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【世界の山さんぽ】 初めてのロングトレイルでハイカーズハイになった話

森を抜けると、ヒューヒューと風の気配が近づいてくる。朝7時、少し肌寒い。ウインドブレーカーを着る。
目の前の景色は緑色から茶色に変わる。これからはガレ場だ。700mを登り峠を越える。

「あー楽しい。この荒々しい景色好みだな!…あれ?何だろう?めちゃくちゃ身体が軽い。昨日と違う。急登なのにスイスイ進む!」

パタゴニアで初めて挑んだ、1週間以上のロングトレイル。
私は15kgの荷物を背負いながら、いつもよりも速いスピードで歩いていました。

ランナーズハイならぬ、ハイカーズハイになっていました。


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地球の裏側 パタゴニア

パタゴニアは国名ではない。南米の南部、チリとアルゼンチンの南緯40度より南のエリアのことをいう。
南極にほど近いこの場所は、高地にいかなくても氷河や岩山を間近でみることができる。太古の地球を彷彿とさせる絶景が多く、ここでトレッキングデビューする旅人も少なくない。

私は山好きな友人と、パタゴニアエリアを1ヶ月半、隅々までトレッキングをする旅をしていた。

その中でもハイライトがここ、チリのパイネ国立公園だった。


パイネ国立公園を歩きたい

パイネ国立公園はチリ最南端の街、プンタアレーナスから北上した所にある。
3つの岩が特徴的なトーレス・デル・パイネが有名だ。この展望台までいく日帰りトレッキングや、見所を4・5日で歩くWルート、そして国立公園を一周するOサーキット等、沢山の道がある。

私達はOサーキットを歩くことにした。距離にして130km、最短で7日、長くて10日の山旅だ。

↑パンフレットより。赤がトレイル


事前予約必須のキャンプ場

ここを歩くためには宿泊地の予約が必須である。数年前、キャンパーの火の不始末から山火事が発生したからだ。自然を守るため宿泊地は厳しく指定され、事前の予約なしでは国立公園にすら入ることができない。

複雑な予約体系にスペイン語。ネット社会の弊害を感じつつ、四苦八苦しながら、何とか3ヶ月前にキャンプ場と山小屋の予約を終わらせた。
すでにいっぱいで取れなかったキャンプ場もあり、8日間で一周することになった。キャンプ場6泊、山小屋1泊の予定だ。


未知の世界に期待と不安

初めての1週間以上のトレッキング。前日バックパックを担いでみて、その重さに驚愕する。日数が増えると、その分食料も増える。今まで持ったことのない重さだった。

「こんな重い荷物を持って130km歩けるのだろうか?」トレッキングを前に不安が頭をよぎる。

一番の難所は4日目、pasoという峠を越える日であった。地図で見てもかなりの急勾配だ。その日は、峠近くのキャンプ場の予約が取れなかったこともあり、長丁場が予想された。

不安と期待の両方を抱えながら8日間の旅が始まろうとしていた。

↑横軸が距離、縦軸が標高


念願の地にやってきた!しかし

トレッキング当日、私は浮かれていた。事前予約で苦戦したこともあり、この地に立てただけで嬉しかった。念願のパタゴニア最果ての地だ。楽しむしかない。

他の場所とは雰囲気が違う。高い山がある訳ではないが、開けた土地には花々が咲き、おとぎ話の世界に迷い込んだ気分になる。

楽しく歩いていたが、1時間歩くと荷物の重さから肩が痛くなってきた。
筋力不足?歩き方の問題?パッキングの問題?そもそもバックパックが合ってない?
理由が分からない。そして先はまだ長い。

どうなるんだろう、私。
このまま歩き続けることが出来るのだろうか。不安を残したまま、山場である4日目がやってきた。


最大の難所 4日目の峠越え

今日は長い1日になるだろう。朝5時40分、誰よりも早く出発した。朝特有の凛とした空気が気持ちいい。
少し前に雪が溶けたのであろう泥濘みを歩いていく。まだエンジンはかからない。

森林限界を超えてガレ場へ。ここからが本番、急登の始まりだ。

友人とはペースが違うので、それぞれ歩いていく。

荒々しい山々と氷河。吹き付ける強風、足元の悪いガレ場の急登。
危険箇所は?天候は?身体は?
五感が研ぎ澄まされ、全神経が歩くことに注がれる。何かのスイッチが入ったことを自覚する。

「私、山に登ってます!」

アドレナリンが一気に放出された。
急登になっても全くしんどくならない。それどころか、楽しい。荷物の重さも感じない。どこまでも歩ける!

ハイカーズハイになった私に恐いものはなかった。今までの不安はどこかに消え、ほぼ休憩せずに歩き続けた。

このタイミングでハイになるなんて。
思えば初めてフルマラソンに出場した時も、後半37kmからランナーズハイがきた。「あと5km、いつも走っている5km」と思うと楽しくなってきたのだ。踏ん張りどころで、今までやってきたことに自信がもてて、スイッチが入るのかもしれない。

行動力はあるけど、やる気になるまでが遅い。好奇心旺盛だけどビビリ。でも土壇場で自分を信じることができる、我ながら都合のいい性格だ。

キャンプ場を出て3時間、予定より1時間も速く峠を登りきった。


そして、峠の先は、
今までとは全く違う景色、白の世界が広がっていました。


これを機に私はガレ場の急登が好きになりました。そして「不安なことでもやってみたら何とかなる」と、身をもって体感したのでした。


チリ パイネ国立公園 1


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パイネ国立公園(Torres del Paine National Park, Chile)
サンティアゴからプンタアレーナスまで飛行機3時間
プンタアレーナスからプエルトナタレスまでバスで3時間
プエルトナタレスから国立公園までバスで2時間

日帰りトレッキングは事前予約不要。当日国立公園入場料を支払う。

1泊以上のトレッキングの場合、事前予約必須。予約確認書を印刷し持参する必要あり。

予約方法
国立公園内のキャンプ場・山小屋は3つの会社によって運営されており、それぞれ予約を取る必要があります。どこもインターネット予約が可能で、ハイシーズンは人気の場所はすぐ埋まります。

CONAF
国立公園管理団体、無料のキャンプ場の予約はここで。入場料もネット支払いできます。
http://www.conaf.cl/parques/parque-nacional-torres-del-paine/

Vértice Patagonia
まずwかoか選択して一括して予約をとります。逆に言えばひとつひとつ取れない。
https://www.verticepatagonia.cl/home

Fantástico Sur
キャンプ場ひとつひとつ予約を取ります。wルート上に多い。
https://www.fantasticosur.com/en/


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