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今ここ 草木4 新宿御苑と秋の動揺

エッセイ、『今ここ』。このエッセイは、10~7年前に記したよねちゃんのエッセイです。天国の叔父と、私の母に読んでもらったことがあります。お蔵入りされていたのですが、もったいないので、こちらに投稿いたします。よろしくお願いいたします。それでは、どうぞごゆっくりお楽しみくださいませ。

目次

https://note.com/ohayou_yonechan/n/na7485b8ee2db



今ここ 草木4

新宿御苑と秋の動揺

今日は、母と二人で新宿御苑に行った。
「10年ぶりだね」
と母が喜んだ。
「そんなに経つ?」
「あんたが学生の頃だから、もう10年よ」
「そうかぁ」

“10年ぶりだね”なんて、なにかの本かドラマで昔を懐かしむときのセリフだと思っていた。それが今日、こうして言われると、親孝行はやらないでいると、あっという間に時は経ってしまうのだな、と驚いた。

もっと昔、私がまだ小学生だったころは、よく新宿御苑に母とピクニックに来た。青々とした芝生の上を走り回って、転げ回って、笑ってばかりいた。母も、なんだかんだ一緒に楽しんでいた。

今日、60代半ばの母と、30歳近くになった私は、のんびりと秋の新宿御苑を見て回った。実りの秋、紅葉の秋。バラも咲いて、秋の桜も愛でて、充実した気分で散歩した。

母は時々立ち止まってはベンチで休み、ちょくちょく喫煙所で一服をした。
「足痛いわ」
とぶつぶつ言っていた。最近は、腰も痛くなったらしい。

歩くのもゆっくりになったのを感じた。昔は母の歩くスピードは速くてついていけなくて、
「こら!とろとろしない!」
とビシッ!と叱られたものだったのになぁ、と思いながら。
まぁ、私自身も歩くのがゆっくりなので、ちょうど合ってきたので良いのだけれども。

あんまり言うと怒られるのだけれども、最近は白髪もきれいになってきた、物忘れで少しおっちょこちょいになってきた。(だんだん私のおっちょこちょいに近づいてきたみたいだ。)

時のたつのは、老いるというのは自然の営みの一つだから、そうなんだなと思いつつも、少しセピア色な気分というか、何とも言えない気持ちが胸にこみあげてきた。

足元にボールが転がってきた。小学生の女の子が走ってきてそれを拾った。すると、保育園くらいの男の子が、

「おねえちゃん、ちょっとまって。はっぱがさいているよ」

と無邪気に笑った。
そうか、と私は思った。この子たちが新芽だとしたら、私は中くらいの木で、母は大きな壮年の木かなぁ。

風が吹き、木の揺れる音が、
「ザワザワザワザワ、ザワザワザワザワ……」
と聞こえた。

10年前と同じような風景。そこでは、新芽が中くらいの木になり、中くらいの木は大きな木になっていた。

10年後も同じように、私は親孝行をしていたいな、と思った。


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