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5月の明け方、尻にパンツ食い込んで

尻にパンツが食い込んでいた。なんとなく直すのも面倒で、尻にパンツが食い込んでるな、と思いながら明け方の街を歩く。通り慣れた道の景色はいつもと変わらない。違うのは、僕の尻にパンツが食い込んでいる、ということだけである。

尻にパンツが食いこんでるな、と思いながらコンビニに入る。店内には、尻にパンツが食い込んでいる僕と、恐らく尻にパンツが食い込んでいないであろう店員の二人だけ。食い込んでる側と食い込んでいない側のパワーバランスが均衡している状態だ。その場合、バックヤードから出てくるもう一人の夜勤バイトによってどちらが多数派になるかが決まるわけだが、万が一バックヤードの夜勤がパンツを穿いていなかった場合、食い込んでる、食い込んでない、ノーパンの三つ巴の構図となる。そんな戦況分析を、尻にパンツが食い込んでるな、と思いながら行う。

尻にパンツが食い込んでるな、と思いながらレジに向かい、尻にパンツが食い込んでるな、と思いながらいつものブレンドコーヒー(M)を注文した。店員には「ブレンドMの人」と認識されているので、注文と同時に目の前にカップが置かれる。僕は尻にパンツが食い込んでいるな、と思いながらスマホを操作してPayPayの画面を見せた。いつも通りのルーティーン。尻にパンツが食い込んでいようが乱れることはない。

店員が画面のバーコードを読み取る。僕は尻にパンツが食い込んでるな、と思いながらご機嫌な「PayPay!」の声を待った。が、何秒待っても「PayPay!」の声は聞こえてこない。おかしい。あと、尻にパンツが食い込んでいる。画面を見ると、「オートチャージ失敗」という文字。どうやら紐付けている銀行口座からチャージができない時間帯らしく、残高不足で支払いができなかったらしい。なんてこった、コンビニにはスマホしか持ってきていないし、尻にはパンツが食い込んでいる。僕はしどろもどろになって「あ、なんか、チャージが、できないみたいなんで、あ、やっぱ、大丈夫です…」とごにょごにょ言いながら店を出た。

尻にパンツが食い込んでいるな、と思いながら手ぶらで来た道を戻る。まだ5月半ばだというのに、微かに夏の朝の匂いがした。野良猫が気怠そうに道を横切る。尻にはパンツが食い込んでいる。

今日は暑くなりそうだ。僕は軽くのびをすると、尻に食い込んだパンツを引っ張って戻した。

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