防衛省ワクチン予約システムが大欠陥により暇人の玩具に。悪いのはだあれ?
欠陥だらけのワクチン予約システムを巡る報道合戦
現在政府は大規模なワクチン接種に向けて準備を進めており、早ければ月内にも高齢者を中心として実施される見通し……だった。
ところが、肝心のワクチン接種の予約システムが欠陥だらけで、早くもあちこちで不具合や不正が発覚。複数のメディアがそれを「具体的な内容付きで」報道した事で、イタズラや冷やかしの類が急増。
このままではワクチン接種自体が取り止めになるか、もしくは新たな予約システムを自治体が個々に用意するかといった、「こっちこそ深刻な非常事態だろ」という状況にある。
今回、システムの欠陥を突いた記事を公開したものの、混乱を招いた首謀者とされているのは朝日系列のAERA。
次いで、1時間遅れで毎日新聞も同様の記事を公開しており、この両者を "戦犯" と見るひとも多いようだ。
岸防衛大臣激オコ
この報道を受けて、防衛大臣の岸信夫は、報道があった翌朝Twitter上で抗議の声を挙げている。
今回、朝日新聞出版AERAドット及び毎日新聞の記者が不正な手段により予約を実施した行為は、本来のワクチン接種を希望する65歳以上の方の接種機会を奪い、貴重なワクチンそのものが無駄になりかねない極めて悪質な行為です。
両社には防衛省から厳重に抗議いたします。
不正な手段でのワクチン接種の予約は、本当に希望する方の機会を喪失し、ワクチンが無駄になりかねないと同時に、この国難ともいうべき状況で懸命に対応にあたる部隊の士気を下げ、現場の混乱を招くことにも繋がります。
との事で、「不正な手段で予約を入れ、本来ワクチン接種すべき高齢者の機会を奪い、ワクチンを無駄にしたメディアが悪い」と主張しているのだが、この点は話がおかしい。
朝日や毎日の報道によってイタズラの方法を知り、実行しているバカはあちこちにいるようだが、両社の記者は「予約が完了されるか確認したところでキャンセルした」と明記している。
【AERA】
念のため、もう一度、予約をしてみた。市区町村コードは「555555」、接種券番号は「4444444444」、生年月日は「1954年1月1日」にした。こちらも5月30日16時30分からの枠を予約できた。6桁、10桁未満だとエラーが出たが、それを満たせば予約が取れるというセキュリティ上の“欠陥”があるのだ。(編集部で取った予約は現時点でキャンセルしている)
https://dot.asahi.com/dot/2021051700045.html?page=2
【毎日新聞】
予約システムが正常に機能するかどうかを検証するため、記者が防衛省のウェブサイトから、架空の市区町村コードに加え、架空の接種券番号の10桁の数字を入力すると、手順が進んで接種会場と時間帯の指定ができ、予約が完了した。65歳未満となる生年月日を入力して予約できることも確認した。記者が試した予約はすでにキャンセルした。
https://mainichi.jp/articles/20210517/k00/00m/040/165000c
よって、この "取材そのもの" によって、他者のワクチン接種機会が奪われたであるとか、ワクチンが無駄になったとは言えない。
ここまでの状況を踏まえた上で、この一件について誰がどう悪いのか考えてみよう。
そもそも評判最悪だったコロナ予約システム
ワクチン予約システムに関しては、だいぶ前から不安の声が挙がっており、実際に予約が始まってからも、あちこちから不満が寄せられていた。
例えば新潮の記事にこのようなものがある。この記事には土壇場で仕様変更した事による不具合や混乱について書かれており、私個人の考えでは、今回の一件を招いた要因は、この記事の後半にすでに書かれていたなと思う。
COCOAが問題視される一方で、コロナ対策のために乱開発されているシステムでは、発注する政府側も受注するベンダー側も、当事者意識を欠いているようだ。国会では、それを象徴するような官僚の答弁もあった。
内閣官房が「読み込み可能」と説明していたバーコードが実際には使えないことについて、伊藤議員が「使えるのか、使えないのか」と迫った。それに対して、IT総合戦略室に所属する内閣官房審議官が答弁した。
ところが、「バーコードは参考情報として表示されている。18桁のOCRラインで読み取るようにしている」
と答えるのみ。混乱する現場の実情を知りながら、「バーコードは使えない」と認めることは、決してなかった。
たまらず伊藤議員は、「使えないのなら自治体の方々に、『使えない』としっかり認知するように案内してください」と釘を刺したのだった。
ようは、国のシステム開発とその実装・運用に対する姿勢や考え方が根本的におかしいという話なのだ。
また産経も今回の朝日・毎日の報道より先に、このようにワクチン対策の新システム全体について、問題点を指摘している。
ようは朝日や毎日は、ピンポイントで最も致命的な部分を晒したというだけで、実はそれ以前からこれらのシステムについては「やべーやべー」と言われ続けていたものなのだ。
