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『ピン留めの惑星』|大島智衣

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漫画家つきはなこさんとのマガジン『ピン留めの惑星』の大島智衣編
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#コラム

strawberry candy

信号待ちをしていると となりの親子連れの小さな女の子が 「青にな〜あれ! 青にな〜あれ!」 と 赤信号に向かってしきりに大きな声でさけんでいた 「こうやってると 青になるんだよ」 彼女は得意げに 嬉しそうに 母親にそう教えてあげていた そうなのか 赤信号はそうやって 青信号に変わるものだったのか──── 小さな女の子は その〈魔法の呪文〉を 懸命に 願いを込めて 唱え続けていた 私は 青になってほしく なかった 願えば届くなら ずっと赤信号のままでいて

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わたしたちの「篠宮くん」

篠宮くんが私の目の前に現れたとき───正確にいうと、私に対面するために7メートルほど向こうから近づいてきた彼が私の視界の端に入ってきたとき、私は咄嗟にそれまで「残りの人生もうどうでもいいや、見えてれば」と自暴自棄に掛けていたブルーライトカットの不穏な色付きメガネをばさりと放り捨てた。 そして、「はじめまして」と挨拶を交わした。にこやかに。感じ良く。 あのとき、私は裸眼で彼の顔はぼやけて全く見えていなかったのだけれど、私にはわかった。 パソコンやスマートフォンから発され眼

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マシュマロアイスというの

ときどき想像する。 もしもあと何十秒とか、何分とかで、 じぶんの人生が終わってしまう期限が差し迫ったら。 誰に、何を、伝えたい? やり残したこと、思い残したこと、は? 私は何を、遺す? 「なんにも ないや」 大型の台風が接近中で、空模様が荒れ模様になりつつある夜のバス停で、ベンチに腰掛けながらふと、家に着くまでには溶けてしまうとわかっているのに買ってしまったマシュマロアイスというのを、姿勢悪く頬張りながらふと、そう思ってしまった。 「なにも ない」 帰宅して

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絶対になくならないピン留めと恋

もうだいぶ遅い時間のバスでの帰り道。 左ななめ後ろの座席から、お互いに気恥ずかしそうに恐縮し合う男女の会話が聞こえてきた。 「迷惑かなと思ったんですけど。いつも次で降りてるなと思って」 「いえいえ、ありがとうございます。助かりました」 どうやら、たまたま隣の席に座っていた女性がいつも自分と同じ停留所で降りることを知っていた青年が、次はもう自分たちが降りる停留所だというのに彼女が気づかずこんこんと眠り続けているのを「このままでは乗り過ごしてしまう!」と意を決して声を掛け、起

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ピン留めの惑星|プロローグ

『ピン留めの惑星』なぜだか昔から、ピン留めというのはすべてどこかへいってしまう。 一体、どこへいってしまうのだろう? 私たちのたいせつな一部だったはずのものたちは。 もしかしたら。失くしたピン留めたちが累々と流れ辿り着き、集まり積もっている場所がどこかにきっと、あるのかもしれない。 どこかの島、どこかの国、どこかの星に。 『ピン留めの惑星』がどこかに。 学生時代、恋多き惚れっぽい男の子が、友人に恋の相談をしていた時に放った言葉が忘れられない。 「だってお前、ここ

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