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2.産業医は労コン取って意味あるのかという闇

※ほぼ全文無料で読めますが、気が向いたら課金してもらえるとやる気が出ます

1.からちょっと間空いてしまいましたけれども、闇の落とし穴シリーズの2話は産業医・医師の間で人気急上昇?の資格、労働衛生コンサルタント(以下労コン)についてです。

なんでか、労コンは取得を勧めるお話や記事はそれなりに見聞きするものの、こういう内容の記事はあんまり見た事ないので、まあ興味があったら読んでみてくださいという感じです。

試験の内容や対策については今回あんまり関係ありませんが、
筆記は、手前味噌ですが自分のnote
労働衛生コンサルタント筆記試験対策(主に医師向け)

口述は、最近の電書をいろいろ見た感じだと
労働衛生コンサルタント口述試験 スライドイメージで覚えるまとめhttps://www.amazon.co.jp/dp/B08PB4MZZV/ がいいんじゃないかと思います。

まあ今回の記事読むと受ける気なくすんじゃないかという気もしますが…

■はじめに

労コンは産業医や産業保健職のみなさんの中でも、持ってる、取ろうとしてる、名前は知ってる、あんま知らない、といろいろ分かれる資格だと思いますが、産業保健職でない方はまずあんまり知らないと思うので簡単に説明しておくと、「事業場の衛生についての診断及びこれに基づく指導を行う」コンサルタントの資格です。つまり、企業の衛生管理の体制についてコンサルティングをするっていう仕事の資格。ちなみに業務独占ではないので、労コン持ってないとこの仕事ができないわけではない。

医師が取ることが多い資格ですが(特に保健衛生区分)、別に医師以外も取れる資格なので、認定医や専門医みたいなのとは全く性格が違います。

衛生管理の中でも特に健康管理については医師・産業医が大きくかかわる部分なので、産業医と労コンの業務範囲は重なっています。

■医者が労コン取る理由

さて、なんで労コンを取る医者がいるのかですが、自分の推測では下記のどれかまたはミックスだと思っています。

・労コン持ってると産業医講習受けなくてよくなる

これとても表現が難しいんですが、ほとんどの産業医が持ってる「日本医師会認定産業医」というのは、産業医をするために複数のルートがあるうちの一つにしかすぎなくて、「労コンをとる」というルートも存在してます。

産業医は、医師であって、以下のいずれかの要件を備えた者から選任しなければなりません。
(1)厚生労働大臣の指定する者(日本医師会、産業医科大学)が行う研修を修了した者
(2)産業医の養成課程を設置している産業医科大学その他の大学で、厚生労働大臣が指定するものにおいて当該過程を修めて卒業し、その大学が行う実習を履修した者
(3)労働衛生コンサルタント試験に合格した者で、その試験区分が保健衛生である者
(4)大学において労働衛生に関する科目を担当する教授、准教授、常勤講師又はこれらの経験者

(1)が普通の産業医講習のことで、(2)(4)はそのまま。
(3)にあるように「医師で労コン」だと産業医としての要件を満たし、しかも「合格した者」なので一回合格したら生涯有効っぽい。

お~認定産業医の更新はメチャクチャだるいからこれは便利だ!!お金もかかんないし。
※(1)もそもそも更新しなくていいだろ的な話はあとで触れますよ

・産業医としてなんか強そう

独立開業して事務所やってる産業医や、メディアで見かけるイケイケ産業医は結構な割合で労コンを持っており、経歴や資格の欄に書いてあることが多いです。Twitterでもbioに書いてあるのよく見ます。
ガチ系産業医あるあるで、大体「産業医/産業衛生専門医(指導医)/労働衛生コンサルタント/ …」の順番で書いてあります。

だいたいこういうの見ていると、「産業衛生専門医や労コンを持っている医師=産業医に専門性をもったすばらしい医師」という風に思えてきます。

あ~~俺も認定産業医は持っているけどそれだけじゃなんだか弱そうだし、なんかさらに資格をとって箔をつけてえ~、ただの認定産業医とは違う感じを出してえ~~、と思うのは人間のサガなので仕方ありません。

でも産業衛生専門医は道のりが長すぎて無理!!何年も研修してらんない!よ~しじゃあ一発試験でとれる労コン狙うぞ!これでイケイケ産業医の仲間入りじゃ!見とけよ!!!
という感じで取得を考える人はわりといるのではないでしょうか。

・仕事が増えそう

これ前の項目とも重なる部分ありますが、嘱託をたくさんやって活躍している医者はたいてい労コンを持ってる感じがあります。労コンなので産業医のプロフェッショナル!有害業務もお任せください!とかSNSのプロフィールに書いておきさえすれば

