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私の中のインナ-チャイルド

 わたしのおかあさんは、ちょっとかわっています。みんながすてきだと思うような、きれいなやさしいおかあさんではありません。でもそんなちょっとたくましいおかあさんがわたしはすきです。

 おかあさんは、おもったことをそのまま実行してしまうので、ほかのひとたちにえっ、と思われたりします。おかあさんの仕事先のひとたち、おとうさんのしんせき、おかあさんのしんせき、たぶんだいたいが女のひと、に ず-っとわたしはあやまってきました、むすめとして。

そうだ、お母さんを守る楯だったんだ、私。世間とお母さんの間の。

 でもわたしのおかあさんなんです。ひどいと思いませんか、自分たちだってこどもがいるのに、ちいさいわたしに、わたしのおかあさんの悪口をいうなんて。こどもにだってきもちはあるんです。

 私悔しかったんだ。ちょっとくせがある人かもしれないけれど、でもやっぱり私のお母さんだもの、悪口を他人に言われてうれしいはずがないよね、悲しかったんだよね。

 あのおばさんたちに言えなかったんです、わたしの思っていること、そんなおかあさんでもいいもん、おかあさんの悪口いわないで、って。だってそんなこと言ったら、気を悪くするに決まってるもの。せっかくちゅういしてあげてるのに、って。だからわたしだまって、ちょっとはずかしそうな困った顔をして、そのきもちはわたしの胸の中にしまったんです、えらいでしょう?

 私は女性グル-プに苦手意識があったのだけれど、たぶんここからきている、という確信がある。本当のこと、言いたいことを相手に伝えられない、居心地の悪さ。だけど時間がたつにつれて、自分の生まれてきた母の楯の役目も忘れ、私の心の中には、きまりが悪く、母のことを恥ずかしく思う気持ちだけがどんどん強くなっていった。

 だって親戚の集まりや近所の会合があるたんびに、おばさんたち、わたしをこっそり隅っこの方に連れて行って、ひそひそそういうこと言うんだもの。最初はおとなのひとに注目された感じがして、わたしうれしくていい子でいたけれど、そのうち「またか」ってつまらなくなりました。

「おかあさんのかわりに、はるかちゃんが、しっかりしなくっちゃね」「あなたみたいな良い娘さんを持って、おかあさんは幸せだわ。」恥ずかしさはやがて、母への蔑み、嫌悪へととってかわっていった。

    数年前に私は結婚当時の母の写真を見つけた。母は今と違い、標準体型でスーツを上品に着こなしている。お母さんきれいだね、と母に見せに行くと「お母さんはきれいじゃないのよ」との返事が返ってきた。えっ?と思い、そばにいた私の彼に見せると「顔立ちのはっきりした、エキゾチックなタイプの美人だよね」と。あとになってわかったことだが、母は、自分の母親(私の祖母)に「この子は醜い子だね、額が広すぎだよ」と言われていたらしい。確かに和服よりは洋服が似合う顔立ちである。もしかしたら、私の祖父はちょっとDVの気があったので、夫似の顔立ちの娘は、私の祖母にとって複雑な思いがあったのかもしれない。

とにかくその言われた言葉を実行するかのように、母は私たちの離乳食の余りを食べ、どんどん太っていった。

    離乳食のこしてごめんなさい。おかあさんごめんなさい。きらいじゃなかったの、そんなつもりはなかったの、でもほんとうにごめんなさい、おかあさんのこと好きだったの、忘れていたの。

    おととい見つけたある女性歌手のYouTube。コンサ-トの舞台で、
So Many Starsという歌を歌い始める。私の母を思い出させるような体型や表情、ちょっと皮肉っぽい会話まで似ている。舞台で歌う彼女を見ながら、重く深く響く力強い声に、引き込まれていく私。

     私の母にもきっと、色々夢や表現したいもの、やりたいことがあったにちがいない、でも上手くいかなかったのだろう。でもそれは彼女の人生。誰だって自分のやり方で物事をすすめたい。たとえそれが大多数の人々から理解されないと感じていても。彼女が選んだ生き方。今、大人の私は、人生という舞台の上に立つ母を、座席から一人の観客として見ている。

 母は猪突猛進型で、周りをなぎ倒してしまうことがある。悪気はちっともないのだけれど。それで娘の私は、先回りして、上手くいくように、いろいろと一生懸命整えてあげたつもりだったのだけれど、彼女はそれに気付かない、というか、気にしない人で、その上をがむしゃらに進んでいくブルドーザーのようで、みんなを巻き込んでしまう。

でもそんなはたからみると、めちゃくちゃなおかあさんが大好きでした。
明るくていきいきとして、いろんなことにちょうせんしている。
そんなおかあさんが、わたしにはとってもまぶしかった。
おかあさんをいつもわたしはおいかけていたんだよ。
なかなかわたしのほう振り向いてくれなかったけど。        
おかあさんじっとしててくれないんだもん、わたしつかれちゃう。
おかあさんはわたしのおひさまだったんだよ、知ってた?
他の子のおかあさんなんてかなわないくらい、
つよいつよい力を放って光っていました。
おそらの上からそれが見えて
おかあさんのところにきたのかなぁ、わたし。

すっかり忘れていました。ずっとずーっと長い間。そんな気持ちがあったことさえ覚えていませんでした。でもその想いは私の中で消えていませんでした。その気持ちに今日、ふれることができました。私はそのままのお母さんが大好きです。今まで喉につかえていたものを、世界に向かって叫べる、私のお母さんが世界で一番好き!だってわたしのおかあさんだもの!

やっとあのころのわたしとつながれた気がします。
お世話になりました皆さま、本当にありがとうございました。

芦邊春香でした。

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