ランダムな3単語から短い物語を書く③(お題「スリッパ/生きる/滑り台」)

言葉をまとめる練習でランダムな3単語から短い物語を書くことをしています。これは1番最新の文章です。時間をおいて見直していないのでかなり拙く感じるかもしれません。まだまだ上げてない文章はあるので、それらも気が向いたら上げる予定です。

お題は「スリッパ/生きる/滑り台」でした。


幼い頃の記憶。
大きな遊具がたくさんある施設へ遊びにいったことがある。一緒に来た友達は到着するなりジャングルジムや丸太の吊り橋目指して元気よく走っていった。周囲はあっという間に叫び声や悲鳴で満たされる。
僕は堪らなく居心地が悪かった。
少しでもそこから離れたくて高いところを巡る大きな大きな滑り台まで走った。ようやく動き出した僕を見て母親が安堵の表情を浮かべるのが見えた。それも嫌だった。
滑り台の長い長い階段を登り切る。全てが遥か下だった。少しだけ息がしやすい感じがした。僕は滑り台のヘリを手で掴みゆっくりと下っていく。いろんなものが見えるのは面白かった。僕はそれらを丁寧に観察した。
中腹まで来ただろうか、不意に背後から騒がしさが迫ってくることに気づいた。先程まで別の遊具に群がっていたはずの友達が叫び声を上げながらすごいスピードで迫ってくる。咄嗟に「避けなきゃ」と立ち上がりかける。それがいけなかった。不安定な姿勢になった僕に「どけどけどけー!」と子供らしい叫びをあげ突進してくる友達。
友達の勢いに弾き飛ばされた僕は滑り台から転げ落ちる。混乱して叫び声を上げることすらできない僕は硬く目を瞑り地面へと吸い寄せられていく。そしてーー

ドシンという重い音で目が覚めた。
何が起きたのか理解するのに数秒を要した。
周りを見回していると床に転がったぬいぐるみのサメと目が合った。伸ばした腕でサメを掴みお腹の上に乗せる。
どうやらベッドから落ちたらしい。
起き上がるのも気だるくてサメを胴上げしていたら、ドタドタと階段を駆け上がる音がして部屋のドアが勢いよく開かれた。
「大きな音したけど大丈夫!?」
母親だった。ノックくらいしてほしいと思ったけど、言ったら怒られるだろう。さっき投げたサメを捕まえ損ねて顔に落とす。
「なんだ、サメと遊んでたの?」
「……うるせー」
「朝ごはんできてるからね。……あ、あと学校のスリッパ新しいの買っといたから」
それだけ言うとまたドタドタとリビングへ帰っていく。
「あざーす」
一応、感謝の言葉を口に出しておく。すでにそこにいないのであまり意味はないのだけれど。
上半身をよいしょと起こしサメの尻尾を掴む。ヘニャヘニャだった。何度直してもいつのまにか頭の方に綿が偏ってしまうのだ。俺のスリッパみたいだな、と思った。何度買い直しても右足だけペラペラになってしまう。どれだけ意識しても直らなかった。
生きるのが下手くそだと漠然と思う。
普通にしててもどこかで偏ってしまうのだ。幼い頃からずっと。

「今度こそ」と思って履き始めたスリッパは全く足に馴染まなかった。それでもできるだけ真っ直ぐ歩くよう心がける。ペラペラの右足を見て落胆することがわかっていたとしても。できるだけ真っ直ぐ歩く。

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