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2022→2023 special interview❶


Interview&Text by Yurie Kimura

*スパイス越境を始めて変化したこと、気づいたこと

――2022年を振り返って思うのはどんなことですか。

 スパイス越境も来年3月で丸2年。お店をやって、歌も歌ってというペースにだいぶ慣れたし、落ち着きましたね。

日々は前よりずっと忙しい気がするけど、あたふたせずにやれているというか。名古屋くらいまでなら、お店の営業を終えてからライブに行ける体力もついたし。

あとすごい朝型の人間にもなりましたよ。毎朝5時とか6時に起きて、保育園に行く娘を起こす8時半くらいまでが自分ひとりの時間で、その間にメロディを考えたり曲を書いたりしています。

夜更かしをしなくなったら、体調もすごくいい。お酒は相変わらずですけどね(笑)。

――タバコは数年前にやめたんですよね。


 2019年にフジコさんに勧められた“読むだけでタバコがやめられる”みたいな本を読んだだけでやめられましたね。お酒を飲んでも少しも吸いたくならない。喉にはすごくよかったみたいで、声の立ち上がりが速くなったしファルセットもスッと出るようになりました。

――歌うたいは身体が楽器ですから、コンディションがいいのは何よりです。

あと娘を保育園に送るとか洗濯するとか店の仕込みをするとかはっきりとした目的があったり、何かをやりながら音楽をやることが、自分にとっては非常に大事なんだというのを今、学んでいます。

そういうのは自分には向いてないと思って、音楽のことだけを考えて日々を送る人生が長かったんですけど、違ったみたいです。

よくよく考えると、学校に行きながら音楽をやってた高校時代はすごく調子がよかったんですよ。

音楽ひとつに絞っちゃうと、時間があり過ぎて考えが難しい方へ向かってしまい、それで「もう壊しましょう!」みたいな思考回路になっていたんだというのも、よくわかりました。

やることが決まっていて、ルーティンに乗っていると調子がいいし、精神的にもそんなに落ちない。基本的に心はすごく強いみたいです。

夏休みの宿題も、本当は最初の1週間で終わらせるタイプだったのかもしれない。
“ロックとは”みたいなことも含め、ガキの頃からそうじゃないキャラを自分で設定したんでしょうね(苦笑)。


*時代の空気の重さを感じて

――接客業も意外と性に合っていた、ということでしょうか。


スパイス越境はオープンキッチンでしょ。俺、ずっと見られてるのは得意なんですよ(笑)。しかも営業時間はちょうど2時間半だから、ほぼライブと一緒。だからできるんだと思います。

で、自分のライブでダメなところもやっぱりお店で出てしまう。テンパると愛想がなくなるとか「わー、考えられないわー」と思うとすぐそれが表情に出ちゃうとか。

ライブの看板は大森洋平だから、何をしてもそれは俺の責任になるけど、スパイス越境のメインはフジコさんですからね。お店をやることで、何があっても笑って堪えるという心の鍛錬をさせてもらってる気がします。

そういうのは初めての経験ですけどね。堪えるものが日常にあるから、感情を抑える必要のないステージに上がった時の喜びは大きいし、ライブの本数はコロナ禍前よりまだ少ないから、歌える喜びも前より明確にある。

一本一本を大事にしたい気持ちもずっと強くなっています。


――2022年ウクライナで始まった戦争は、どんな影響を与えていますか。

 俺は(ジョン・レノンの)『イマジン』至上主義というか、ロックは戦争に反対するものだと教えられて育った世代なんですよ。何をおいても戦争はしちゃいけないんだということを伝えていかなきゃいけないと思っているんですけど、軍備を増強しようとする体制側を支持する人も多かったりして、戸惑うことは多いです。

かつて俺たちが忌野清志郎さんのシンプルで、でも強烈な「戦争反対!」って歌う姿に感動したようなことを今の人が感じるのかどうか・・。

戦争が起きて殺されるのは普通の人たちじゃないですか。だからこそ戦争は絶対にしちゃいけないって、思うだけなんですけどね・・。

――12月9日の吉祥寺のライブで「些細なことが大事だ」と話してました。その思いを強めたのもウクライナで起きたことだったりしますか。

 コロナ禍に入ってからずっと感じていた“一日一日の大切さ”みたいなものが、さらに重みを増したのは確かですね。他にもいろんなことがあって時代の空気そのものが重くなっているじゃないですか。

だからせめて俺のライブに来た人たちには、心に引っかかっていることを全部忘れて楽しんで欲しいと思う。

それで暗い曲や重めの曲より明るい曲を選んだり、最後はバラードじゃなくて『Adieu!』みたいな元気な感じで終わることが増えましたね。

(❷へ続きます)

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