頁15「直せなかった」
見るからにあたふたしながらオフィスに入って来た人がいて、こちらが挨拶をすると、あたふたと「すみません」と申し訳なさそうに頭を触ったり髪を撫でつけたりしていて、そのたびに押さえつけた髪の毛がびよーんと跳ね上がった。
その跳ね具合がスゴくて笑ってしまっていると、
「すみません、(寝グセ)直せなかったっ!」
と謝りながら、逃げるようにデスクへと走り去って行った。
別段なにも悪くないけど……油断した姿を見せ過ぎだ。謝るならその一点だ(笑)。
というか気になったのは、どうしたらあんな起きたての寝グセが、重力に軽々と逆らいながら、自宅からここ勤務先まで保持できたのかということ。
家すぐそこなの? ドア toドア 10秒? もしかして「どこでもドア」持ってる?
もう謎。謎すぎて、気になる。
いけない。このままでは、寝グセという油断にまんまと心を奪われてしまう。
そうだ、なにも飛躍することはない。寝グセ? 洗った髪を乾かさないまま寝ちゃっただけでしょう? あぁ、だらしない。あぁ、でも人間ぽい。あぁ、惹かれる。……あぁ、やっぱダメだ奪われちゃう!
ほんとだよ。別段なにも悪くなくない。謝って当然のことをしてくれたよね。寝グセ直せず人前に出るなんて(?)。「直せなかった」じゃないよ。そこも可愛いのよ。
そうか、だから謝ってたんだ。そうだね、ちゃんと謝ってたや。
でもさ。いいじゃんね。油断でもわざとでもなんでも。
魅力とか、その人らしさとか、隠したり直したりせず、謝ったりもせず、出したかったら出してけばいいじゃないよね。
それにしても寝グセ。こんなに魅力的なのに、もしかしたら人類史上これまで「寝グセ」って、まだ流行ったことないのでは? ……クるかもねこれは、寝グセ時代(笑)。
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