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あの曲何だっけ症候群

多くの人にとって憂鬱な月曜日の今日は、私にとって週イチの出社日だった。週イチの出社日は、何故かここ最近尽く雨の日な気がする。憂鬱さに拍車の掛かる悪天候ではあるが、空に文句を言ってもただのアブない人なので、せめて通勤時間だけでも気持ちが上向きになるようにしたい。その為には音楽が欠かせない。

目を閉じながら好きな曲を聴くことでスマホの画面と睨めっこする必要もなくなり、1時間弱の通勤電車は幾らか安らげる空間になるのだ。

さてそれでは何を聴こうか…

今年に入ってからは、先日解散を発表したDaft Punkばかり聴いていた。そしてたまにbeatmaniaIIDX16EMPRESSのサントラだった。EMPRESS以外のアルバムも聴きたいが、数年前に5,000曲ほどの音楽データを保存してあったHDDがクラッシュしてしまい、手元に残っているIIDXのサントラはコレだけなのだ。とても悲しい。

Daft Punkは例の映像で印象的な「Touch」を改めて噛み締める意味もあって『Random Access Memories』を中心に「Robot Rock」で初っ端から心をグッと掴んでくる『Alive2007』や「Da Funk」などからも既に世界観が確立されていたことを実感できる『Homework』を聴きつつ、同時に掘り起こされる学生時代や新社会人時代の苦い思い出に苛まれることもあった。何故音楽はこうも鮮明に記憶を蘇らせるのか(と、昔から不思議に思うものの答えは出ないし別に求めてもいない)。

そろそろDaft Punkにばかり頼ってもいられないし、今日は何を聴こうかと思ったら不意に短いフレーズが頭をよぎった。よく知っているフレーズだが、これは何だったか。私の浅薄な知識ではこのフレーズを明確にそして体系的に説明することができない。しかし今垂らされた蜘蛛の糸を少しでも手繰り寄せなければ、過ぎ去ったフレーズは当分また記憶の底に封印されることになるだろう。その手繰り寄せる力加減にも注意が必要だ。丁寧に、慎重に、焦らず騒がずしかし速やかにこれを引き寄せ、一刻も早くその正体を特定しなくてはならない。さもないとたちまち「さっきのフレーズ」という短期記憶は霧散する。人間の短期記憶とは何とも心許ないシステムで、しかもこれは加齢とともに著しく損耗されるという話をどこかで聞いたような気がする。既に長期記憶も信用ならないが、多分。恐らく。

これら全ての事柄が、瞬時に頭の中を駆け巡ったわけではないものの、人間が何かを思い出そうとするときのパワーはかなりのエネルギーな気がする。記憶掘り起こしダイエットとかが、近い将来流行るかも知れない。

冗談はさておいて、私はその能天気なようでしかし知性的で緻密に配置された音と歌声で構成されていた「短期記憶」を繰り返し反芻した。少し古いIIDXに収録されていた「Linus」とか「Make A Difference」に近いような雰囲気を感じさせる「短期記憶」…。当時乗っていた通勤電車とかランチを食べに行った店までの景色や吸っていた煙草のパッケージといった余計な記憶ばかりが脳裏を掠めては消え掠めては消えするばかりで、曲のタイトルとか例のフレーズの続きとかそういった核心に触れるような情報には一切結びつかなかった。

しかしそれらの甲斐あってか、こんな文字列が頭に焼き付いたのだ。

「zoo」「too」

あそうか、FPMだ!Fantastic Plastic Machineだ!

というわけでAmazon Musicの力を借りて『zoo』というアルバムの『You』という曲が「短期記憶」の正解であると判明したのだ。

Fantastic Plastic Machine/You

これに「Reaching for the Stars」の記憶が少し混ざっていたようだ。そしてこの曲の収録アルバムが『too』であった。

Fantastic Plastic Machine/Reaching for the Stars

空は相変わらずの曇り空どころか雨だが、私の頭はスッキリと晴れ渡り、澄んだ気持ちで会社へと辿り着くことができた。

おわりに

この話にはオチも何も無い。

帰りには「City Lights」を聴いて、折角の澄んだ気持ちを再びモヤモヤさせようかと思ったけれど、それも結局聴かなかった。


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