AI審判との向き合い方

以前書いた「審判のAI化は世界を悪い方向に導く」の続編です。

前回の記事では、簡単に言うと「審判ってAIのやる仕事じゃないよね?」と言うことです。

この記事でも、主張としては、「審判はAIとして実装するのはなかなか難しいよね?」ということです。

どういうことか、例を出しましょう。

以下の写真、AI審判だとどう判定されると思いますか?
(球種は②のみカーブ、他はストレート)

画像2

この写真、2020年MLBのポストシーズンの写真なのですが、実はMLB中継では、際どい球などはAI審判のジャッジと実際の審判のジャッジを比較して、解説に用いたりしています。

もちろん①〜④の画像は全て中継でAI審判がジャッジされているものなのですが、「全部ボールだろ!」と思った方は多いのではないんじゃないでしょうか?

少しヒントを出すと、AI審判的には、①〜④のいくつか、いや、多くはストライクと判定します。(答えは後ほど。)

と、この問題で分かるとおり、必ずしも「AI審判にすれば人間の審判より納得のいく判定をしてくれる!」わけではないんです。

そして、これはAI審判の精度の問題ではないと僕は思います。

前回の記事では概ねこんな感じの話を書いたのですが、これじゃ少しネガティブであり、後退的で、時代に逆らうような考え方だなと思った節もありました。

そこで、「じゃあ、AI審判が使用される前提で話を進めると、どうAI審判って作れば良い?我々はどうAI審判と向き合えば良い?」と言うことを書いてみました。

※本記事で使用している中継の写真はESPNの中継映像をMLB.tvより引用してきたものです。

この記事を書くきっかけ

少し余談になりますが、導入としてこの記事を書くきっかけを書かせてください。

この記事を書くきっかけは2つあります。

1つ目は単純に前回記事のビュー数が多いから。タイトルを少し誇大にしすぎたのか、結構それで来てしまう人もいたりで。
そして有料化にしてみたら、何人か買っている方がいたので、続編をという感じです。

2つ目として、(というよりこっちがメインの理由なのですが、)ESPNの審判の晒しあげ。
ESPNとは、有名なアメリカのスポーツ局です。

ESPNでは、ストライク・ボールのコールで際どいものを、K Zone 3Dというシステムを使って下の画像のように、トラッキングデータでの球の軌道とストライクゾーンを示して、ストライクかどうか示す、いわゆる、前回の記事で説明したようなAI審判を使って中継しています。
(ピンクの部分がストライクゾーン内にある軌道)

画像1

これ自体は、リアルタイムで起動が確認できるため、いい取り組みである反面、少し審判の判定を晒し上げているとも言い切れない部分があります。

そこで個人的に特に気になったのが、2020年ポストシーズン、ワイルドカードシリーズ(WC)第2試合のアストロズ(HOU)vsツインズ(MIN)戦。

この時の主審がマニー・ゴンザレスという審判で、この試合も全体的に広めに判定をしており、HOUのスプリンガーが判定に不服を示していたり、MINのロサリオが退場になったりという試合でした。

ちなみに審判の判定の機械の判定に対する精度を調べたツイートがいくつかあったのですが、89%とあったり、96%とあったり(平均は91%~94%くらいらしい)で、良いのか悪いのかはわからなかったのですが、少し判定でいざこざあった感じの試合でした。
(K Zone 3D、MLB Gameday(1球速報のようなもの)、baseball savant(MLBのトラッキングデータがまとまっているサイト)でストライクゾーンが違う(特に高さ)ため、使用しているデータが異なると割合が異なるためらしい。)

この試合の中継局はESPN。当然のようにK Zone 3Dで晒しあげ、実況も「“マニー・ゴンザレスによると”ストライクです。」のような少し皮肉っぽい言い方も。

やはり、前回の記事で示した考えを持つ自分としては、審判がただ晒されているように見えてしまい、野球をちゃんとみれずという感じの試合でもありました。

そこで、今回の記事では、前回の記事の話も踏まえながら、その上で、もしAI審判作るならどうすべきかを個人的に考察してみます。

前回記事での内容

前回記事を小銭稼ぎのつもりで有料記事にしてしまったので、少しそこでの主張を記載しておきます。

まず、全体としてAI審判なるものは反対派です。というか、無理です。という主張をしました。

まず、ストライクの定義はもちろん、「ストライクゾーンを少しでも通過した球」、すなわち、ちょっとストライクゾーンをかすっていてもストライクです。

しかし、実際審判は「ストライクの定義に該当する球でも、ワンバウンドなど、万人がストライクとは言いづらいような球はボールにしている」らしいです。

すなわち、審判(人間)の想定する客観的視点(前回記事では審判の主観的な客観と言いましたが)からストライク・ボールは判定されており、人間の審判の基準を機械に移行するには、「人間の審判が想定する客観」を機械に実装しなくてはならず、「人間の審判が想定する客観」を定義することが必要です。