拝啓 スーパー労コン先生 御侍史

突然のご連絡失礼いたします。
私は株式会社〇〇の人事部長をしております■■と申します。
現在契約している産業医がとてもイケてないので、何卒クビにしたいと思っております。
そして先生のような、労コンをお持ちの素晴らしい先生にぜひ産業医をおねがいしたいです。
報酬は△△万円でいかがでしょうか。
お返事をせつにお待ち申し上げております。

みたいなメールがジャンジャン来て、
産業医紹介会社からも

前略 スーパー労コン先生 御侍史

いつもお世話になっております。エムスリーの■■です。
先生のような労コンをお持ちの素晴らしい先生に
産業医をしていただきたいという企業の担当者が、
エムスリーの玄関に列を作っており、ただいま5時間待ちです。
何卒お助け下さい!お引き受けください!!

というメールがジャンジャン来るに違いありません。
もうインデックス投資なんてやってる場合じゃねえ!労コン取るぞ!!

・収入を事業所得にできそう

(前回のnoteを読んだ方はもうオチを知ってると思いますが)
労働衛生コンサルタントは報酬を得て活動する、と法令で定められています。

労働安全衛生法 第八十一条 
2 労働衛生コンサルタントは、労働衛生コンサルタントの名称を用いて、他人の求めに応じ報酬を得て、労働者の衛生の水準の向上を図るため、事業場の衛生についての診断及びこれに基づく指導を行なうことを業とする。

このように記載があります。ということで労コンとれば給与所得ではなく報酬、つまり事業所得で申告することができるっぽく、経費なども認められ青色申告の特別控除65万円も使えるっぽいです。

こりゃいいことづくめなんでもう労コン取るしかないっしょ!

■そして私は…

そして私は×年前、浅はかにも上記のようなことを考え、主に「産業医として強そう」「仕事が増えそう」を重視しつつ労コン取得を決心、それなりに勉強したものの、サクッと取れたのでそれは良かったっちゃ良かったんですが、下記のようなしくじりが次々と待ち構えてました。

・結局認定産業医は更新する

労コン持ってるとそれだけで産業医の要件満たすんじゃなかったのよ、なんで更新するんだよっていう事になるんですが、確かに労コン持っている医者は法改正がない限り死ぬまで産業医として働けます。
働けるんですけど、認定産業医を更新しなければ当然ながら日本医師会認定産業医ではなくなります。

そうするとどうなるかっていうと、履歴書とかに認定産業医と書けませんし、書くなら「元 日本医師会認定産業医」となってしまい、追放された感すら出てしまいます。

つくづく認定産業医というものは名前が罪で、究極な話50単位寝とりゃあ取れる資格であるにも関わらず、「日本医師会認定」とつくことで素人目には「医師会に認定された産業医なんだ~」と思わせるという仕組みになっています。(寝てても取れたのは昔の話なので今は知りません)

なので企業は基本的に産業医=認定産業医という認識の人が多いですから、認定産業医を持ってないとか、認定証が期限切れ、とかだと、「なんでこの人産業医持ってないわけ?」と疑問に思う可能性が出てきます。

いや、違いますね、たぶん考えすぎで、企業はそんなこと実はあんまり疑問に思わないんですが、こっち側に「『疑問に思われるんじゃないか』という疑問」が出てきて、それを解消するためにいちいち履歴書等に
「認定産業医は更新しておりませんが、労働衛生コンサルタントを取得しているので、法令に基づき、産業医業務は可能となっております」と書くハメになったりして、だんだんブラックマヨネーズの漫才みたいになって疲れてきそうです。

あと、やっぱり知識はブラッシュアップしないとついていけなくなるので(特に法改正とか)、産業医研修会には参加したくなる。参加すると単位がついてくる。ということで、なんだかんだ単位もそこそこ集まったし、更新しとくか…という感じになりがちです。更新は5年で20単位なので新規取得の時ほどではないし。

とかいろいろなことを考えると、結局認定産業医は更新することになるんですよ。

そもそも破滅的なことを言うと、認定産業医だって一回取ってしまえば更新は不要、というバグみたいな解釈があります。

さっきの産業医の要件

(1)厚生労働大臣の指定する者(日本医師会、産業医科大学)が行う研修を修了した者

これ、修了って書いてあるだけで、別に更新しろとは書いてないじゃないですか。これだと屁理屈みたいなので根拠の法令もひもとくと

労働安全衛生規則 第十四条第二項一号
法第十三条第一項に規定する労働者の健康管理等(以下「労働者の健康管理等」という。)を行うのに必要な医学に関する知識についての研修であつて厚生労働大臣の指定する者(法人に限る。)が行うものを修了した者

