して来るのは、「人類は色々な形態の国家を試し続けてきた」というものです。 国家の定義 そもそも「国家」とは何

    • 征服者コルテスと交渉する人々 『万物の黎明』ノート27

      ノート26(世界最古の公共住宅事業)ではAD100-600にメキシコで栄えたティティワカンという都市が支配者を置かない都市であったとする話が展開しました。著者たち(二人のデービットなので以下WDと略します)は、メキシコにはマヤやアステカのような階層性の強い社会もあったのだけれど、同時にティオティワカンのような平等を強くする社会もあり、その伝統も伝えられてきたのだとして、アステカ帝国を滅ぼした征服者コルテスと同盟を結んだトラスカラという都市の話を始めます。 征服者コルテスと同

      • 世界最古の公営住宅事業? 『万物の黎明』ノート26

        本書は様々な考古学事例を繰り出してくるのですが、その中のひとつにヒエラルキー(階層社会)を作らないままに公営住宅事業を行った、メキシコの テオティワカンの話があります。 ****** メキシコ盆地には12世紀から栄えたアステカ帝国(アステカ3都市同盟)が有名ですが、アステカを作ったメシカの人々がそこにやってくる遥か以前に、メシカの知らない人々によって建設され、打ち捨てられていた都市ティオティワカンがありました。壮麗な二つのピラミッド(太陽のピラミッドと月のピラミッド)が聳

        • 世界最古の市民革命? 『万物の黎明』ノート25

          ノート23で、君主制以前のメソポタミア、ウクライナのメガサイト、インダス文明のモヘンジョダロという3つの事例を出していますが、最初は王がいなかったこと、戦士エリートが居た証拠もないこと、共同体の自己統治システムがあったらしいこと(その可能性があること)を著者たち(二人のデビットなので、以下WDと略します)は指摘しています。しかし、その伝統はひどく違うようでもあります。ウクライナのメガサイトとウルクの拡大(エクスパンション)の違いはその最たるものでしょう。 平等には二つの方向

        「国家」の3要素『万物の黎明』ノート28

          メソポタミア民主制 『万物の黎明』 ノート24

          メソポタミアで民主制があったと言われても「?」としか思えないでしょう。古代メソポタミアは聖書に描かれていたこともあり、帝国とか君主制のイメージが強い場所ですから。しかし、メソポタミアの最初期の都市には君主制の存在を示す証拠が無いと著者たち(二人のデビットなので以下はWDと略記)は言います。メソポタミアの都市の歴史は南部でBC3500、それより北側の土地ではBC4000以前に遡る可能性がありますが、都市ができて500年以上経ったBC2800以降になって、宮殿、貴族の埋葬、王家の

          メソポタミア民主制 『万物の黎明』 ノート24

          ダンバー数を超すと都市が出来るのか?『万物の黎明』ノート23

          最近よく見る説ですが、「(農耕の開始で人口が増加して)都市人口がダンバー数を超すと、官僚制が始まり、階層化が起きる」という話があります。ダンバー数とは、「知り合いであり、かつ、社会的接触を保持している関係の人の数のこと」で、個人差はありますがだいたい150人くらいだろうとされています。この人数以下の村の規模であれば、村内の人々は密接な関係を保つことができますが、これを超える都市になるとそうした関係を維持することができず、なんらかの組織化を行なって全体の維持を図ろうとするだろう

          ダンバー数を超すと都市が出来るのか?『万物の黎明』ノート23

          農耕民は文化的劣等生だった 『万物の黎明』 ノート22

          第6章「アドニスの庭」(ノート2、読書ノート6)で描かれた、肥沃な三日月地帯における初期農耕発生の事情は複雑です。大雑把にまとめれば、「人々は高いカロリー生産性を目指して農耕を発見して、それに向けて突っ走ったわけではない」のであり、「いつでも止められる遊戯的園芸として農業は始まった」とするのです。ムギの栽培にしても、最初は建材や燃料としての藁を目当てであり、食料としてのムギは副次的なものだったのではないかともしています。 しかし、人類史を扱う一般著作は「農耕への移行」に強い

          農耕民は文化的劣等生だった 『万物の黎明』 ノート22

          奴隷制について 『万物の黎明』ノート21

          本書のメインテーマは「どうして私たちの社会は支配と服従の体制に行き詰まって(閉塞して)しまった」なので、支配ー服従の極端な形式である奴隷制についても言及はあります。ただし、記述があちこちに散らばっており、まとまりをなして論じられてはいません。そして、例によって「起源を論じるのは意味がない」という見解が繰り返されます。奴隷制は世界各地、様々な時代で見られますが、その形態は様々です。おそらく人類史のかなり初期から奴隷制はあったのだろうと著者たち(二人のデビットということで以下では

          奴隷制について 『万物の黎明』ノート21

          農耕開始以前から社会はいろいろあった 『万物の黎明』ノート20

          第4章の構成は大変にわかりにくいです。話があちこちに飛びながら、どこに向かっていくのかがよく分からなくなるのですが、大雑把に言えば、農耕開始以前の社会について色々と(文化人類学と考古学の)例を挙げながら、「農耕が始まって私的所有が始まり、そこから人が人を支配するヒエラルキーのある社会が現れた」といいう通説を覆す準備を行い、本書を通じて展開していく「どうして私たちは閉塞したのか?」という問いに関連する著者たち(「二人のデーヴィット」ということでWDと以下略記)の考え方を並べてい