一方、AI審判と言われて想定するものとして、上述K Zone 3Dのようなトラッキングデータをただ単純に使って、それがストライクゾーンを通過しているか測定するものを想定していると思います。

ただ、当然、測定機器等によってストライクゾーンの高さの設定が異なるためストライクボール判定が異なってしまうという問題もありますが、それが解決できたとて、これは「ルール上のストライク・ボール判定」を行っているだけで、「理想とするストライク・ボール判定は行えていない」という主張をしました。

さらに、「理想とするストライク・ボール判定は行えていない」を行うためには「人間の審判が想定する客観」を定義すること自体が必要だが、それ自体を行うことは不可能ということも主張しました。

(前回の記事で書いてない内容も書いてしまったかも知れませんが、要するにこう言うことを言いたかったです。)

次章でもう少し2020年WC第2試合で気づいたことなどを加えて書きます。

AI審判はなぜ必要か?

これについて、まず考えるべき話なのですが、前回の記事で論じていなかったような気がします。

AI審判、一般的に必要とされる理由は「審判の誤審を防ぐため」とよく言われます。

まず、そもそも「誤審」とはなんなんでしょうか?

誤審とは、ストライクボールの判定では、単純に「ストライクをボールと判定する、またはその逆」と定義して問題内でしょう。

では、誤審とは誰が決めるのでしょうか?

答えは単純で、客もしくは選手です。

審判が「ストライク」と判定しても打者がストライクゾーンに入っていないと思えば、それはその選手の中では誤審となるし、中継や野球場で見ていて、客がボールと感じればその客にとってはその判定は誤審なんです。
(もちろん、審判のストライク判定よりも、客や選手のボール判定がマジョリティになればそれは審判が客観性を保てていない訳で問題な訳ですが。)

すなわち、「自分の主観から見た判定と審判の判定のズレ」、これが「誤審」なわけです。

ストライク・ボール判定への抗議はお門違い

そして、その誤審が顕著だったのがWCのHOUvsMINの第2試合。

その中でも微妙な判定をピックアップしたのが冒頭で述べた以下の4つの写真。(本当は動画で載せた方が良いんですが…)

画像3

しかし、前述の通り、この中にはトラッキングデータ(K Zone 3D)からストライクと判定されるものが含まれる、むしろボール判定なのは実は1つしかありません笑。

それでは、中継で示されたトラッキングデータを示したいと思います。

画像4

ピンク色の部分がストライクゾーンを通過した部分です。
と言うことで、答えは、「③以外全てストライク」でした。
(ちなみに主審は「③以外全てボール」とコールしていました笑)

ちなみによくTwitterで流れてくる「誤審だろ!」系のツイート、動画や画像を見ると大概このレベルの微妙な判定だったりします笑。

ということは、もし仮にファンに公表せずに、トラッキングマシーンによる判定を行っても、「誤審だろ!」系ツイートがなくなることはないということになります。

だからこそ、「そのゲームの判定を審判が全て支配し、全て任せて審判以外は抗議しない、その代わり審判には中立性を守ってもらい、客観的(マジョリティに従う)に判定してもらう」とした方が話が早い訳です。

なので、よく「審判には威厳が必要だ!」と言われる所以はこれで、審判が判定の全てを支配するためには、それなりの威厳が必要という考え方の下です。

なので、少なくともストライク・ボール判定に関して、個人的には「客だろうと選手だろうと、判定に文句を言うこと自体がお門違い(それもひとつの楽しみと主張するなら別だが)」と思ってしまう訳です。

AI審判も含めた主審のあり方

そのため、今後のストライクボール判定における主審のあり方は以下の3つかと思います。
1. 現状同様、人間が中立性と威厳を担保して審判を行う
2. 単にトラッキングデータを用いて、機械の判定に平伏す
3. 「人間の客観」を模倣する方法を考える

