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「技人国」を縦・横・斜めから切ってみる。~技人国って儲かるの?~

こんにちは、池袋で行政書士をしている大久保です。
今日は、普段お仕事でよくかかわらせていただいている在留資格申請の中から、「技術・人文知識・国際業務」について様々な角度から見直してみたいと思います。
誤解が無いように初めに言いますが、別に「技人国は儲からないからやりたくない」とかそういうことをいう趣旨の記事ではありません。ぼーっとしてると危険な目にあいますよ、という趣旨の話です。

<お断り>
本記事は70%ノンフィクションでお送り致します。
また、在留資格を論理的に分析し、研究し、一般論として何かを提言したり述べたりすることが目的ではなく、あくまで一個人の経験に基づく見解になります。誤っても本記事を参考にすることは無いようにお願い致します。(責任は取れません。)

"こと"の発端

「技術・人文知識・国際業務は虚偽申請も多い。不法就労に該当するような状態で相談が来ることも多い。そんな中で、あなたは案件の受任の可否をどのような基準で決めていますか?」

これは、年初に某所にて問われた内容です。
行政書士には「受任義務」があるので、ほとんど公式とも言える場で質問されるには少々的外れにも感じましたが、多分、これは就労系の在留資格を扱う人達の"本音"を映し出すような質問ではないでしょうか。
私はこの質問に対してこのように回答しました。

「要件を満たしていることが明らかでない限りは、不許可になるリスクをきちんと伝え、それでも依頼をされた場合は、事実をありのままに申請をして入管に判断を仰ぎます。
ただ、私は”危ない案件”がどこから来るもので、どういう人と付き合えば受任せざるを得なくなるかを知っているので、そもそも近寄らないようにしています。"危ない案件"はそもそも儲かりませんのでやりたくありません。」

サラ~っとかなりドライなことをほとんど本能で話していますが、半分は自分に言い聞かせたような気がします。営業段階である程度のコントロールは可能ですが、いうほど簡単に“危ない案件”を避けられるものでもないのは事実です。
この質問以降、季節的な要因も相まって当事務所の中で「技術・人文知識・国際業務」(以後、技人国とします)の案件が増え、時々この質問を思い返しては、やっぱり技人国についてもやっとしておりました。

在留資格の申請は誰に依頼しても"同じ"なのか

「誰がやっても同じだから」
これは、よく言われるフレーズです。果たしてそれは事実なのでしょうか。この「誰がやっても同じ」は正しい面と正しくない面があると思います。ここではサービス価格については除きます。

①有資格者が行う手続きで、誰がやっても同じ内容で申請されるものだから、「同じ」になるはず。
②ビジネスマンとして、仕事がしやすい。人として合う、合わないがあるから「同じ」ではないはず。

①について
これはある意味理想ですが、資格を持たない「依頼する側」からするとそうであってほしいと思うのは自然ですし、「そういうものだ」と思われているかもしれません。
しかし、実際のところは「同じ」ではありません。同じ「許可」でも、正しくない申請(例えば虚偽申請)をして得た許可と、事実を申告して得た許可では意味が全く違います。虚偽申請をして得た許可なんて意味が無いです。不法就労は不法就労です。
ただ、資格を持って仕事をするのである以上、①は当然に「同じ」であってほしいと思います。
※それこそ結果的に「許可が出れば誰でも同じ」になってしまう、知識量やノウハウの領域については後で詳しく書きます。

②について
ビジネススキルやビジネスパートナーとして合う合わないの話しです。
例えば、レスポンスの早さ、納期意識、コミュニケーションストレスの有無、段取り力あとは、質問への回答正確さや早さなどが挙げられるかと思います。
在留資格の申請をアウトソースしたものの、もたつきまくって、大変だったという印象だけ残るようなサービスの提供をし、「もう2度と外国人は雇用しない」なんて思わせてしまうようでは、リピートに繋がらないのも当然ですが、ご紹介をいただくことも難しいかと思います。

本来であれば、①の大前提があってこその②があって、結果的に「誰に頼んでも同じ」なのか、という議論をすべきだと思いますが、
残念ながら①ですらぐっちゃぐちゃなのが現状があって、ビジネスマンとして合う合わないという②の話が、①にすり替わって、コンプライアンスの遵守具合の感覚の心地よさ(生ぬるさ)がお付き合いのしやすさという話になっているような気がします。

「白」を「白」に見せるだけって、つまんない仕事ですね。

ここまでダイレクトに言われたことはありませんが、「もっと付加価値つけられないの?」というのはよく言われます。
この付加価値は多くの場合で「難しい申請を許可に導く」もしくは「コンサル」を意味しているのだと思います。

