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秋の夜の高校生

長かった残暑がようやく落ち着き、吹く風に秋を感じる。そんな、寂しくも気持ちのいい夜の帰宅途中。道の向こうから男子高校生三人組が歩いてくるのが見えた。部活帰りだろうか。楽しそうに談笑しながらふらふらとこちらに近づいてくる。すれ違う瞬間、彼らの会話が耳に入った。

A「俺、中学の時かわいい女子トップ3と付き合ったぜ」
B「マジで!?」

外部に聞かせるつもりが微塵もない高校生の友人グループ内でのやり取りならではの、「ザ・馬鹿みたいな会話」である。狙ってやろうとしてできるレベルではない。「かわいい女子トップ3と付き合った」というフレーズの破壊力たるや。ここ最近の世の中のゴタゴタなど無かったかのように、無駄なエネルギーに満ち満ちている。

個人的な印象としては、Aの発言の信憑性は、ちょうど青森の「キリストの墓」と同じくらいだ。もしくは貼るだけで健康になれる金色のシールと同じくらい。だからこそ、間髪いれずに「マジで!?」と返してくれるBの存在を大事にしろよ、という気持ちになる。こんな奴なかなかいないぞ。

二人のやり取りのあと、Cは何と言ったのだろうか。「嘘つけ!」と否定に回ったかもしれないし、「そもそも女子に勝手にランキングをつけるのは失礼だ」と諭したかもしれない。「は?俺も付き合ったし!」と張り合ったかもしれないし、「マママ、マジでーーー!?(白目剥いて倒れる)」とBより大きめのリアクションをとったかもしれない。その内容は永久に謎のままだ。

何にせよ、いい関係の三人だな、と思った。彼らの付き合いは、もしかしたら一生続くかもしれないが、連れ立ってダラダラと夜道を歩ける期間は限られている。そんな貴重な時間に交わされた、どうしようもないけどどうしようもなく掛け替えのない会話。たまたまその一部分を聞くことができたのは、実はすごく幸運なことだったのかもしれない。

秋の風が涼しい。この風はあっという間に冷たくなり、気づけば冬になるのだろう。その時彼らはどんな会話をしているのだろうか。また聞けることはあるだろうか。

僕は歩みを速める。

なんだかちょっと感傷的な気持ちになってしまう。

が、20メートルほど歩いたところで我にかえり、別に彼らの会話をもう一度聞きたくはないな、と思い直した。


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