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彼女は女優【消しゴム顔】(毎週ショートショートnote)

千秋楽の幕が降り、カーテンコールは鳴り止まない。再び重い緞帳があがると観客のスタンディングオベーションが見えた。
深々と頭を下げて今度こそ本当に終わりだ。


彼女は自分ひとりの楽屋に戻る。
つけまつげを取り、たっぷりのクリームで顔を擦る。蒸しタオルでクリームを拭き取る。
もう一度熱めの蒸しタオルを顔にあてる。
気持ちいい、彼女はひとりごちる。
ほんの数分前までは革命で首をはねられ処刑される王妃だった。
金色や白髪の鬘を見やりながら、自分に戻っていくのを感じる。



建物を出て見上げると王妃としての自分が看板の中にいた。
タクシーに乗り込むと、運転手が話しかけてくる。
今日が最終日だったんですよ。お客さん、観ました?
残念ながら仕事だったの。
あら、それは残念。
王妃役の女優さん、良かったですよ。
私観たんですよ。なんて言ったかな、あの人。
顔がどうしても思い出せないんですよね。


彼女は女優だ。
自分の顔など消しゴムで容易く消してしまうのだ。



このmakuraさんのアクリル画にすっかり魅了され、使わせていただきました!
いつかいつかmakuraさんにタロットカードもしくはオラクルカードのイラストを描いていただくと勝手に決めております。
精進しなくては!
ありがとうございます😊

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