見出し画像

今回の「CRカップ」が歴代で一番レベルが高く面白かったと感じた理由を考えた。

■ 圧倒的な人気を誇る「CRカップ」とは?

 本日(5/15)、第5回目となる人気FPSゲーム『APEX Legends』の大会「CRカップ」が開催されました。

 プロゲーミングチームである「Crazy Raccoon」が主催する大会で、最大同時接続者数20万人を突破。当日は日中からTwitterトレンドに「CRカップ」が入るなど「APEX」の大会でもトップクラスの人気と注目度を誇っています。

 stylishnoob、渋谷ハル、NIRUといったFPSシーンを代表する人気ストリーマーに加え、アーティストや漫画家、そして、なんといってもCrazy Racoonに所属するRasSellyMondoCptといった競技シーンで名を馳せるトッププレイヤー(MondoとCptは現在、ストリーマー部門で活動中)が一堂に会し行われる白熱の試合は、今大会も多くの視聴者を魅了しました。

 そして個人的には今大会がこれまでの中で最もレベルが高く、どのチームが優勝するか最後までわからない白熱した大会だったと感じました。

■ 「CRカップ」に起きた変化とおじじの決意

 これまで6回にわたって開催されてきた「CRカップ」ですが、前回大会から今回が大会として一番大きな変化があったと言えるでしょう。きっかけは、前回大会で運営側が下した「とある判断」まで遡ります。

 「CRカップ」は出場するにあたりチーム間のレベル差が開き過ぎないようにするためにチーム組成のためのポイントが定められています。

 ランクマッチの戦績によって以下のように独自のptが定められ、合計が24pt以下になるようにチームを編成しなくてはいけないルールがあります。(日本語が達者でない、女性プレイヤーなどはマイナス2ptとなるなどの詳細条件もあります)

ブロンズ 1pt
シルバー・ゴールド 2pt
プラチナ 4pt

ダイヤ3-4 6pt

ダイヤ1-2 8pt

マスター 10pt

プレデター 12pt

強いプレデター 14pt

競技シーン 16pt
Ras・Selly 18pt

 これらのルールは「Crazy Racoon」のオーナーであるCR.おじじによって定められており、競技シーンの中でも特に好成績を残している、RasやSellyは特に強いから、という理由で非常に強いpt制限がかかっていました。

 そのため、二人はプラチナ帯やゴールド帯のメンバーを中心にチームを組成せざるを得ず、Rasのチームは3位となりましたが、Sellyのチームは16位となり、事前の期待に応えるほどの戦績を残すことができませんでした。

※ なお、前回大会でRasやSellyと一緒に組んで出場されたメンバーの方々を貶める意図は一切、ありません。皆、精一杯頑張って取り組まれていました。

 さらに第3回大会優勝を果たしたMondoはつめKUNのチームは、同じメンバーで挑んだところ、練度が高く、大会2日前に「事前のカスタムマッチが強過ぎた」という理由でキャラクターの使用制限が入ってしまいました。結果として、第4大会では、最下位になってしまうという出来事もあり、CR.おじじおよび運営側に対して批判の声も寄せられました。

 ※ その後、なぜかKUNさん主催の大会「わくわく参加キッズカップ」でも2日前にキャラクター使用制限が課せられるチームが発生するという悲劇の連鎖が起きています。

 これらにより本来は圧倒的な実力を誇るRasやSelly、Mondoらの実力が存分に発揮されることがなくなってしまい、また、チーム練度の高さによる面白さも削がれてしまい、ハイレベルな競技シーンプレイヤーの戦いぶりを見ることができるという「CRカップ」ならではの魅力がスポイルされてしまいました。

 CR.おじじも大会後には「個人的には反省点の多い大会だった」という趣旨のツイートを投稿しており、第5回大会では運営体制の改善やルール改正が行われるのでは無いかと予想されていました。

■ リブランディングされた「CRカップ」

 そして迎えた第5回大会。CR.おじじが定めたルールは以下のように改訂されました。

・ Ras・Sellyのポイントが16ptに変更
・ 前大会と同メンバーでのチームは+2pt

 これにより前回大会で十分に力を発揮することができなかったRasやSellyのチーム組成の自由度が向上し、さらにMondo・はつめ・KUNチームのように同メンバーによる練度を理由に途中調整が入ることもなくなりました。

