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産業保健職のための疫学・統計学:基本事項1‐感度・特異度

とある学会で、新しい検査を提案する企業ブースが展示されており、感度と特異度がさいっこーに高いので、この検査は人類を救います!!!と売り込みをいただきました(フィクションです。)

医療の専門職でない会社の人事の人にはその売り込み文句で通用する可能性もあるのかもしれませんが、上のような売り込みを受けたときに、集団に対する予防医学の専門家である産業保健職としては、「寝言は・・・(自己規制)」と返す必要があると考えています。

そこで、知り合いの保健師さんに、

1)感度とか特異度とか覚えていますか?
2)検査前確率と陽性的中率の関係とか聞いたことありますか?

とリサーチしたところ、「なんとなく国試でやった気が・・・」という回答から完璧に理解されている方まで様々でした。個人的には感度と特異度、難解な概念に感じていたこともあり、誰かの訳に立つかもしれませんので記事にしておきます。

それでははじめてみましょう!

感度と特異度の説明

次のような状況を考えてみます。横軸が検査値で、一つ一つの点は人を表します。この検査値は何かの病気、例えば「がん」を見分けるための検査だとしましょう。

これらの中からえいやっと、何かしらの規準となる値(カットオフ)を決めて、そこより右側、検査の値が大きい人を検査陽性、そこより左側、検査の値が小さい人を検査陰性とします。(今回は、とりあえず、適当に100をカットオフとしてみます)

そうすると、陽性の人たちと陰性の人たちで分かれましたね。ここで、もし皆さんが特殊能力をもっており、実は病気がある人とない人を見分けることができるとします。


ただこれだけだとごちゃっとしてわかりにくいので、病気がある人とない人を上下に分けて書いてみましょう。

そうすると、たしかにこの検査の値は、病気があると高くでて、病気がないと低く出る傾向があることがわかります。

さて、今回、100という数字で陽性と陰性を切っていますが、この100という切り方はどれくらい妥当なのでしょうか?

まず、病気をもっている人たちに着目してみます。今回の場合は、100の右側に75人、左側に25人の人がおり、100人中、75%の人が正しく病気があると判断できています。このとき、病気がある人達だけを検査して、検査で陽性になった人の割合を感度と呼びます。これは検査が正しく陽性である人を見分ける確率です。また、もう一方の、病気があるのに誤って陰性としてしまう(偽陰性:ギインセイ)確率を偽陰性率と呼んだりします。

次に病気を持っていない人たちに着目しても同じように説明できます。病気がない人を正しく検査陰性とする確率を特異度、病気がない人を誤って検査陽性とした結果を偽陽性(ギヨウセイ)、その確率を擬陽性率とよびます。

このように、病気を持っている集団だけを検査した場合、病気を持っていない集団だけを検査した場合に検査の性能を言い表すのが感度と特異度というイメージを持っておくとややこしさが減るかもしれません。

さて、これまでカットオフを100として検査結果の話をしてきました。ここからは、もう少し簡単にするために、簡略化した図を見ていきましょう。

もし、カットオフを80であったり120であったりと変化させると、感度と特異度もそれぞれ変化するのですが、どのように変化するか想像できますでしょうか?

病気がある人ない人の検査値のかぶり具合から、感度を上げると特異度が下がる。特異度を上げると感度が下がるという関係(トレードオフの関係)があることを見て取れるでしょうか?

以上が、検査の性能を表す感度特異度の基本的なお話でした。

感度と特異度が両方高い場合、両方低い場合はどういう状況?

さて、感度と特異度がともに99.9%みたいな検査もあったりしますが、それはどういう状況でしょうか?ちょっと考えてみてください。


先ほどの説明の図を使ってみてみましょう。

いかがでしょうか?感度と特異度がともに高い状況というのは、単純に、病気を持つ人と持たない人との間での検査値のかぶりがすくない状況という解釈ができます。

ここまで理解できれば、感度特異度の話はおおむね大丈夫なはずです。ただ、この知識だけだと、「感度と特異度が高いのでこの検査は良い検査です」というセールストークの問題点に気づくのは難しいかもしれません。

「感度と特異度という検査の性能の高さ」と「実際に検査を社員全員に実施するべきか?(セールストークにのるか)」という問題には実は大きな解離があります。感度と特異度が高いから、その検査は良い検査という誤解について理解するためには、検査前確率、陽性的中率という概念の理解が必要となります。

この二つの概念は続きの記事で!




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