この大前提を頭に入れているか否かで判断が分かれそうである。
朝日や毎日は、メディアとして特に嫌われる事が多く、私もこの2紙については「シねばいいのに」くらいに思っているけれども、だとしても岸大臣の言い分を真に受けて国を被害者として見ることは出来ない。
現実問題として、朝日や毎日が何かしたからこうなっているのではなく、大げさに言えば「自民一強体制による国家の舵取り自体がおかしい」という話なので、報道されたからどうだは二の次と考えるべきなのだ。
例えば自民党など、数え切れぬほど多くの国民の人生をぶち壊し、氷河期世代をまるごと棄民化した戦犯であるパソナ竹中を、未だに要職に就けて反省もしない連中だ。
まずはこいつらが物事の考え方や国民に対する姿勢を改め、その上で大事に臨まねば、今後も似たような大失態が繰り返されるだろう。
朝日と毎日の罪の重さについて考える
今回の報道について色々と非難の声が挙がっているのだが、中には「法に触れている」という指摘もある。
ただこれについても非常に微妙で、少なくとも今回の記事については、両方とも実際に予約を終わらせて接種を受けた訳ではない。言っている事が本当ならば、すぐにキャンセルしているそうなので、最前線の担当者の手を煩わせてもいないだろう。
また、他人のパスワードを盗み取った訳でも、厳重にロックされた場所に忍び込んだ訳でもないため、不正アクセス禁止法は成立しえない。なんせこの予約システムは「家に鍵がかかっていない」という状況で、いつ誰がひょこり入って来ても仕方がない仕様だったのだ。
とはいえ、これは適用される可能性が高いなと思われる刑法も存在している。まず頭に浮かぶのは『第百六十一条の二 電磁的記録不正作出及び供用』だ。
第百六十一条の二 人の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を不正に作った者は、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
2 前項の罪が公務所又は公務員により作られるべき電磁的記録に係るときは、十年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
3 不正に作られた権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を、第一項の目的で、人の事務処理の用に供した者は、その電磁的記録を不正に作った者と同一の刑に処する。
4 前項の罪の未遂は、罰する。
例えばだけど、これが仮に新聞屋ではなくIT系の技術屋だった場合。たまたま何らかのシステムの不備を見付けて、好奇心から実際に誤作動を起こさせて、それを自分のブログなどで大々的に公表したら、開発・運営元に訴えられて前科者になる可能性がある。
また『電子計算機損壊等業務妨害罪』も非常に怪しい。これについては分かりやすいpdfがあったので、それをご参照いただきたい。
http://www.book-stack.com/browsing/9784990643812t.pdf
他にも「公務執行妨害では?」という声も見かけたが、私が特に気になったのは上記の2つ。これについては比較的誕生間もない法律なので、どういう状況でどう運用されるのか、素人では想像がつかない。
とはいえ、仮に何らかの法に触れてしまい、訴えられたとしても、朝日・毎日は覚悟の上だと信じたい。
私もそもそもジャーナリスト修行をしていた身で、若い頃には修行先の爺様連中に尻を叩かれて、一旗揚げるために色々な無茶をしたが、前科が付くなんて覚悟の上だった。
仮に何かの法に反していたとしても、社会のため、天下国家のためと大義名分が成立するならば、喜んで刺しに行って、罰を受けて、お務めを済ませる。それがペン屋の道だと叩き込まれた。
そう考えると、朝日や毎日は「覚悟の上」で、今回の記事を公開したのだと信じたい。そういう覚悟を持っているから権力の監視ができるのだし、それをやるからこそ「報道特権」が許されるのだ。
私としては、この件で朝日や毎日が無罪だとは主張しない。罪も罰も覚悟の上で、ペン屋としての矜持や生き様を優先させたのだろうと見ておく。
が、もし仮に国に怒られて朝日や毎日が意趣返しして平謝りして土下座しようものなら、その時は朝日・毎日をクソ叩きにする。覚悟がねえならイキった真似すんな(前もって言っておく)。
まとめ「誰がどう悪いのよ?」
今回の件について、単に自前の媒体で欠陥を晒すだけで終わっている朝日と毎日は、「報道の矜持もあるんだろうけど、人としてどうなんだよ」と不快感を覚える事は仕方がない。
今がどういう時かという状況を考えたら「第一報になってしまう場合」はもう少し内容をボカして、「重大な欠陥を発見した」というところで止めるべきだろう。その上で政府の担当者に連絡し、具体的な欠陥の内容を伝え、早急にシステムを止めるなり何なりさせるべきだった。
これが最も安全かつどこからも非難が挙がらない選択肢だっただろう。
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