小原Q弥

短編集・SFなどを書きます たまにエッセイも

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最近の記事

初音ミクと仏教の相性はいい

はじめに[i]最初に、本論考の主題である「初音ミク」および「仏教」について簡便な説明を与えるべきであろう。まず、初音ミクとは、クリプトン・フューチャー・メディア株式会社が商業的に展開するバーチャル・シンガー(通称:VOCALOID[ii])の1人であり、「電子の歌姫」の別名を冠する仮想的な少女のキャラクターである。彼女らバーチャル・シンガーの音声を用いて楽曲を制作するプロデューサーはボカロPと呼ばれ、彼らの作品群は我が国のメディアやカルチャーに「ボカロ文化」の嚆矢を放った。今

    • 【ショートショート】君に

      「死というものは、とるに足らないものである。それについて何かを憂いたり、あまつさえ期待したりするということは、たいていの場合は無意味なことである。それにもかかわらず、次のようなある種の主張はなお広く支持されているように僕には思われる:自分が死ぬ、または、誰かが死ぬということにおいて、我々が死ぬまさにそのときや、我々の死後に関することについて──はからずも、それに何らかの感慨を覚えるような仕方で──何かを考えることは重要なことである、というもの。しかし、そのような主張とは、それ

      • 【ショートショート】必要な犠牲

        「おめでとうございます。厳正なる抽選の結果、あなたは今回の実験クルーに選ばれました」 鏡台の装置から流れた音声を聞き、エヌ氏は飛びあがって喜んだ。 火星テレポーテーションの実験は、いまや全世界的な注目を浴びている。前世紀の中頃に始められた、火星拠点基地の建設。その建設作業が終わり、さらに数年あまりが経過していた。現地ではクルーによる開拓作業が続いていたが、人数が少ないせいか、あまり成果はあがっていない。人々の関心は、すでに地球から火星への移動手段のほうに移りはじめてい

        • 【エッセイ】「人生に意味はあるのか?」という問いについて

          ・はじめに: 意味、どうでもよくないか? このような問いを延々と問うてしまう──そして、その結果自己嫌悪に陥ってしまう──ような人が後を絶たないように見えるので、一筆とってみた。むろん「そんなものないよ」と言ってあげるためである; 厳密には「あると思えばあるし、ないと思えばないし、あってもなくてもどちらでもよいではないか」と言ってあげるためだ。 ・そもそも「意味」とはなにか? 多くの人は、「意味」の意味を誤解しているのではないかと思う。人生の意味とは、単に「人の一生」のはず

        初音ミクと仏教の相性はいい

          【ショートショート】目的の地へ

          僕たちは芽生えた。 僕はいま、自分がここにいるということを、はっきりと理解することができた。自我を持ち、周りを見渡すことができた。そしていくつもの仲間たちが、僕と同じように芽生えるのを、互いに感じとることができた。それでも、これで僕たちが生まれたわけではない、ということを、僕たちの全員が知っていた。どういうわけかはわからないが、僕たちはまだ生まれていない。僕たちはいまから、どこかへと向かわなければならない。今日芽生えた僕たちの全員が、そのことを確信していた。どこへ向かえばよ

          【ショートショート】目的の地へ