そもそも、行政書士に在留資格の申請の依頼があった時点で、「許可・不許可」は確定しています。
私は自分の仕事は「白」を確実に「白」に見せて、許可を得ることだと思っています。「黒」や「グレー」を白く見せることは仕事ではありません。
ただし、「白」が一見すると「グレー」に見えることが多々あります。こういった案件を確実に「白」に見せるためには、それなりのコミュニケーション能力や証拠収集能力、文章力、知識量、過去の経験などが必要です。簡単な仕事では無いのは確かです。

個人的に、技人国の申請で「やりにくい」と感じる典型例はいくつかあります。

・そもそもの在留状況がよろしくない
・技術と技能の境界線を争う場合
・一定割合で現場業務が伴う場合

まず、「そもそもの在留状況がよろしくない」場合。
これは、申請してみないと分からない時や、ご依頼主から強い希望がある時は、とにかく出してみるという話になりがちなので、「やりにくい」だけで申請はありのままをするだけだと思います。
次に「技術と技能の境界線をあらそう場合」と「一定割合で現業が業務に組み込まれる場合」については次章にて。(ただし半分以上愚痴)

技人国のここが難しいし、いやらしい。

技人国の難しい話で、「申請してみないと分からない」というのがあります。裁量の話ではあるのですが、これが企業規模や業種、申請する入管によって匙加減が違います。

例えば、「技術と技能の境界線を争う場合」について
典型的な事例で、メンテナンス業務は技術ではなく技能にみなされる場合が多いです。例えば、自動車整備(技能検定3級以下レベル)や複合機やクーラーなどの精密機器のメンテナンスは、「技能」的な業務と判断され不許可になることが多いです。
では、ビルの電気配線のメンテナンスはどうなのか。カテゴリー3の企業では不許可になる可能性が高いですが、カテゴリー1や2といった大きな企業の場合は、許可になるかもしれません。
最近流行りの、太陽光発電所の太陽光パネルのメンテナンスはどうでしょうか。多くのケースで許可は出るような気がしますし、実際に目にします。
同じメンテナンスなのに、いつからか技能からか技術に変わっていく・・・。入管が言う、大卒でなければ対応できない専門的・技術的なメンテナンス業務は、果たしてどこからなのか。申請する際には「技術的な要素」を挙げて、関連分野の学科を卒業した人材でなければならない理由をこんこんと述べるわけですが、結局のところ、申請してみないとわかりません。

次に、「一定の割合で現場業務が伴う場合」について
典型的てもので、飲食店で一定期間の配膳や調理といった現場業務を行わせた後、キャリアアップさせてスーパーバイザーに昇進させるといった事例はよくあります。
例えば、A社が「1年」の現場実習のキャリアプランを提出して許可されたとします。では、B社、C社に転用して許可が出るかというと答えはNoです。
許可の出やすさで言えば企業規模が大きければ大きいほど許可は出やすくなると思いますが、「3店舗」「30店舗」「300店舗」とある中で、どの店舗数の規模から「1年」の現場実習が認められるものかは、明確な基準はありません。「3店舗」でも出るかもしれないし「300店舗」でもダメな場合もあると思います。
もちろん、現場業務の期間によっても色々と変わってくると思います。

これらのようなことに加えて、「あの入管では許可が出た」という要素が加わってきます。

結局、どこが「腕の見せどころ」なのか

先ほど、技人国のやりにくい典型例を挙げましたが、それ以上に案件をややこしくしている要素に着目するべきのが、雇用に至るまでの経緯だと思っています。

・何とかして大卒を採用できるルートを敷かなければ、企業の競争力に影響が出てしまう。どうしても高度人材を採用したい。
・とりあえず人手不足なので、とにかく誰でもいいし、目の前にいる人材の許可が欲しい

要はどの程度、外国人雇用に対して真剣なのかによります。
入管はガイドラインで「現場研修」について公表していますが、これを逆手に取って「現場業務」をさせる申請は危険だと思っています。
例えば、新卒の日本人が5年間現場研修をする場合、技人国でそれが認められるかどうかは申請してみないとわかりませんが、おそらく多くのケースで不許可になると思います。
面談で「現場研修5年やります」と言われた場合に、「5年は出ません。1年はどうでしょうか」というやり取りをすることは、全くもって「腕の見せ所」になり得るとは思えません。企業にとって5年の現場研修は意味があって5年であるはずなのに、「たった1時間の面談」で覆るはずが本来はないはずです。
もしそうするのであれ、経営会議や少なくとも現場との調整の場が設けられるはずです。そもそも、その会社に必要な人材はどういう人材なのか、内定取り消しも視野に入れながら、慎重に検討し直すべきではないでしょうか。
結局のところ、欲しい人材の定義は「求人票」に現れており、それが「1時間の面談」で覆るはずがない。
今はよくても、将来的に不法就労となる危険性が非常に高いと思います。キャリアアップの軌道から外れたらどうするのか?「能力不足」ではそんなに簡単に解雇できるものではありません。

