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言葉の壁を超えて医療が届くように。

想像してみてください。

もしも、言葉が通じない国にいて急に高熱を出してしまったら、あなたはどうしますか?
なんとか日常生活が送れるレベルの言語力で、救急に連絡したくても番号がわからないし、お金がかかるのかもわからない。
病院に行っても、お医者さんや看護師さんが何を言っているのか理解できないし、そもそも自分の症状を伝えることができない。

ただでさえ体調が崩れて弱っている心に、さらに不安が影を落とす———。

………これ、日本で暮らしていて、日本語がままならない外国人の方にとっては実際にあり得ることなんです。

日本に住んでれば日本語にも慣れてくるんじゃ?と思われた方もいらっしゃるかもしれません。
でも、実はそうとも限らないのです。

2001年、文化庁が日本語教室に通う在留外国人(16歳以上の男女)600人に対して調査を行ったところ、このような結果になりました。
(データがかなり古いのは承知ですが、これ以降同じ様な調査が行われていないことが確認できたため、これを引用します。
こういうデータもあるんだと思って頂けたら幸いです)

日本語での会話を必要とする場面について、47.3%の方が「医師に病状を話す時」だと答えました。
その一方で、日本語を上手く話すことができないことで困ったり不快に感じた場面について、「病院」と答えた方が一番多く、全体の21.3%を占めていたのです。

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(グラフは、わたしが書いた卒論からスクショして貼っています)

また、在留外国人の方たちが日常会話で必要となる日本語力のレベルについて、会話しなければならないシチュエーションを32種類用意し、それらに対して「簡単にできる」、「難しいができる」、「できない」、「こうした状況の経験がない」の中から1つ選ぶ形式で答えてもらったところ、このようなグラフになりました。

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(これも自分が書いた卒論をスクショして貼っています。図5は気にしないでください)

グラフは「簡単にできる」と「難しいができる」を足した結果を出しています。
「医者に病状を話す」の項目がかなり下にあるのがお分かり頂けるかと思います。

日本で暮らす外国人の方たちにとって、病院でままならない言葉を話すことは、とても大変でもどかしく感じることなのです。

———だったら、日本語が話せる家族や知り合いを連れて行けばいいと思った方もいらっしゃるでしょう。
………実は、それってとても危険なことなのです。

実際に多く見られる例として、外国人患者さんが自分の子どもを通訳として連れて行くケースがあります。
ですが、子どもに限らず、普段通訳や医療に関わっていない人を連れて行ってしまうと、知識が足りていなかったり、そもそも通訳としてついて行った人の日本語力が足りておらず、病院で上手くコミュニケーションが取れないこともあります。
実際に、肝臓と腎臓を間違えて通訳してしまったケースがあることも報告されています。

………もしも自分の身近な人が病院に行く時に通訳として付き添って、通訳を誤った結果、治療に影響してしまったら。
子どもでなくても、ショックも感じる責任も大きくなってしまいます。

じゃあどうしろと!?って言いたくなっちゃいますよね。

こんな時に活躍するのが、医療通訳士なんです。

医療通訳士は、「医療通訳士倫理規定 前文」で「すべての人々がことばや文化の違いを超えて、必要とされる医療サービスを受けられるようにコミュニケーションの支援を行う専門職」であると定められています。
わかりやすく言い換えると、「医療知識やいろいろな国の文化の知識も持っている通訳さん」といったところでしょうか。

自分の国の文化について知っているだけでなく、医療の心得もある通訳さん。めちゃくちゃ頼もしいですよね。
でも、決して普及しているとは言えません。

理由はいくつかありますが、主なものとしては、医療通訳士の育成を全国規模で行うことができていないことや、医療通訳士の育成を行っている地域においても、外国人住民が医療通訳を受けられるということを知らないといったことが挙げられます。

わたしが卒論を書くに当たって複数のブラジル人の方にインタビューをした際、そのうちの一人の方が「私の勤務先は整形外科ですが、ブラジル人スタッフがいるからと予防接種に来る患者さんもいます」と仰っていました。
わたしが住んでいる地域でも医療通訳士の育成は行われていますが、それでもそういった現状があるのです。

———風邪を引いたから病院に行く、がんや白血病など特殊な病を患って入院や手術をする。
健康になるために治療をすることは、決してその国の言葉を話せる人にだけ認められた行為ではないと思います。
誰もが平等に医療サービスを受けられる、そんな時代がくることを切に願います。

*参考文献*
・遠藤弘良(2015)「第2章第2項 国際医療交流に対応する医療通訳」李節子編『医療通訳
と保健福祉医療―すべての人への安全と安心のために―』杏林書院 P.35-36

・重野亜久里(2013)「第11章 『医療通訳』を創る―医療通訳制度、人材育成、社会環境
づくり―」中村安秀・南谷かおり編『医療通訳士という仕事―ことばと文化の壁をこえて
―』大阪大学出版会 P.133

・西村明夫(2009)『疑問・難問を解決!外国人診療ガイド』株式会社メジカルビュー社 P.28-29, P.74-P.77, P.87

・中村安秀 (2014)「医療通訳基礎研修〜ことばと文化の壁を超えて〜」
https://www.jiam.jp/journal/pdf/v85/tokushuu01.pdf

・文化庁「日本語に対する在住外国人の意識に関する実態調査」
https://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/nihongokyoiku_jittai/zaiju_gaikokujin.html

・水野真木子(2008)『コミュニティー通訳入門 多言語社会を迎えて言葉の壁にどう向き合うか...暮らしの中の通訳』大阪教育図書株式会社 P.6,31


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大学生の頃、卒論で書いた内容をできるだけ簡単な言葉で、親しみやすい雰囲気を心がけてまとめてみました……!

留学先で言葉が通じず、辛い思いをした経験があるからこそ、日本で暮らす外国人の方に同じ思いをしてほしくないと強く思います。

少しでも医療通訳や外国人医療の世界に興味を持って頂けたら嬉しいです🌍

最後まで読んで頂き、ありがとうございました🙇🏻‍♂️


☆ゆうらさんが、この記事のためにイラストを描き下ろして下さいました✨
ゆうらさん、本当にありがとうございます🙇🏻‍♂️


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