 出場者のptもCR.おじじ一人で決定していたものが、評議会を設けることにより、より納得感を得られるルール作りが行われました。

 この変更によりSellyは、カスタムマッチ中に4,000ダメージをたたき出し、本番では、総合4位と奮闘。特に第3戦は、ひとり欠けた状態でCptチームを潰し、チャンピオンに輝くなどスーパープレーを見せつけました。

 さらに総合2位となった、RasもSellyに負けじと大暴れ。ひとりで3タテはもちろん、最終戦でも一気にキルを重ね、「魔王」の称号に相応しいことを改めて知らしめました。

 後者の変更(同メンバーチームは+2pt)については公平性を担保する意図が強いものですが、前者の変更(Ras・Sellyのポイントが16ptに変更)については、Crazy Raccoonとして非常に大きな意志を感じました。

 つまり「競技シーンのプレイヤーの魅力が伝わることで、配信シーンと競技シーンの架け橋となる大会」というフィロソフィが確立されたのです。

■ 競技シーンと配信シーンに見えざる壁が存在するゲームシーン

 ここで競技シーンと配信シーンの違いについて押さえ直します。メディアでは「eSports」「ゲーム実況」が全てごちゃごちゃにされてしまう傾向がありますが、実際には様々な違いがあります。

 本記事では、「ALGS」など競技大会に出場し、プロゲーミングチームに所属するプレイヤーを<競技シーン>のプレイヤー=プロゲーマー。競技大会には出場しないが、カスタム大会には参加することがあり、いわゆるゲーム実況者としてなを名を馳せるプレイヤーを<配信シーン>のプレイヤー=ストリーマーと定義しています。

 YouTubeで多くのチャンネル登録者を有するのは後者であるストリーマーが多く、TIE_Ru(チャンネル登録者数:56.4万人)、ボドカ(チャンネル登録者数:55万人)、渋谷ハル(チャンネル登録者数:49.5万人)らが、絶大な支持を受けています。

 一方、競技シーンのプレイヤーは一部を除き、どうしてもストリーマーほどのチャンネル登録者数を得られない傾向があります。また「APEX」はまだまだ世界大会の賞金規模でも決して大型とは言えず、競技シーンのプレイヤーが大会出場による賞金<だけ>で生活を成り立たせて行くのが難しい現状があります。

 それは決して彼らの人気や実力によるものではなく、プロゲーマーを取り巻く構造にあると考えます。

 ストリーマーが提供する動画や彼らが多く出場する大会の配信は、ゲームをやり込んでいるプレイヤーだけではなく「トークが好き」「応援したい」といったファンや「もっと上手になりたい」という初心者やライトユーザーも視聴しやすいものが多く、視聴者の裾野が広がります

 一方で、プロの大会やカスタムマッチでは『APEX』をプレーしたことがないユーザーや初心者が視聴し、楽しむためにはある一定の知識がどうしても求められてしまいます。そのため、一足飛びにプロシーンに視聴者が流れ込みづらい傾向があります。

※ これは「スケートボード」や「BMX」に代表されるアーバンスポーツにおいても近しい傾向が見られます。

 しかしながら「CRカップ」では、ストリーマーやアーティスト、クリエイターらそれぞれのファンが一堂に会し、競技シーンとは普段接点のないユーザーが大勢視聴するチャンスとなります。

 プロ選手と本気で対戦することができるのはゲームならではです。クリスティアーノ・ロナウドやメッシとプロではないサッカープレイヤーが対戦することはありません。

 ストリーマーが競技シーンのプレイヤーとぶつかり合い、その実力が際立つことで、視聴者は、スーパープレーの数々に魅了されたことは間違いありません。

 競技性とのリンクについては「Mildom」で行われた公式配信でも意志が伝わってきました。

 「神目線」と呼ばれる俯瞰した画面を多用することで試合展開をしっかりと把握できるようにしたり、2面マルチの活用による対戦プレイヤー同士の目線の明確化、さらに、実況を務めた平岩アナウンサーは、カスタムマッチにおける各プレイヤーの戦績を抑え直りしたりと、競技・試合としての魅力をきちんと伝えたい狙いが感じられました。

 解説のあれるやゲストのヘンディも各チームや個人のエピソードに触れるのは最低限にとどめ、内輪ネタに走り過ぎないようプレー性や立ち回りに沿った発話を行っていた印象がありました。

 一方で、CR.おじじが独断と偏見で選ぶ「おじじー賞」や、解説&ゲスト陣が奇怪な衣装を着用して登場するなど<「CRカップ」らしい>演出もしっかりと残されており、楽しいお祭りでありながら、競技シーンの魅力が伝わる非常にバランスの良い大会となっていました。

