太郎は神様【チャリンチャリン太郎】(毎週ショートショートnote)

自由というのはいいものだ。
誰に何をされるでもなく、何をしようと構われない。マスクをした大勢の人たちが歩く中、こうしてここで休んだり、あちらに行ったり、こちらに行ったり。
こんな時代になったというのに、まだタバコをポイ捨てする奴がいるとは嘆かわしい。
ああ、大きな穴が開いたぞ。

行き交う人をじっと見ていれば大抵のことはわかる。
トイレに入り、手を洗う時にいつも洗面台をきれいに拭いているのはあの人。
横断歩道でいつも止まって渡らせてあげている人はあの人。
太郎はチャリンチャリンと彼らの心に金貨を入れる。時折、その音に気づいてまわりを見渡す者もいる。きっと信心深いに違いない。

人を泣かせているのはあの人。
嘘ばかりで誤魔化して、人を貶めているのはあの人。
彼らの心の底に開いていた穴は広がるだけ。
そこに金貨は一枚もない。
代わりにどす黒いものが溢れかえっている。

あ、猫！
子供が指差す。
太郎はにゃんと鳴いて尻尾を振り、どこかへ歩いていった。