一方で、真剣に外国籍の大卒人材を何とでも組織に組み込むことを検討している場合、多くのケースで相談時点でそういう話から始まるはずです。場合によっては、内定を出す前、採用活動を始める前の構想段階から相談があるかと思います。
そして、案件の内容によっては、企業の妥協点と入管の審査の限界点を探る申請が行われるのではないでしょうか。これが謂わゆる「限界事例」にあたってきます。

入管が公表している技人国のガイドラインの許可・不許可事例は典型的な例もありますが、許可を得るまでたくさん努力されたことを想像させる事例もあります。許可をとってガイドラインまで載れば、急に“当たり前”になるので、ガイドラインの事例では物足りないと思われるかもしれませんが、あれは汗と涙の結晶でもあると思っています。
ガイドラインの許可事例に載るような案件に取り組むことは、「行政書士の腕の見せ所」と言えるのではないでしょうか。
間違っても虚偽申請をおし通すのは腕があるとは言えません。

難しいと言われる案件は、技能と技術の境界線、そして現場研修の有無が関係するものが多いですが、残念ながら圧倒的に申請内容が後付けになりがちで、「許可が出るように申請してください」と言われがちなものがほとんどです。
技人国は一歩間違えれば不法就労の助長になりかねない。これは就労ビザ全般共通事項でもあると思います。特定技能は労働関係法違反=不法就労の図なので恐ろしいって話しは私自身もよくしますし、よく耳にもしますが、技人国も十分すぎるぐらい恐ろしい在留資格だと思っています。

技人国って儲かるの?

タイトルについてですが、別に回答があるわけでは無いので悪しからず。
技人国はとにかく審査の基準が見えにくく、落とし穴がいっぱいあり、かつ、一番のネックは「審査期間」ではないでしょうか。
特に審査期間に関していうと、標準審査期間は定められてはいるものの目安にもなりません。早ければ2週間、長くて7か月?くらいかかる申請もありました。
申請人が日本にいる場合は、在留期限があるため何となくの目安はありますが、過去には半年以上残した状態で在留資格変更許可申請を行って、在留期限ぎりぎり、もしくは特例期間という「+2か月の期間」にも突入することもありました。いわゆる「難しい案件」に該当する申請ほど、審査期間は長くなる傾向があります。
もちろん不許可率は上がりますし、成功報酬を設定している場合は不確実な期間が延々続く可能性があります。何よりどんなに慎重に対応したとしても、摘発リスクはやっぱり無くなることは無いかと思います。
そういうの諸々を加味した上での価格設定が市場から受け入れられる価格はまた別の話しです。実際は、難関事例であればあるほど、こちらが設定したい価格に見合っていないことが多い。
では、いわゆる「簡単な案件」(例えば、大手IT企業のプログラマー)ばかり受任すればよいかもしれませんが、結局、事務処理屋さんになればなるほど差別化が難しく価格競争に巻き込まれるものかと思います。

「簡単な案件」と「難しい案件」はどこにあるかはだいたい予想がつくため、営業方法によってある程度はコントロールができるものだと思います。
ただし、何に対してやりがいを感じるかは人それぞれですし、どのレベルの案件をどの価格で受けるかというのは経営判断だと思います。

それ以上に、真っ当な技人国マーケットって、なんちゃって技人国も含んだ現状のマーケットのうちの何割ぐらいなのか。もっと言えば、その中で行政書士に依頼がくる案件はどのくらい残るのか(要は、ITプログラマーなどの典型的な技人国となんちゃって技人国を除いた案件)。というのは時々考えます。
もちろん、真っ当な案件は世の中にたくさんありますし、普通にご依頼いただきます。営業力とかそういう話ではなく、全体の何%ぐらいなのか、という話です。

まとめ

とにかくも年初に某所にてかなり嫌な思いをして、技人国について考えさせられたわけですが・・・
なんちゃって技人国を少しでも減らすために私にできることは、特定技能に取り組むことだと思ってやっています。正直、なんちゃって技人国はどんなに啓蒙活動しても不滅ですし、なんちゃって技人国を肯定する方々とは、どうしたっても分かり合えないことを痛感しました。
でもですね、なんちゃって技人国というものでは、そもそもそこに「市場」はありません。そこをお金に変えなければやっていけないのであれば、やっていることは、もはやビジネスでも何でもなくただの詐欺行為です。食っていけないなら、撤退するしかない。その勇気がないのであれば、そもそも参入するべきではない。自戒も込めて。

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