靄とビニルと雨傘(ヨクワカラナイ物語)

喫煙室の前を通り過ぎようとしたら、フィと視線を感じた。

喫煙室の硝子窓から覗いた者の名をカシオペテッラと名付けた。カシオペテッラは、ヒョォイと硝子の透明を通り抜け、暗い曇天へスルスルと登って行こうとした。

「オイ!君! 」

と叫ぶと、

ボンッ

と変化して、

シュゥー

と靄になった。夜の曇り空に同化して逃げようとしたと分かったので、

「ソウハサセルカ!」

 と、持っていた雨傘で宙を切った。空の傷口からは、星屑がバラバラとこぼれ落ちた。その煌めく欠片を、夢中で五個位拾い、左胸のポケットへ突っ込んでやった。

おかげで家への道は、鼻歌まじりで帰ることが出来た。


家に帰りつき、

「さてさて」

と左胸のポケットを探った。がしかし星屑はなく、煙草の箱の透明なビニルがヒラヒラとあっただけであった。

「なぁんだな」

と呟き、ゴミ箱に突っ込んで蓋をして、ふて寝をした。

ところが、部屋の暗闇で寝付けなかった。朝ゴミを出すまで、カシオペテッラのビニルが気になって眠れないだろうと思っていたのだが、とうとう明け方に眠ることが出来た。


夢の中は真暗闇であった。すると暗闇からカシオペテッラが出てきて、ハッハッハッと笑った。

ハッと起きて、例のゴミをゴミ捨て場へボバンと捨てた。

そこへ朝陽がギラギラと射し込んだ瞬間、

「ホウレ、ミタコトカ!」

とカシオペテッラの声がして、捨てたゴミ袋からは靄がモクモクと天へ上がっていった。


後でつけたテレビの予報士によると、午後からは大雨に変わるという。

そうだ、あの曇りの夜空を切った時に、雨傘を忘れてしまった。

と今更ながら気がついた。



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