【四則演算】記号は省略のデザイン【成り立ち】

私たちにとっておなじみの「足し算 (+)」「引き算 (-)」「掛け算(×)」「割り算 (÷)」。今当たり前のように使っている、いわゆる「四則演算」と呼ばれる記号たちですが、そもそもなぜ足し算は「+」という形なのでしょうか。今回はこの四則演算の記号の成り立ちを、お話ししていきたいと思います。



「+」のものがたり

OH_演算-01

「+」はドイツの数学者ヨハネス・ウィッドマンの本の中で使われています。
ただ、この本では「+」は「超過」の意味で使われており、演算記号ではありませんでした。
では今現在の「+」使い方、足し算はどうしていたかというと、
ラテン語の「et(英語のAND)」が使われており、
「3に5を加える」ことを「3 ET 5」と表現しています。

その後、16世紀になってオランダの数学者ファンデルフォッケが「加える」ための計算記号として「+」を初めて使いました。
続いて、フランスのフランソワ・ヴィエトが「解析論入門」の中で使い、やっと一般的になったようです。

「+」という記号自体は、「et」の筆記体がくずれて「t」に近い形になり、そして「+」になっ たという説があります。


ちなみに同じetから派生した記号がもう一つあります。
それは「&」です。

大文字ETの合字から派生しました。

ちなみに
合字の成り立ちは文の省略から生まれました。
紀元1世紀ごろには、省略表現はしばしば行われて来ました。

なぜかというと当時、本に使っていた羊皮紙は手に入りづらく高価でした。
そこでコスト削減のために、出来るだけ文字をつめてページを減らしたのです。

ちなみに
8〜9世紀に登場した小文字も、文章を詰めてページを減らすためと言われています。

現在の合字は可読性の問題から、特定の文字の組み合わせの際、使用されています。

画像4

こうして、&は大文字ETが変形したものから、
小文字etの合字が変形したものになり、今の&に落ち着いたようです。



「-」のものがたり

OH_演算-02

「+」と同じく「-」も、数学者ウィッドマンの本の中に登場しています。
この本では「+」は「超過」の意味で使われていたけど、「-」は「不足」の意味で使われていました。
じゃー引き算はどうしていたかというと、ラテン語の「demptus(取り除く)」の頭文字「de」が使われており、「5 de 3」が「5から3を取り除く」という意味で使われていました。


このdeが「+」と同じく速書きで「-」になったのかというと、
実は成り立ちはそうではありません。


ヨーロッパでは引くという単語が「meno(イタリア語)」「minus (ラテン語)」でどちらもmということもあり、頭文字の「m」を 用いてその「m」に印をつけたり、mを引き延ばしたりしたりするなどして、様々な書き方で普及していたようです。

OH_演算-16

プラスもPLUSのP頭文字をとって、同じように表現されていたので、
「-」記号はmを引き延ばした形の「~」が変形したという説があります。そして、「+」 と同じくオランダのファンデルフォッケの本の中で、演算記号としての「-」がはじめて登場したといわれています。




「×」のものがたり

OH_演算-03

イギリスのウィリアム・オートレッドが数学教科書として名高い『算数の鍵』の中でばつ印の「×」をはじめて使いました。

ただ、その三十年前には、イギリスのエドワード・ライトがアルファベットの「X」を使っています。これは中世に行われた「たすきがけ法」に描かれる線が原型になっていると考えられます。

OH_演算-07

このエドワード・ライトは、ネイピアの対数の本(ラテン語)を英訳したことで有名な数学者です。
さらに十六世紀には、ドイツのペトルス・アピアヌスという 数学者の著書に出てくる分数計算を暗記するための図表の中で「線で結ばれた二つの数はかける」というルールがありました。これは、この図のように演算ごとに計算方法が変わる分数について覚えやすくするために使用した印のようなものでした。

そもそも、かけ算には演算記号がいりません。例えば、文字同士のかけ算 「X x Y」 は「XY」と書きますね。 そもそも、数同士のかけ算の記号としては、「X」よりも先に使われていたのが「・」です。

