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夢で逢えたら

夢で逢えることを望む人がいないわけではないが、それが叶うことをことさら願うわけではない。
亡くなった父母はいつもそばにいる気がするし、なんなら神様みたいな方も見ているんじゃないかと感じるので(気のせいか)寂しくはないのだ。


つい先日、明け方の夢の中でわたしはある男性と話をしていた。
その人は7年近く前に知り合った人で、わたしが会った男性の中で最もイケメンで高身長で体脂肪率が低かった。
とても不思議なひとで何をしている人か、絶対に教えようとしなかった。いろいろ推理して当てようとするのが面白いのか、悪戯っぽい目の奥が光っていたが、とうとう最後まで謎のままだった。


出会いはBARということもあり、本名も知らなかった。
下の名前だけ教えてくれたが、渾名だけで通す人もいる、こういう場所ではそういうもんだよと笑っていた。
嘘をつく必要もないし、隠す必要もないと思ったが、わたしも名前だけしかいわなかった。


会うのはいつもその店でだけ。
大雑把な住所は知っていたが、まあまあの距離がある。仕事帰りに車かバイクでやってくるので、店に来ても酒は飲まない。
再婚だという奥さんとの間に3人の子供と彼女の連れ子が1人。


不倫とか遊びたいなら俺ではなく他をあたってくれ。
最初にそう言われた時に何を言ってるんだと思った。四十七番目の女にしてあげようとか続けてきたので、結構と答えたら、じゃあ十二番目の女にするという。
ふん、と鼻先で笑って答えた。
わたし、ひとに順番つけるのって嫌いなの。
一番だろうが、ケツだろうがまっぴらごめんよ。
それを聞いて頭を掻き、少し俯きながらごめんと謝ったから許してやった。

メールアドレスは勝手に携帯を取り上げられて登録された。
俺のはすぐ覚えられるから。名前×6回。
何かあったら連絡して。
店に行く際に、今日行くけど来られる?
と送るとすぐに返信があった。
仕事がまだあるけど20時過ぎまでにはなんとか終わらせるよ。
そうメールの文面通り、時間に間に合うように急いで駆け込んできたりする律儀なひとだった。


一緒にいて楽しかった。
危ないからと何度か家の近くまで送ってくれたりもした。
しかしなんとなくその店から足が遠ざかっていった。喧嘩したわけでもなく、痴情のもつれなんぞもなかったが、きっと幕引きだったのだろう。潮が引くように、2人の感情が離れていった、のだと思う。



メールアドレスは消した。
電話番号もない。
連絡する手段は何一つない。
あの店ももうないかもしれない。足を運ぶ気もない。
ずっと忘れていたそのひとが夢の中でわたしに問い詰めるように何か言っていた。
本気かどうかを確かめていた。
わたしはなんて答えたらいいのか言葉を探していた。
そして目が覚めた。
夢の中でも浅黒い端正な顔立ちは変わっていなかった。
何を今更聞きたかったのだろう。
もう遅いよ。

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