1.は現状維持です。2., 3.について言及します。

単にトラッキングデータを用いて、機械の判定に平伏す

現状、ストライク・ボール判定の向かっている方向がここな気がしています。

個人的に正直これもなしではないのかなとも思い始めています。

これはどう言うことかと言うと、K Zone 3Dのようなシステムを使って単純に判定する、それだけです。

2020年からMLBではトラッキングデータにHawkeyeを用いており、選手の骨格データが取れるようになりました。

骨格データが取れれば、膝の高さ、胸の高さ、腰の高さは問題なく取れると思うので、ストライクゾーンの高さの設定が難しいと言う問題は解決するのではないかと思います。

すなわち、技術的には問題なくできるはず。

ただ、恐らく気になるのは「平伏す」というところ。
これは、言い換えると、機械は中立性の担保には問題ないので、威厳を持たせ、反論を受け付けないようにするという意図です。

一理あると言うのは、トラッキングデータの判定では、データが判定のエビデンスになりうるのではないかと思っているためです。

トラッキングデータでの判定になれば、選手が抗議しようとも、客が判定に不満を覚えようとも、トラッキングデータを示せば、納得する人は多いのではないか?ということです。

上述したストライク・ボールクイズがまさにいい例で、「これ、全部ボールじゃね?」と思っても、トラッキングデータ示されれば、「そういうデータが出ているってことは、そうか」と感じる人も多いのではないかと思います。

となると、そもそも今まで「誤審とは誤審と感じた人による判定と審判の判定との差である」と言う前提で話を進めていたこと自体が間違っていて、今後の野球は「誤審だと感じても、データで納得させる」というものになる、と考えるべきであるのかなと思います。

このように、単にトラッキングデータの使用の場合だと、ある意味野球のルールの改定に近い部分はあるのだと思います。

今までの「ストライク」という判定とは異なる判定が増えることが予想されるため、この方向性で進めるならば我々が想定するストライクゾーン自体も変えなくてはならないことは留意すべきだと思います。

「人間の客観」を模倣する方法を考える

しかし、人間は変化を嫌いますから、単にトラッキングデータを用いるだけでは多少なりとも難しさはあるのかなと思います。

すなわち、「我々が想定するストライクゾーン自体も変えなくてはならないことは留意すべき」と言うこと自体が受け入れられない、すなわち「いや、確かにストライクゾーンは通ってるけど、打てなくね?」と、機械の新たなストライク判定に受け入れられない、そもそも、ストライク判定自体が変化したことに気付けず、批判する人もいるのではないかと想定されます。

これは、常々言っていた、「自分の主観から見た判定と審判の判定の差分(=誤審)」に起因する意見であると思います。すなわち、ファン、選手全員におけるこの差の合計を小さくするような、システムを作れば良いと言うことになります。

言い換えると、「主観のマジョリティ(=客観)と審判の差分を小さくする」、もっと言うと、「審判の判定を主観のマジョリティ(=客観)に近づける」と言うことです。

これを実現するにはどうすれば良いか?主観のデータを集めてきて、それをもとに判定させればいいと言うことになります。

主観のデータには審判のデータを使えば良いと思います。
なぜなら審判は「審判の想定する客観的な判定(=審判の主観から見た客観的な判定)」を行っているため、これらを使って問題ないはずです。

そのため、僕が提案する「人間の客観」を模倣する方法の1つとしては、ストライクゾーンの境界付近の球のみ機械学習させてしまうと言う方法。

機械学習とは、ざっくり言うと、機械に特徴と答えをたくさん与えて、機械にそれらを学習させることで、全く別の特徴が来たときにそれに対応する答えを算出する方法。

今回の場合だと、球のストライクゾーンへの侵入角度やコース(座標)など、その軌道を端的に表す特徴とそれが審判にどのように判定されたか(ストライクorボール)のセットを大量にシステムに入力し、どういう特徴の軌道のボールがストライクになるか学ばせます(機械学習させる)。

そして、機械学習させたシステムに全く学んでない軌道の特徴を入力すると、ストライクかボールかを学んだデータに基づいて判定してくれるというものです。

ただ、この方法だと機械はストライクゾーンという定義を知りません。(この軌道はストライク・ボールというデータのみで、どこからどこまでストライクかはデータとして入れていないため。)
なので、以下の方法でやるということも方法としてはあるかなと思っています。

1. 明らかにストライクの球(真ん中付近の球、全くストライクゾーンにかすってもいない球)はトラッキングデータのみでストライクと判定
2. それ以外の球は上記機械学習したシステムで判定

もちろん案レベルなので、閾値とか何も考えていないですが、上記の方法とかで主観のマジョリティが機械が理解できれば、人間の判定に近いAI審判はできるのではないかなと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?