てことで法令の方にも修了と書いてある。

どういうことかというと、
「認定産業医をとるための研修を修了することが必要なのであって、認定産業医の資格を維持することが必要なのではない」
という解釈が可能で、つまり認定産業医の更新どころか申請も絶対ではなくなる。契約する企業にここの説明をする手間さえ惜しまなければ、そもそも認定産業医そのものが不要ということになります。

※この解釈について労基署などにも聞いて明らかにしたブログがあったので
時間があれば読んでみてください。
もなかのさいちゅう|お墨が付かない産業医
http://m03a076d.blog.fc2.com/blog-entry-1948.html

というわけで、企業に対して「認定産業医って別に更新しなくてもいいんですよ、知らないの?」と説明する気合さえあればそもそも更新はいらないので、更新不要をメインの理由に労コンを取るのは無駄という結論になります。

・産業医として強いかというと別に…?

労コンはたしかに産業医業務に関係する資格ではありますが、そもそも「労働衛生コンサルタント」という独立した職業の資格なので、よく考えたら労コン持っているから産業医として強いという理論があまり成り立たない。

労コンは決して産業医の専門医資格じゃないわけで、産業医の専門医はそりゃもう産業衛生専門医で間違いないです。この辺は感覚的な部分なので人それぞれでしょうが、労コン取るくらいになると、というか取れるくらいの知識がついてくると、むしろ産業衛生専門医への憧れやコンプレックスみたいなのがムクムク湧いてくるんですよ。
自分は産業医をやろうとしている、でも専門医なわけじゃなくて、労コンという別の職業の資格を持っているだけ、そして労コン専業でやっていくわけでもない、中途半端な奴だなぁ、みたいな、そんな何ともいえない意識の中をさまようことになります。

あと、なんかガチの労働衛生コンサルタント(非医師の)の方に対して申し訳なくなってくるんですよね…
非医師の労コンの方は、医学的知識こそさすがに医師にはかないませんが、衛生管理全体については現場の知識含めて医師の労コン所持者よりべらぼうに詳しい。特に安全コンサルタントと両方持っている方とかは本当に事業場の頼りになる存在だと思います。

ちなみに産業医じゃなくて労コン専業でやっていく場合には、研鑽を積み、コンサルタント会が認定するCOH労働衛生コンサルタント(Certified Occupational Health Consultant)を目指すというキャリアもあります。

・仕事も増えない

そもそも皆さん、労コンのこと、産業医になる前に知ってましたか?聞いたことありました?
大体の人はないんじゃないかと思います。自分も産業医講習の時に初めて聞きました。

世の中の人、製造業や工場系じゃない企業の人が、労働衛生コンサルサント
と聞いてどう思うかというと

不動産相続コンサルタント
おそうじ収納コンサルタント
ラーメン店開業コンサルタント

みたいに、「特に資格じゃないけど自分で名乗っている〇〇コンサルタント」を連想するわけですよ。そもそもコンサルタントってつく国家資格って労コンとキャリコンくらいしかないので、〇〇コンサルタントに資格のイメージはあまりない。メーカーの防災系の人とかなら知ってるかもしれないな、というレベル。

親戚に工場で管理職やっている人がいて、労コン受ける前に「労働衛生コンサルタント受けるんです」と言ったら「おー、あれか!頑張ってね!」と言われたんですが、合格して報告のメール送ったらお返事に「労働安全コンサルタント合格おめでとう!」と書いてありました。
まあ今考えると安全分野に詳しい産業医って貴重なので労働安全コンサルタント資格の方がよっぽど欲しいかもしれんという話はあるんですが、とにかくそのくらい労コンの知名度は低いということです。

なので工場系以外の企業、特にIT系とかに対して「労コン持ってる産業医です!」っていうのは全然アピールになりません。まして業務独占の資格でもないし、そんな資格の有無はどうでもいいから、ちゃんと仕事してくれて人当りがいい医者選ぶわっていう会社が多いと思います。つーか正直工場でも同じで、労コン持ってるに越したことはないが、それ以上に「仕事内容」と「コミュニケーション」が重視されるのは言うまでもない。

病院の就職だと専門医の有無がある程度重視される、とかそういう話とは全然違います。病院は専門医資格がある医師が在籍していることを宣伝すれば集患=利益につながる面があるので専門医の有無はそれなりに考慮するが、企業はべつに「うちの産業医は労コン持ってます!」ってアピールして直接利益につながるような構造がまず考えにくいので、採用にそこまで影響しないと思います。

ということで労コン持っているだけでは仕事は増えません。
少なくとも自分は、「労コン持っているから」産業医やってください、となったような経験は一回もありません。さっき妄想したようなメールも当然ですが来ることはありません。

