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エアコン掃除の夏

2021年夏。部屋のエアコンを掃除することにした。と言っても自分でやるわけではない。業者に頼むのだ。餅は餅屋、エアコン掃除はエアコン掃除屋である。エアコンに餅が詰まった場合は両方呼ぶべきかもしれないが、今回は幸いにも餅は詰まっていないため、清掃業者のみで事足りる。

実はコネがあった。同期の芸人が仲良くしている清掃業者があるというので紹介してもらえることになったのだ。仲良くしている清掃業者って何だよ、と思ったが、そいつは月一でタダで部屋の掃除をしてもらっているという。何がどうなったらそんな関係になるのか不明だが、恐らく一度河川敷で殴り合うなどしたのだろう。僕も割引価格でエアコン清掃をしてもらえるということなので、全力でお言葉に甘えることにする。

部屋を訪れたのは、30代くらいの男女だった。恐らく夫婦だろうな、と思ったが、「ご夫婦ですか?」などと聞くことはしない。間をつなぐためにさして興味もない相手のプライベートをほじくるのは最悪の行為だからだ。逆の立場だったら「なんでテメェの会話スキルの無さを俺らの身を削って補填しないといけねぇんだよ殺すぞ」と思うだろう。多少の気まずい沈黙くらいは甘んじて受け入れるべきだ。

2人は早速作業を開始した。テキパキとエアコンのカバーを外し、羽根を外し、なんだかよくわからない部分を外していく。プロ特有の無駄のない動きは見ていて気持ちいい。普段、ちょっと気になるお店を見つけて入ろうかな〜と思いながら歩いて入るタイミングを逃し、そのまましばらく意味なく歩き続けて良き所でUターン、再度店の前に戻ってくるもなんか勇気が出ず結局入らずに通り過ぎる、みたいなことばかりしている人間からすると尊敬しかない。

そして二人は巨大なビニールでエアコンを覆うと、先端から水を噴射する高圧洗浄機、通称リヴァイアサン(予想)で内部の汚れを落とし始める。「シュゴーーーー」リヴァイアサン(予想)の咆哮と共に、ビニールを伝ってバケツに真っ黒に汚れた水が溜まり始める。こんなに汚れていたとは。見ているだけで気持ちがいい。汚れた水の写真を撮りたいが、スマートフォンを二人の向こう側の机の上に置いてしまっていた。写真を撮るためには、一旦作業中の二人の横を「ちょっとすいません」と通らざるを得ない。「あの人めちゃくちゃ写真撮りたかったんだな」と思われそうで恥ずかしいので、結局写真は諦めた。

作業は1時間弱で完了した。あっという間だった。もし自分でやっていたら、途中で何もかもが嫌になって床に寝転がり足をバタバタしながらおいおい泣き出していただろう。料金もだいぶおまけしてくれて、ファイナルファンタジー8より安いくらいの値段だった。やはり持つべきものは清掃業者とのコネのある同期である。

掃除したことでエアコンの効きも良くなった。今まで部屋の広さに対して馬力が足りていないということもあり、16℃設定で最強の風速にしていても外からの暑さに競り負けていたのだが、掃除後は24℃設定でも十分に部屋が涼しくなるようになったのだ。ビフォーアフターのインパクトでいうと、イケイケだった時代のライザップのCMに匹敵する。

軽い気持ちでやったエアコン掃除だが、結果は大満足だった。もし絵日記の宿題があったら、確実にこのことを書くだろう。絵は汚れた水の入ったバケツだ。普段は存在感の薄い灰色のクレヨンが大活躍することになるはずだ。

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