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って帖

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「 」って言われたこと書き留め手帖
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#恋

頁13「なんですか、それ」

勝手にしてきた失恋はいくらでもある。 じぶん勝手に好感を抱き、なにかのタイミングであっという間に打ち砕かれる。 寄せては返す波のように、失恋をしてきた(しすぎ)。 いつも絶妙においしい差し入れをしてくれる大きなひとがいた。 「僕もうこれじゃないとダメで」と、聞いたこともないヨーロッパのチョコレートの詰め合わせだったり。じぶんではきっと一生買わなかったろうなという、渋い黒糖かりんとうドーナツ棒(?)みたいなものだったり。 そしてあるときに、「コート忘れましたっ」と戻ってきて

頁11「作れますよ」

とあるイベントで、たしかノートパソコンからプロジェクターで映像&音を出さなきゃってことになって、おい! このノートパソコン、マイク端子ねぇじゃねーかぁ! と焦り、つらつらと音響ミキサー周りの後ろ髪長めスタッフさんへ窮状を伝えると、 「よくわかんないスけど、(配線)作れますよ」 と、ぼそり。 ツクレマスヨ!!!!! 私の説明伝わんなかったか……と軽く落ち込みつつ、肝心の「作れますよ」に、やっぱりこの人大好きだよ!! と心を掴まれ深く心酔した。 やっぱりというのは、最初

頁10「グッジョブです」

なんとなくミーアキャットに似ている人が異動してきた。ひと月ほど前くらいだろうか。 群れでいるミーアキャットではなく、ひとりはぐれてもひょうひょうとキョロキョロしているようなタイプのミーアキャットだ。いや、人だ。 私の視界に届く電子レンジでその人がお弁当を温めるのを4〜5回は見たタイミングで話し掛けた。 一度目は、まさかじぶんが話し掛けられているとは思わないようで流された。 なのでもう一度はっきりと彼の名前を呼んだ。 するとようやく、ミーアキャットのようにキョトンとした顔で

頁9「コマウォ^^」

数年にわたって敬語でずっとやり取りしてきた仕事相手が、韓国語をほんのすこし聞きかじる程度に知っているようだったので、連日の忙殺ぶりを労うべくメッセージの〆に「パイティン!です」と送った。「ファイト!です」という意味だ。 するとこう返ってきていた。 「コマウォ^^」 おお、と思う。 コマウォは「ありがとう」という意味だ。フランクなタメ語で。 顔文字付きのくだけた「ありがとう」はもはや「サンキュ」くらいのノリではないか。 これが韓国ドラマだったら「ところでお宅、さっきか

頁7「誰にも言ってないんですけど」

「学生証、失くしちゃったんですよねぇ」 その日初めて会った社会人大学院生とそんな会話の流れになった。 映画観るときとか困らない? と訊ねてから、ああ、映画館とか行かないか……と質問を取り下げるように言うと、 「昨日観に行きましたよ。あまりにも暇で」 暇で映画館……すごいな。 暇って感覚が私にはないぞい。 そう感心していると、 「『◯◯』観ました。あ、違う。『◯◯』は飛行機の中で観たんだった」 結構観るのね映画。ますます感心してから、ふと疑問が。 飛行機の中で一本映

頁4「もろたやつなんスけどね」

書きやすいボールペンって、JETSTREAMだけじゃぁ最近ない。 何年か前からサンプルとしてよくもらうボールペンがあって、御社の社名を入れられますよ的な、グッズ商品として展開しているのかもしれない、そのペンが、とても書き良い。 焦がしキャラメルソースくらいインクがねっとりとしていて、ずいぶんとじぶんのポテンシャルより猛々しい筆致に仕上がってくれる。「何卒宜しくお願い致します。」とポストイットにしたためるだけで、お願いした気持ちがずどんと相手に伝わると思える頼もしさがある。

頁2「今日はわざわざどうも」

なにかしら嬉しいメッセージが届くと、この人アカウント乗っ取られてる? とすぐに警戒できる私だ。 「今、忙しい?」なんて送ってきた子も、「アカウント乗っ取られました!! パスワード変えたのでもう大丈夫だと思いますが、また変なメッセージが来たら無視してください。お騒がせして申し訳ございません!!」と最大限よそよそしいエクスキューズをただちに寄越してきたけど、こちらからしたら、わかってた、わかってた! 安心してよ。だって誰もそんなコンタクト私に取ってきたりしないから、怪しすぎるか

頁1 「これくらいが好きっすよ」

賞味期限を2日過ぎた阿闍梨餅を「俺、これくらいが好きっすよ」と言って、気にも留めずにかぶりついた同僚に、なにかを掬われた。 「これくらいが好き」だなんて、調子がいい(笑)。 誰かのお土産の、残り物の半生菓子・阿闍梨餅。 賞味期限を2日も過ぎれば、あのみずみずしいモチモチさは失われてしまっているだろうことは想像に難くない。“半生”菓子からシンプルに菓子になっているやもしれない。 阿闍梨餅好きの私も一緒に食べてみたけれど、やっぱり惜しい食感だった。 それを、誰かのお土産がい