で、直接の利益につながりにくい以上、特に労コン持ってるから報酬があがるということもありません。
工場で有害業務ありまくって、既存の嘱託産業医がぜんぜんわからなかったから次はぜひわかる人を!っていうようなシチュエーションであれば労コンを盾に報酬に多少の色を付けることは可能なのかもしれませんがそんなのは限られているし、少なくとも従来すでに産業医としてかかわっている会社に「労コンとったから報酬あげてくれ」みたいな交渉はなかなか厳しいんじゃないでしょうか。だって企業が積極的に求めているわけじゃないし。

美容院で髪切っている時に、いつもの担当の人に
「あのー、お知らせがありまして、来月からトップスタイリストに昇格しますので、指名料が1000円高くなります」って言われたことありますか?
「いや、知らんわ…」と思いませんでしたか?あれと同じですよ多分。

紹介会社のほうはどうでしょうか?
紹介会社挟んでいても労コン持っているから給料が上がるとかはあんまり聞いたことないですね。
自分が知っている中だと1社だけ、労コン持ってると時給があがる会社があるっぽいですが、まあレアな例だと思います。

はい、この項目の結論としては、とにかく労コン取っても仕事は増えない、報酬単価も上がらない、ということになります。

・事業所得にはなんない

残念ながら事業所得になりません。
これは前回の闇シリーズに書いたのでご参照ください。

1.とりあえず法人化するという産業医の闇
番外:「労コン持ってたら事業所得」か?

補足しておくと、「労コン持ってても全部給与所得ですよ」という旨をわざわざ書面でくださった紹介会社を知っております。ありがとうございます。
絶対絶対事業の収入にしたい!ということなら、労コンの有無に関わらず法人化しましょう。
1.とりあえず法人化するという産業医の闇
でもそれにあたってはこれ↑を読んでくださいね(無限ループ)

■最低限の知識はあるっぽい感じにはなる

なんだか全然メリットが感じられなくなってきてしまい、せっかく労コンを取るぞという気分になっている先生方のモチベーションを叩き壊しているのではないかと心配です。

えー、当たり前ですが労コン取っても産業医として優れていることの証明にはなりませんし、それは臨床各科の認定医や専門医を持っていても決して「いい先生」とは限らない、ということとだいたい同じですね。

そういえば、2015年に車で暴走し池袋駅前のZARAに突っ込んだ医師の方がいましたが、彼は労コン持っていました。労コンまめ知識です。

ただ、寝て弁当食ってるだけでもとれる(?)認定産業医と違って、労コンは勉強して試験を受けなきゃとれないわけですから、「それなりに産業医やる気はあるんだな」「最低限の知識はありそうだな」という雰囲気は出ます。

自分が言える立場にないですが産業医ってのは超ピンキリで、下を見れば名義貸しだの、そもそも何も産業医のことわかんないけど産業医やってるだの、キリの先端はえらいことになってますが、少なくとも労コンもってれば流石にキリキリではなさそうだなとは思います。あくまで医者同士の中でですが。

正直、なんやら医者としての経歴がわけわからん、何科だったのかもわからんし、そもそもなんかの科だったことがあるのかもわからん、産業医名乗ってるけど何者なのかようわからん、という場合、
労コンと書いてあると、「ふーん、じゃあまあ、何もわかってないけどとりあえず産業医名乗ってます、という感じではないのか…」という感じは出ます。出るはずです。出てほしい。

■マイルストーンとして受ける

けっきょくお前は何が言いたいんだ、労コン受けるのやめろというのか、なんなんだと思われるかもしれませんが、自分が言いたいのは

何かを得ようとして受けるな
自分が今どこにいるのかの確認として受けろ

ということです。メリットを得ようとして受けたら、上記のように、取得後にこんなはずじゃなかった、と思うことになります。
労コンの勉強を通して、自分が今どのくらい知識があるのか、自分に足りない知識はどのへんなのか、ということを最低限ながら確認できます。
そして取ったあと、さらに現場の産業医として研鑽を続けるとか、専門医を目指すとか、いろいろな道があります。それぞれの道に進んでいく分岐点にある、マイルストーンとしてゆるく考えて受けるのがいいんじゃないでしょうか。

■最後に

産業医は臨床と同じで全クリはありません

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労コンとった段階っていうのはまあこんな感じですよね。
俺はようやくのぼりはじめたばかりだからな、
このはてしなく遠い産業医坂をよ…

なんだか真面目な終わり方になっちゃいましたね。実はけっこう根が真面目だから仕方ないですね。次回はもっと下品にいきたいと思います。

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