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夏がこのくらいの感じだったらいいのに

細々した用事を済ませに天神を歩いていた。外は暑いが、風が吹くと爽やかさも感じられる。気持ちのいい気候だなあ、と思いながら歩いていると、すれ違ったカップルの女性の発言がたまたま耳に入った。

「夏がこのくらいの感じやったらいいのになあ!」

めちゃくちゃわかる!と思った。夏真っ盛りの時期がちょうど今ぐらいの体感だったらどんなにいいだろう。夏の良さと快適さを両立できるいいバランスの気候。それが今なのだ。気持ちよさだけでいうともう少し前の時期になるのかもしれないが、重要なのは夏らしさもしっかり感じさせつつ、というところ。ちゃんと「暑い」のだけどそんなに嫌じゃないくらいの絶妙な塩梅。それが今という感じがした。

きっと彼女の言葉が聞こえる範囲内にいた人は全員「たしかに!」と思ったと思う。漫画なら全員の頭上にモクモクしたタイプの「たしかに!」という吹き出しが浮かぶことだろう。人それぞれ思想信条は様々でそれは尊重されるべきなのだが、その異なる価値観を超えて分かり合える奇跡のような瞬間。それが今だったのかもしれない。

そしてすぐに、「夏だったらベスト」という気候が六月上旬に訪れているという事実に思い至り、今後の数ヶ月を思って少し暗い気持ちになった。時期に、無邪気に「気持ちいいなあ」なんてことは言っていられなくなるのだ。皆の頭上に「地獄」の吹き出しが浮かび、その吹き出しさえも熱で歪む。もはや暑いというより熱い。暑いと言ったら百円とか言ってはしゃぐ気にもならない。

そんな現代の夏が、今年もやってくる。

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