          農耕開始以前から社会はいろいろあった 『万物の黎明』ノート20

          私的所有権の起源 『万物の黎明』ノート19

          近年発見されたアメリカのポヴァティポイント、日本の三内丸山遺跡など、大規模な労働力の動員があったとしか考えられないのに、支配階級(エリート階級)の存在が確認できない遺跡の存在があります。従来の歴史観では、生産力の拡大→富の蓄積→支配層の出現という図式が描かれていましたけど、どうも物事はそう単純には進まなかったようです。財宝(奢侈品)は沢山見つかるのに、それを独占し(私的所有し)、それを支配の道具として使っている人々の姿が見えない遺跡をどう考えれば良いのか。 そもそも私的所有

          私的所有権の起源 『万物の黎明』ノート19

          分裂生成 『万物の黎明』ノート18

          [ 本書第5章では「分裂生成」による文化の形成について議論がされます。その準備として著者たち(二人のデービットということで以下ではWDと略します)は文化人類学や考古学の分野で使われていた「文化圏」とか「文化伝播」という考え方を概観した上で、マルセル・モースが打ち出した文化とは拒絶の機構であるという考え方を紹介します。 モースは、過去の人間は大いに旅をしており、1-2ヶ月におよぶ旅の中で遠方の文化に触れる機会はいくらでもあったとします。つまり文化間の接触は頻繁にあったのです。

          分裂生成 『万物の黎明』ノート18

          後期旧石器時代の「社会」は広かった 『万物の黎明』ノート17

          本書の著者たち(二人のデービットということで、以下ではWDと略します)によれば、後期旧石器時代、アルプス山脈から外モンゴルまで、文化はかなり似ていたとされています。各種の道具、楽器、女性の小像、装飾品、葬儀の形態が似ているのです。また、男性も女性も長距離移動をしばしば行なっていたとされます。 現在の狩猟採集民もしばしば長距離移動を行い、遠隔地の集団と混ざり合っていることが文化人類学でも確認されています。たとえば東アフリカのハッザ族やオーストラリアのマルトゥ族を調査すると、ほ

          後期旧石器時代の「社会」は広かった 『万物の黎明』ノート17

          人類の幼年期にサヨウナラ 『万物の黎明』ノート16

          季節変動する社会が人類史では、ごく普通だったと著者たち(二人のデービットでWDと略します)は主張します。しかしこれは、社会は必ず一定の進化段階を経るはずだという社会進化論と合いません。季節変動をもつ狩猟採集民はバンドと国家のようなものを行ったり来たりするからです。社会進化論からすると進化したり退化したりするのであり、これは馬鹿げています。なので、社会進化論をWDは退けます。 さらに季節変動している社会で、期間限定で現れる権威主義的リーダーは「王様ごっこ」しているようなものだ

          人類の幼年期にサヨウナラ 『万物の黎明』ノート16

          季節変動と王様ごっこ 『万物の黎明』ノート15

          ひとつまえのノートで季節変動社会について書きましたが、本書でそれと並行して描かれるのが「王様ごっこ」です。 氷期(旧石器時代後期)の豪華な埋葬が色々と発見されるに及んで、その時代から階層制社会(あるいは不平等な社会)が出現していたと推定する歴史学者もいますが、著者たち(二人のデビットを略して、以下WDとします)はそこに留保を加えます。埋葬されている遺体の多くが先天性の形態異常(巨人だとか小人症)を示しているからです。骨の状態で異常がない場合でも例えばアルビノや精神的異常者だ

          季節変動と王様ごっこ 『万物の黎明』ノート15

          季節変動する社会 『万物の黎明』ノート14

          本書ではいくつかの鍵概念が使われていますが、そのひとつが「季節変動する社会」です。季節によって社会構成をすっかり変えてしまう社会であり、人類史では珍しくはなかったと著者たち(二人のデビットということで以下WDと略します)は言います。 季節変動する社会の例として、WDがまず取り上げるのはクロード・レヴィ=ストロースがブラジル時代に調査したマトグロッソ州のナンビクワラ族です。ナンビクワラ族は雨季になると丘の上で園耕を行っていますが、それ以外の季節はバンドに分かれて狩猟採集生活に

          季節変動する社会 『万物の黎明』ノート14

          人類は最初から「賢い人(ホモ・サピエンス)」だった 『万物の黎明』ノート13

          ホモ・サピエンスの遺伝子構成は約20万年前に確立してますが「文化」の直接証拠は10万年以上を遡りません。南アフリカで約8万年前の遺物が見つかり、世界各地で4万5000年前頃の遺物が大量に見つかったために、このときになんらかの出来事があったとされ、それは「後期旧石器時代革命」もしくは「ヒューマンレヴォリューション」と呼ばれます。しかし、20万年前のホモサピエンスの発生からこの出来事までに長い時間がかかっているのは何故なのか。こうした問いかけは「サピエント・パラドックス」と呼ばれ

          人類は最初から「賢い人(ホモ・サピエンス)」だった 『万物の黎明』ノート13