 こうした取り組みは、単に「Crazy Racoon」だけのブランディングや人気拡大に寄与するだけではなく、「せっかくだから今度競技大会も見てみよう」というユーザーが増えることで、他のプロチームにも大きな影響を与えることは間違いありません。

 また、競技シーンが盛り上がることでスポンサー獲得やグッズ展開などゲームを取り巻く収益構造が多様化し、プロゲーマーの地位向上や生活環境の大幅な改善につながります。

 配信内では『VALORANT』でも「CRカップ」が行われることが発表され、『APEX』以外のジャンルにおいても、ますます競技シーンが盛り上がることでしょう。

 ここには、CR.おじじをはじめとする「Crazy Raccoon」チームが本気でゲーム業界を盛り上げ、サッカーや野球など他のジャンルと並ぶほどのムーヴメントにしたい、という想いが滲んでいるのではないでしょうか。

■ 今後『APEX』の大会はどこに向かうのか?

 今後「APEX」にまつわるカスタム大会はますます増えていくことが予想されます。カスタムマッチ権限がCS版にも付与されました。

 企業も続々と参戦しています。現時点では、カスタムマッチ開催権限を有する団体や組織が限られており、カスタムマッチそのものが貴重であるため、参加者たちは喜んで参加しているケースが多いのですが、乱立することで大会のスケジュールが被り、「どの大会に出るか」を参加者側が選ぶ時期がやってきます。

 これは、アーティストが数多く出演する音楽フェスや声優が出演する朗読イベントなどでも起こったケースで、ゲームにおいても間違いなく繰り返されるでしょう。

 そこで大切になってくるのは「大会のフィロソフィ」です。単に「話題になりそうだから」「若年層を獲得できそうだから」「お金になりそうだから」という主催者の意向が透けてみえてしまう大会は参加者にとって、優先度が下がってしまうでしょう。

 参加者が「出たい!」と思うような大会ならではのエッセンスが求められるようになります。

 さらに大会側も著名人や有名人を起用しようとするとキリがなくなってしまい、例えば「案件としてヒカルに莫大な出演費を支払って出てもらおう」などのケースが多発するとなると、ニュース露出や話題性には繋がっても、競技の面白さという、大会本来の魅了が失われてしまい、結果として、コアなファンを失うことにつながりかねません。

 そんな中「CRカップ」は、<競技シーンとストリーマーシーンの架け橋>という独自性、そして<練習カスタムを通じて得られるドラマ>という二つの強みを有しており、「CRカップ」ブランドを確固たるものにしました。

 他のカスタム大会でRasやSellyといった競技シーンの選手に1週間にわたってスケジュールを割いてもらうことは不可能に近く、これもCrazy Raccoon主催だからこそできる強みです。

 そして、彼らのように圧倒的な力を誇るプレイヤーに対しても、だるまいずごっどやきなこらが対抗し、必ずしも競技シーンの選手一色に染まらなかったあたりに、ドラマ性や魅力を感じた方も多かったのではないでしょうか?

 今後「Mildom」や「OPENREC.TV」といった配信媒体による権利獲得競争もますます激化していくでしょうし、テレビやその他動画配信PFが参入してくる可能性もあります。

 それによって配信媒体側の収益モデルも変化を求められ、CRカップの姿も変化して行く可能性があるはずです。(※ このあたりは本題からずれてしまうので後日また記事化しようと思います。)

 そんな中でも、今回の大会によって確立された「CRカップ」の<フィロソフィ>はぶrことなく、『APEX』のみならずゲーム業界を代表する存在へとますます成長して行くことでしょう。 

 最後にはなりますが、「CRカップ」出場者の皆様。「CRカップ」運営に携わったスタッフのみ皆様。そして大いに盛り上げたファンの皆様。本当にお疲れ様でした。

 第6回の「CRカップ」が開催される日を、そして、競技シーンがさらに盛り上がりを見せることを心待ちにしています。

=====================

筆者プロフィール
大原 康明(おおはら やすあき)
1989年11月1日生まれ。神奈川県出身。テレビ局勤務。
番組制作部門でドキュメンタリーや音楽番組、コント番組、ドラマなど数々の番組でプロデューサーを務める。現在は、新規コンテンツ開発、コミュニティ開発、イベント開発などを担当。好きなレジェンドはミラージュだがランクでは封印。好きな武器はボルト。当たらない武器はウィングマン。
Twitter:https://twitter.com/OharaSpeaking/

=====================



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?