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脅迫文展示とワークショップ

福岡のブックバー「ひつじが」で展示イベントを行った。古雑誌を使って作った「脅迫文」の展示だ。もちろん本当に脅迫目的ではなく、以前ライブでネタとしてやるために作ったものである。「◯◯しろ。さもないと××するぞ」的な文章を雑誌を切り貼りして作るのだが、一冊の雑誌のみを使って作ると内容になんとなくその雑誌のカラーが出て面白い。そうして様々な雑誌を使って作った十数点の「脅迫文」を展示させてもらったのだ。

雑誌を切り貼りして文を作る遊びは過去にも経験がある。学生時代狂ったように投稿していた週刊ファミ通の投稿ページ「ファミ通町内会」の「文コラージュ」というコーナーだ。雑誌や新聞の見出しの大きい文字ではなく、活字本の本文部分を切り貼りして奇天烈な短文を作り出すというもので、やってみるとわかるが一つ作るのにものすごい労力がかかる。自分でも送っていたが他の人の作品にはどうしても敵わず、掲載作品を見ては腹を抱えて笑っていた。当時の投稿者「とがわK」氏のTwitterで過去ネタがいくつか見られるので気になる人は見てみてほしい。

最近も新聞の文字を使って川柳を作る遊びが流行っていたし、人間には本能的に文字を切り貼りしたいという欲求が備わっているのかもしれない。だからというわけではないが、せっかくなので参加型のイベントもやろうということになり、ひつじがの店主と話して「脅迫文ワークショップ」をやることになった。お題の雑誌を用意して参加者に脅迫文を作ってもらうのだ。やりたい人がどのくらいいるのかまったく読めなかったが、ありがたいことに二回回しできるくらいの人数が申し込んでくれた。脅迫文を作りたい人は世の中に意外にたくさんいる。

ワークショップ当日。参加者には二つの雑誌からお題を選んでもらって90分で脅迫文を作ってもらうという段取りになった。最初に軽く作り方を説明するが、僕が言えるのは「まずは『さもないと』を作る」「少しでも使えそうな文字はとりあえず切り出す」くらいなもので、あとは各々でやってもらうしかない。脅迫文を作るのは初めてという参加者ばかりだったので不安もあったが、自分も参加者に混ざって作品を作ることになっていたのでひとまず目の前の作業に集中した。

脅迫文を作っていると90分はあっという間だ。それだけ集中力のいる作業なのである。一度でも脅迫文作りを経験した人は、今後切り貼りの脅迫文を目にした際、犯人に親しみを持ってしまうことだろう。もちろん犯罪はよくないが、それはそれとして。そして、犯罪とは無縁の(多分)参加者たちは制限時間内に見事に脅迫文を完成させていた。さすがは日曜日の昼間にわざわざ脅迫文を作りに集まった人たちである。気合いが違う。

最後に全員で輪になり、できた脅迫文を一人ずつ発表していった。いまいち面白がれないような作品が出てきたらどうしよう、と生意気にも心配していたのだが、結果的にそんな心配は杞憂だった。参加者全員が、それぞれに個性あふれる面白い脅迫文を作り上げていたのだ。

脅迫文にコツも何もないのだけど、強いて言えば、面白くしようとしすぎると全然面白くない文章になる、というものがある。僕は元々お笑いのネタ用に作ったこともあり、エッジの効いた単語をてんこ盛りにしてなんかつまらなくなる、みたいな経験がけっこうあったのだ。足しすぎるとよくない。バランスが大事。引き算こそが脅迫文の美学なのである。

そういう意味で、参加者の作品はどれも素晴らしいバランスで成り立っていた。完成させることが一番の目的であり、「面白くしよう」という欲がそこまでないのがよかったのかもしれない。僕には到底思いつかないようなフレーズや表現が多々あって、同じ材料で作ってもこんなに世界が広がるのかと感動した。それと同時に、自分の脅迫文がいつのまにか型にはまったものになっていることにも気付かされた。それ以前に、脅迫文に型があることにも気付かされた。脅迫文はもっと自由でいいのだ。

ワークショップは盛況のうちに(盛況の定義は知らないが言ったもん勝ちだろう)終わった。予想していたよりずっとレベルが高くて面白かったし、脅迫文の奥深さを知ることができてとても楽しかった。これでいつでも脅迫できますね、的な小粋なジョークを交えつつ皆で記念写真を撮り、解散した。

さほど道具もいらないしお金もかからない。脅迫文作りは、意外とハードル低く万人が楽しめる趣味になり得るのではないか。機会と需要があればまた展示をやりたいな、と思った。

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