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君と暮らすということ

もう何年も一緒に居る気がする。
でも実際はまだ半年も経っていない。
最初は遠慮しがちで、違うと思うことも飲み込んで、勝手に腹を立てて、嫌なことを考えると止まらなくなって苦しくなって、最後は決まってひとり隠れて泣いた。

君と一緒にいるってきっと『楽しい』が何倍どころか何乗にもなると思っていたのに。
なんだ、こんなにも思惑どおりにいかないのか。
生活することは現実に生きること。
息するだけでもお金はかかる。
目を瞑ってなんかいられない。
そう、人生って奴は甘いだけじゃない。

ここにしようかと話し合ったのは2人で。
最終的にここにすると決めたのは君だ。
捨てるべきものもまだ残ったまま。
捨ててと言っても言葉を濁す段ボールに入っているその中に、捨てられない思い出があるのはわかってる。
知ってはいるけど知らぬふり。

何十年も違う場所で違う家族と生活を営んでいた者同士。それなりに溜まっている垢があるのは承知の上。
そして、それでも。
一緒にいることを選んだ2人。

髪の毛を君の手で梳かれている。
白髪があるよと君が言う。ほらここ、とぼんのくぼを指で指す。
抜いてというと、何度も何度も掴みそこない、その度にチクッチクッと生まれる痛み。
お猿さんの毛繕いみたいだね。
そう言うと君はくくっと笑うんだ。


こういうのがいいの。
君が笑うと私も笑う。
肩を叩かれたので君のお腹を叩き返す。
くすぐったがりで身をよじらせる。
面白がってまた触る。
コーヒーを吹き出しそうになる顔がいい。
甘いものは太るけど別腹だよねと分けて食べ合う言い訳も。
眠くなったね。君の言葉が合図になる。
手を繋ぎベッドに潜る。

おやすみ。
また明日ね。
君と暮らすということ。
こういうのがいいの。


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