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あの日の君に恋をした。最終回

「あの日の君に恋をした。」

ぼくがいつもつけている香水。
それはとても良い香りだ。
ただ僕はその香りも好きだが、心がつけている香水の香りも好きだ。

だからいつも会った翌日は自分の香水を嗅ぐと、それは彼女の匂いだ。
バニラのような匂い。

この匂いを嗅ぐ度に君を思い出す。
僕を変えてくれた存在。

どうか、今の君が幸せであれ、
どうか、この詩が届いてくれ、
どうか、また君の姿を見せてくれ、

ひでは思い出の場所に向かった。
その場所はきっと他の人間は好んでいかないだろう。
ただ、あの時の僕たちはその場所がとても大好きであり、共感しあっていた。
そんな大切な場所に気持ちを添えておこう。
「すべてをくれてありがとう。幸あれ。」
ひでは続けて、墓参りに来たのか、お参りにきたのかわからない。
ただ、手を合わせて願った。綴った。
「あの日の君に恋をした。またこっち来た時一緒にいようね。」

今はとても清々しい。
だからといって次の恋に進む気もない。
それはきっと君に恋をしてしまったからだ。

そうだ、この恋が始まった。
その時はそう思った。
なんでだろう。きっと同じような人間だと思ったからだ。
実際は真逆の人間だ。
あの頃、ひでは嫌われるのを恐れていたんだ。
しかし、その真逆さがゆえにとても楽しかった。
こんな楽しみ方があるのか。
そう考えられるようになった。
ひでは今まで同じような人間を好きになっていたのだ。
今回は好きになったことのないタイプだ。
だからきっと好きになった瞬間が新鮮だった。
安心できるようになったきっかけはあの日の事だった。
それは今後のお話で話していこうと思う。
ひでは自分自身のお話を小説で綴ることをこの出会いをきっかけに決意した。

 十年が経ち東京の一等地のパーティーに参加するひで。
それは授賞式だった。
 そして、ひでは語った。
今や、有名人。インタビューを受けている。
「この話は作者のノンフィクションに盛ったり、事実を書いたりした。
だから、今回の創作大賞ではここまでにしておこう。
その代わりに、新人賞にはこの中の話を書いていこう。」
一気に話が飛んだ。
「しかも、とてもうまくいっていて、一番面白いお話はここでは書かない。
それはとても大切な話であるからこそもっと慎重に書いていきたい。」

「それはどういうことですか?」
そうインタビューの人に問いかけられた。

「僕はこの作品がノンフィクションだからこそ、今回の創作大賞について
最後にこのように物語中に語った。」
「この大賞に対して、この大賞だからこそできる終わらせ方で締めたい。」

インタビューの人はひでの事をわかっている。
なんなら大ファンだ。
「さすがです。あえて作品を短くして、続きを待たせる。意外とドSですね~?」
笑いながら問いかけてきてくれた。

「実はMです。」
と、ひでは笑いに変えた。

インタビューの人が続けて質問してきた。
「今日はいつもの香水と違うんですね?」
ひでは驚いた顔をしていた。
「さすがに、そこを知ってくれているインタビューさんは初めてです。」
そうひでは笑っていた。
「なんて言ったってひで先生の大ファンですから」
ひではこんな素直な人間が大好きだ。
「実は以前から忘れられない人。
僕が小説家になるきっかけをくれた人が使っていた香なんです。」
インタビューの人は感動で泣き始めた。
一度、笑いが起きた。
 そして、ひでは一息ついた。
その瞬間にひでの表情が変わった。
「僕の人生を変えてくれた子、考え方や恋愛観を変えてくれた子、僕を外に連れ出してくれた子。そんな子との物語はパラレルワールドで綴っていきたい。」

会見を見てくれている人たち、インタビューの人。
皆が泣いていた。こんなにも暖かい感情を素直に伝えられるひでに対して。

「だから皆さんにはこの先の僕を見ていてほしい。」
「なんにも小説の書き方を知らない僕に勇気をくれたココロ。」
「少しずつ成長していっている姿を歩み寄ってくれた読者の皆さん、」
結婚式のスピーチかと思うくらいの感謝だ。
そして、自分がここまで成長できたのはココロの言葉だ。
今はそれを借りよう。
「初心者でも自分にはアイデア力や作品には自信を持っている。自分の作品が一番です。」
ひではココロとの思い出を思い出し、少し泣きそうだった。
「そして、皆さん読んでくれてありがとうございます。」
「僕は少しずつ皆さんのいいね、などで自信がないからこそとても嬉しかったです。」

泣いている。
静寂が心地よい。なんなら今暗転してくれても良いなとも思った。
思考を停止させる。それが静寂の暴力。
それ以上にひでは静寂を温めて放った。
「これから先自信をつけても変わらずに、見てくださったことには嬉しさは忘れません。
ただいいねだけの数字を追ったり承認欲求を求めていくつもりはありません。」
「自分の作品は最高だからこそ、いいねじゃなくて自分の作品を好きになってくれる事が嬉しいです。」

実際に今起きてることを書いている。
だからこの先の事はわからない。
ただ、この小説ではパラレルワールドで好きなように結末を決めることができる。
ひではどんな顔をしていたんだろうか。
「幸せだね。」
それとは別で現実の自分も物語を自分で描けるから幸せだ。

ひでは、あの日の事を少し思い出した。
「今はココロと最高の友達になりたい。そして、お互いを信頼して競争できる関係になりたい。その先はその後に考えたい。」

ひでがココロにいつか言った。
「人と別れがあっても、満月を見るのはきっと皆ある。その時に通じ合ってる。」
その言葉が忘れられない。
たしか、お酒を飲みながら語っている時だ。

ひではタイガーのビールを片手に月を見上げた。
今でもひでは独りでココロの帰りを待っている。
「あの日の君に恋をした。」

*本名は使っておりません。

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