ランダムな3単語から短い物語を書く②(お題「ギタリスト/江戸時代/ゲーム」)

言葉をまとめる練習でランダムな3単語から短い物語を書くことをしています。
これは4月上旬頃に書いた文章です。

お題は「ギタリスト/江戸時代/ゲーム」ですが、江戸時代が出てきません。江戸が舞台の落語を組み込んで満足していたようです。


俺はギターが下手らしい。
軽音部に入って数ヶ月、同期の1人が言い出したことが今では部全体の認識になっていた。ミスが多いわけでもFコードが弾けないわけでもない。ただなんとなく下手に見えるらしいのだ。

「良いギタリストってのはな、顔で弾くんだ」
自室で練習していると兄貴が茶々を入れてきた。そのすぐ後でズゾゾゾと麺を啜る音がした。見ると正座してかけそばを啜っている。俺の布団の上で。
「人の布団で美味そうに飯食うな」
「美味そうじゃなきゃいいんだな?」
そこじゃない。俺が言う前に兄貴はまた麺を啜る。今度はズゾゾとはいかず箸で無理やり口に押し込んでいるようだった。モッチャモッチャと咀嚼する。不味そうだ。
「そういうことじゃなくて」
「うっ」
「嘔吐くな」
「いいか……、ギターはな、顔で……うっ」
「わかったから。布団で飯食うな」
「そういうこと、それなら早く言ってよ」
蕎麦のことはお構いなしに布団からぴょいと降りる。空中に放られたどんぶりがひっくり返り布団が蕎麦まみれに……とはならず、いつも通りのくちゃくちゃのままだった。
俺が不思議な顔をしていると、兄貴はまたズゾゾとやり始める。手元には何もないのに蕎麦が見えるみたいだった。
「これ、美味そうか?」
兄貴は箸、もとい扇子で手元の空間を指す。
「美味そう」
「じゃあこれは?」
今度はモッチャモッチャとやる。
「不味そう」
「だろ? だから、ギターは顔で弾くんだ」
「それがわからん」
兄貴は呆れ顔のまま話を続ける。
「この蕎麦が美味いかどうかなんて見ただけじゃわからんのだろ? 俺が美味そうに食ってはじめて"美味い蕎麦"になる。つまり、だ」
言葉を切りニヤリと笑うと扇子で俺を指す。
「お前のギターが上手いかどうかなんて聞いただけじゃ分からん。だったらお前が上手そうな顔しとけば、上手く聞こえるってわけよ」
「いや、聞いたら分かるだろ」
「ギターの良し悪しなんてガキに分かってたまるか」
「俺もガキなんだけど」
「うるさいやい」
そう言うと俺の机からゲームを奪い、布団に寝っ転がる。文句の一つでも言ってやろうかと思ったら、もう一度うるせぇと怒られた。勝手な男だ。
「これ、どのキャラが強いんだ?」
上から画面を覗き込み、少し考えてから丸いピンクのキャラクターを指さす。
「嘘は良くない。強い奴は強そうな顔してるもんだ」
俺の言葉を無視して緑帽子の剣士を選ぶ。
「そいつ使いづらいよ」
「強けりゃあいいんだよ」
そう言い切る前に緑の剣士は死んでしまった。ほら言わんこっちゃないと兄貴を見る。
「ほら言わんこっちゃないって顔するな」
「ほら言わんこっちゃない」
「言うな」
そしてやめだやめだと言いながら部屋を出ていってしまった。
「とんだ与太郎じゃないか」
そう呟くと俺はまたギターを手に取った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?