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頁10「グッジョブです」
なんとなくミーアキャットに似ている人が異動してきた。ひと月ほど前くらいだろうか。
群れでいるミーアキャットではなく、ひとりはぐれてもひょうひょうとキョロキョロしているようなタイプのミーアキャットだ。いや、人だ。
私の視界に届く電子レンジでその人がお弁当を温めるのを4〜5回は見たタイミングで話し掛けた。
一度目は、まさかじぶんが話し掛けられているとは思わないようで流された。
なのでもう一度はっきりと彼の名前を呼んだ。
するとようやく、ミーアキャットのようにキョトンとした顔でこちらを向いてくれたので、
「17階に職員ラウンジがあって、そこでお弁当食べられますよ!」
と、親切心とばかりにナイスな情報をお知らせした。
そのラウンジは、私だってこの、職員の休憩スペースのない職場に来て一ヶ月は知らずに過ごしていて、なんでそんなとびきりな情報、皆んな教えてくれなかったんだよう、と世間様を少々うらめしく思ってしまうほど私には貴重な存在だった。
そんな情報を、私は来て一週間の彼に教えた。特別に気になる存在だからだ。その温めている弁当は愛妻弁当かもしれないけど、それはそれで素晴らしいから良いのだ。
「そうなんですね。今度行ってみます」
弁当温めを終えた彼はひょうひょうと去っていった。
そこから数週間。職場で立食形式のイベントみたいなのがあり、彼も参加していた。
和洋中いろんなメニューがあって、私が見るにミーア氏はそんなに食べるタイプではなさそうだったのだけれど、これが食べる食べる。いろんなオードブルに箸を伸ばし、口へ運ぶ。
そういえば、立食タイムが始まる前の誰かのスピーチのとき、隣にいた氏のお腹が鳴った気がしたけど、気のせいだろうと思った……けど、気のせいじゃなかったみたいだ。
けっこう食べますねと感心していると、
「スミマセン、お腹空いちゃって」
いいよいいよ、食べてこ。このギャップがたまらないよね。
私が気に入ったミートソーススパゲティを、皆んなが食べられるようにと置いておいた取り箸もちゃんと使って取り分けて「おいしい」と食べている。好きーこの人。
で、そのとき、まだ彼が食べていないキチンBOXがすこし離れたテーブルにあるのを見つけた私は、すかさず抱えてミーア氏のところまで運んだ。
私「チキンがありましたよ!」
ミ「え、チキン!」
さっと箸を伸ばしてくるミ氏。と、そこで私、箱を抱えているバランスを崩し、チキンがたんまり入っているBOXを落としそうに! こんなお呼ばれの会場でチキンぶちまけるわけにはいかない!! と、必死の瞬発力であえてバランスを取り戻すかのように片側をすくい上げるようにBOXを床に逃がした。たんっ! 床に垂直に叩きつけられるチキンBOX! しかしバランス取りが功を奏し、チキンは飛び出さずに済んだ。BOXを猛スピードで拾い上げ、テーブルに置いた。最初からそうすればよかったのだ。ひゃぁーすみませんすみませんーと小声でエクスキューズしている私に氏は……
「グッジョブです」
そう囁いて、チキンに箸を伸ばした。
え。
な、なんていうか……(笑)。
まぁ、フォローしつつ褒めてくれたから、いいか。
“努力が報われる” ってこういうこと?
“恋が実る” にちょっと近い気持ちがするような……?
“恋が報われた” ってこと、かな。
両思いとは違うけど、ちょうどいい落としどころな気がする。17階にはまだ行ってないらしい。
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