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推しの作家の事。って言いながら「推し」って言葉を使ってみたかった。

昨日、近所の公園に桜を見に行ったら、結構な人出だった。

桜の咲いた坂道を降りようとして結構な急斜面ねと思ってみていると、80代前後の先輩が通り過ぎながら「ほら、こうやって足を逆八の字にして降りると、滑らないし膝が楽なのよ」と。
真似してみたら本当だった。
ありがとう先輩。

それはさておき、文章を「書く事」と「読む事」って同じではないんだなと改めて思った。

文章を書くのが苦手っていう人もいる。宿題は読書感想文ですってなった時のクラスの「えーーー」ってお決まりだったような気がする。

それは読んで字の如く「文章を書くのが苦手」というそのままを表すのか、書いてしまったらそれを「読む人」が出てくるかもしれないから苦手なのか、苦手って一言で言っても苦手な部分が人それぞれなんだろうなと思う。

「読む事」の方は読んだ人の頭の中にしか結果が出ないから、その人が自分と同じ文章を読んだとしてもどう思ったのかなかなか理解するのが難しい。

国語にもテストってのがあるくらいだから、ある程度の基本的なことは「読めてる」のか「読めてない」のか判断できる仕組みがあると言えばある。

それを考えると読書感想文なんて「読む事」と「書く事」の合わせ技だから確かに「えーーーーー」だよな。

それはそうとAmazonとかに書評が書いてあるところがある。
本を買う前には読まないけれど、読んでみて面白かったりしたら、同じ本を読んだ人はどう思ったのかなあと、読んでみる事もある。

そんな中で、同じ本を読んでも自分とは感じ方が全然違うんだなあと思うものに出くわす事がある。

「ファンタジー小説なのに、比喩とか文学的表現が多すぎて私には苦手でした」と書かれていた。その本を読んだ私はお話もそうだけど、中に織り込まれたそういう部分の表現が好きだったので、なるほどそういう感想もあるかと思った。

でもこれは本に対する批判ではなくて、その人の好みに合ったか合わなかったかっていう、具体的な意見だ。なんの偏見も曲解もない、素直な感想。

感じ方は人それぞれで、それでも同じ本を選んで読んで、読みながらいろんなことを考えたんだろうなと思うと「自分と違った感想」もたくさん聞いてみたくなる。

同じ本を同じ人間が読んでも読後感は変わる。

学生の頃「ローレンス・サンダース」の「ルーシーの秘密」を読んだ時にはその文章はあんまり引っかかってこなかった。
なのに、去年読み返した時にはマーカーが引かれているかのように目に飛び込んできて、今では誦じれるほどだ。

泣くのをこらえて考えた
我々は全て偶然によって作られた生き物だ
名状し難い恐怖の犠牲となり、実態のわからない欲求に突き動かされ
死ぬまでひた走り挫折を繰り返す
苦痛に叫びをあげ 大声で笑いながら
我々は全て闇から生まれた子供だ
めいめいの人生のストーリーを作り上げていくのだ

ローレンス・サンダース著「ルーシーの秘密」

そうこれは抜粋にしかすぎない。長いお話の中の一部分。
だからここだけ拾い上げても大したことはないのかもしれない。

ローレンス・サンダースの本に最初に出会ったのがこの「ルーシーの秘密」だった。

その時は何かがひどく気に入って、その後、翻訳されているものもされていないものも集めて全部読んだ。
一度ではなく全部2-3回は読んだ。

その時買った「ルーシーの秘密」は面白かったので人に貸してしまった。
本は人に貸してはいけない。気に入った本ほどなぜか帰ってこない。

長いこと手元になくて、去年やっと手に入れた。時折思い出しては古本屋さんとかでみたりしてたけど、全然出会えなかった。
Amazonに中古の本が売っててよかった。

ローレンス・ダンダースの本を全部読んだあとにもう一度読んだ「ルーシーの秘密」

最初に読んだ時、こんなこと書いてあったっけっていうくらい気にもしていない文章だった。

そして私が一番気になったのは「泣くのをこらえて考えた」という一行目。
後に続く文章はそんな風に感じている人は多いだろうと思われる感覚だから、書き方は違っていてもいろんなところで目にする表現だと思う。

この作家が生涯を通して書きたかったことは「泣きたいほど、すぐにでも泣きたいほどのどうしようもない出来事や状況が目の前にあっても、それをこらえてまで考えなくてはいけないことがある」ということなんじゃないかなと思ってしまった。

感情も思考もほとんどの人間に備わったものだけれど、どちらかだけに偏るとその先には進んでいけないし、問題は解決しない。

一冊しか読んでなかったら、その部分にマーカーは引かれていなかったと思う。

ウイットに富んだ探偵物や、誰にでもある心の闇にふとしたきっかけを与えて表面化させ取り返しのつかない物語を紡ぎ出し、長年連れ添った夫婦のさりげない会話から愛情っていいなと思わせてくれて、冷蔵庫のありもので作るサンドイッチを立ったままシンクで齧り付く楽しさを教えてくれた。
それを全部1人の作家が描き出している。

おまけに彼の出版物を全部読んだからって、彼の事など何も知らないのと変わりない。

全部読んだこともないのに抜粋や一言だけで「おおっ」と言わせる「シェークスピア」や「ニーチェ」とは格が違うのかもしれないけど、嫌なことや納得のいかないことがあった時に「泣くのをこらえて考えろ」と自分に言って聞かせるくらいはいいよね。






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