ちゃんとさせるソファ
新宿で4時間ほど時間を潰さなくてはいけなくなり、カラオケ屋に入った。普段はカラオケと距離をとった生活をしているので入るのは久しぶりだ。受付の店員がびっくりするくらい愛想が悪かったが、カラオケのバイトってこのくらいのモチベーションでいいよな、とちょっと嬉しい気分になった。
部屋にはカラオケの機械とテーブル、ソファのみが設置してある。居心地よくしようという気などさらさらない殺風景な部屋だ。歌うつもりのない者にとってはなんの感情も想起しない全くもって「無」の部屋である。よく見ると壁紙にたくさんの鳥たちが描かれていたり、合皮のソファはツアー旅行のチラシの紅葉くらい真っ赤だったりするのだが、そういった主張の強い要素が奇跡的なバランスで互いに打ち消しあい、なんの印象もない部屋を形成しているのだ。
眠かったので少し仮眠をとろうと真紅のソファに寝転がった。が、体勢がしっくりこず体を少し動かす。足を投げ出したり、上に乗せてみたり、仰向けになったり横を向いたり。色々と試してみたが、どれも今ひとつだった。どの体勢でもソファのどこかしらが体の嫌な位置に当たるのだ。どうやらこのソファの形状は、人間が絶妙にリラックスしづらいもののようである。その後も少し粘ってみたが、結局寝るのは諦めて普通に座ることにした。
あまりに心地がよくて「人をダメにするソファ」というものがあるが、このソファはその逆だ。「人をちゃんとさせるソファ」である。疲れている人間が仮眠を取らずに座って作業をし始めたのだから間違いない。僕は割とどこでもすぐ寝れると自負しているので、これはすごいことなのだ。
もし自室にこのソファがあればいろいろなことが捗るのかもしれない。だが、この色味、この質感のソファが自分の家にあると思うと気がおかしくなりそうなので、きっとやめておいた方がいいのだろう。
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