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【感想】アニメ怪獣8号、そしてゴジラはベトベトさんであるという話

大好きな漫画がアニメ化するのはいつだって期待と不安でいっぱいですが、怪獣8号のアニメはとにかく期待を上回ってました!
漫画では少しのコマや絵で語られていた怪獣の解体処理が、アニメになるとこんなにグロ…いや、リアルで迫力あってすごかったです。

さてさて、日本の伝統芸ともいうべき怪獣映画の流れを感じるこの怪獣8号ですが、今までのゴジラとは若干雰囲気が違うな?と漫画の頃から感じていました。
それはこの怪獣8号に出てくる怪獣が、地震をモチーフに据えている点です。
怪獣の強さの尺度を「フォルティチュ―ド」、大きな怪獣を「本獣」、そのあとに出てくる小型の怪獣を「余獣」と呼んでいるところから明らかです。
もちろんこれはマグニチュード、本震、余震を踏まえた造語です。

今、日本人が心の底で恐れているのは地震です。ある日いきなり地面が液体のようにぐにゃりと歪み、堅牢なビル群は脆く崩れ、そのあとに襲う津波が瓦礫の街を押し流していく。阪神淡路大震災、東日本大震災、更には能登半島…
いつ私達の街が、家族が、瓦礫の下に埋もれてしまうかもしれない。明日の保証なんてどこにもない。だけど、それを考えるととても怖くなるし、また考えても対処しようがありませんよね。どんなに防災用品を備えていても、今天井が落ちてきたら即死ですからね。

そんな不安感を拭ってくれるのがフィクションです。
怪獣8号は地震をモチーフにした怪獣と人間が戦う話で、「目に見えない恐怖に具体的な姿を与え、対処することでカタルシスを得る」作用があります。
日本映画に於ける怪獣といえばやはりゴジラで、水爆の実験で生まれた怪獣という設定です。
日本は世界で初めて原爆を落とされた国で、放射能による恐怖をよく知っている国でもあります。ゴジラは戦後の日本人に残っていた戦争の苦い記憶と核への恐怖を具現化し、立ち向かう人間を描くことがカタルシスとなり得ました。
これは妖怪ベトベトさんと基本的には同じです。
ベトベトさんは夜に道を歩いていると後ろからついてきて、「ベトベトさん、先へお越し」と言えば追い越してくれるという、対処法も含めて広まっている妖怪です。
昔は今ほど街灯も整備されておらず、夜道は足元さえまともに見えないほどの真っ暗闇でした。だからこそ姿の見えない何かがついてきているような恐怖があり、その恐怖に「これはベトベトさんという妖怪だ」と具体的な名前を与え、「先へお越し、と言えば大丈夫」と対処することで安心出来るわけです。

核の恐怖を具現化し、ゴジラという名前を与えられた怪獣は、最後には海へ帰ります。
夜道の恐怖を具現化し、ベトベトさんという名前を与えられた妖怪は、「先へお越し」と言うことで去っていきます。
そして怪獣8号は地震への恐怖を具現化しているため、ゴジラとは恐怖の根源が変わっていますね。

金ローで放送されたすずめの戸締りも地震を描いた物語です。村上春樹は震災をテーマにした短編連作「神の子供たちはみな踊る」を書きました。おそらくこの流れはしばらく変わらないだろうな、と思います。
ジブリ映画に繰り返し登場する「核の恐怖」は、宮崎駿さんにとって創作のモチーフになりやすかったのだと思います。他の創作においても「過ぎた科学が人類を滅ぼす」のが、一種の流行りでした。
今の、そして今後も長く描かれるだろう恐怖のモチーフが自然災害なのは、なんだか原点回帰したようで不思議な感慨があります。
多くの神話で様々な自然災害が物語として語り継がれているのも、正体のわからない恐怖を物語化する原始的な働きからだろうと思いますし。

とはいえ、怪獣8号は地震に立ち向かう人を描いた震災物語ではなく、あくまで怪獣漫画、バトル漫画です。私もそのつもりで楽しんでいます。
あくまで物語に於ける恐怖のモチーフが核から地震へ移行していったんだなと感じた、私の個人的な感想です。

怪獣8号、子供も大ハマりしてみているので今後も楽しみです!

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