一五世紀はじめには、イタリアで用いられました。
「3・5」これで「3×5」となります。
 「数字・数字」でも不都合はないわけで、ことさらに新しい演算記号を考える必要はなかったのです。その後「・」はかけ算、「,」は小数点の記号と区別するようになっていきました。

ではなぜ、ばつ印の「×」が発明されるようになったのでしょうか
そのヒントは分数にあります。

面白いことに、分数の四則演算のうち、「足し算 (+)」「引き算 (-)」「割り算 (÷)」は、たすきがけの「かけ算(x)」が必要です。

OH_演算-09

OH_演算-18

しかし、分数の「かけ算(x)」だけは、たすきがけがありません。

OH_演算-08

 そう考えると、かけ算の記号「×」の起源は、分数の四則演算に表れる「たすきがけのクロス」だったと言われています。 オートレッドはこうした経緯を踏まえて「×」を、かけ算の記号としたようです。




「÷」のものがたり

OH_演算-04

イギリスでは分数の数字が点に置き換えられます。
15世紀のロンドンの金融街では、半分を表す記号としてこのように(2÷)使われていました。

逆にドイツでは、ゴットフリート・ライプニッツが割り算の記号として点を「:」にして使い始めたことにより、「:」が広まっていきます。
ライプニッツの使い方は、かけ算が一つ点「・」で、割り算が二つ点「:」というものです。例えば「6:2 = 3」という使い方ですね。


こうして、イギリスでは「×」と「÷」。
ドイツをはじめとする大陸では「・」と 「:」が主流となったのです。

なぜ、記号が統一されなかったのでしょうか。

その原因は、イギリスのニュートンドイツのライプニッツによる「微分積分大論争」です。二人は異なったアプローチから「微分積分」を発見していたのですが、この 偉大なる二人の間で、それぞれの支持者を巻き込んだ大論争が繰り広げられました。

その結果、数学者同士も仲が悪くなり、記号が統一されなかったのです。


さて、そんな大論争に関係がない日本ではというと、「÷」と「:」のどちらも使われています。
ただ割り算を「6 :2 = 3」という使い方は日本ではしません。「:」は比を表し、「a対b」と読みます。

そして、「6 : 2 = 3:1」と「6÷2 = 3 ÷1 = 3」と使い分けています。




いかがだったでしょうか?

足すも引くもかけるもワルも、どれもが書くのがめんどくさいからと
印に変換したところから始まっていましたね。

これは「漢字書くのめんどくさいわ!」
と言って始まった平仮名と全く動機が一緒です。


僕らの祖先が、いろいろ形を変え使っているものを
今の僕たちはなにも思わず、使っていると考えると
歴史を見るのはとても楽しくなります。

「+、−、×、÷」はもう図としては最終形ですもんね。
これ以上単純化するのは難しい。




OH_演算-22

ちなみに、「=」(等号)は、
等しいを意味する上記の単語から「aeq.」と略して使い始め、1540年のロバートレコードが、もともと平行記号に使っていた現在の等合記号「=」アレンジした、「Z」の形、これを等合記号として使うようになり、17世紀後半になると、現在の等合記号「=」をニュートンらが採用することでヨーロッパに広まります。

じゃー、平行記号はどうしたかというと、
微分積分大論争で喧嘩をしていた、オートレットが使っていた、

OH_演算-24

このマークを平行記号としました。


他にも平方根はこんな感じ

OH_演算-25

OH_演算-26

OH_演算-27


こんな感じで、数学記号の他にも
松田行正さんの「128件の記号事件ファイルet」を見ると
音楽記号から地図記号まで様々な記号の成り立ちが載っていますので
気になる方は是非。



もしこの記事が少しでも役に立ったという方は
SNSなどで共有して応援してもらえるとすごく嬉しいです。

youtubeでチャンネル登録がまだの方は登録お願いします。

これからもデザインを通して、面白い知識を沢山投稿していきますので
見逃したくない方、ぜひよろしくお願いします。

ではまた!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?