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ポケットに しまったままの 「いつかって?」 笹舟の上に そっと乗せる
とおりゃんせ、に似ている節の 隙間にひそんだ万華鏡 あばたをいくつと数える日々に 毬を編む娘が牙をむき あなたと叶えた蒼碧の蚊帳 くすぶるように籠城したね いまでは私は飯炊き女 労働機械のあなたに抱かれ はずむ命は仮定のプリズム 乳飲み子を抱くさかさの鏡像
日本とミミズがともにはれた日 ホノルルに響く鈴の音を 溶かして包んだパイ生地に 袋の鼠が穴を掘り ばゆんと縮まる鼓膜の振幅 キリキリいたむ鳩尾あたりに えてしてきみは考え過ぎると トリコロールの図体をした 渦巻状の薄いむらさき 湿りがちなニワトリの 眼球ずくめのプランター 怯まぬ数だけ鬼が鳴く
ポインセチアを食べたのさ きみが銀座で遊んでいたから 一枚貝のしだれた得体に しがらみみたいな顔したきみの 乳のしわよせ にぶい橙 ポインセチアを吐いたのさ きみが銀座に、埋もれていたから
買い出しを終えた鳩の平方根は 湯船に赤銅色の肉体を浮かべ 一刻ほどして 浴槽のエンプティネスに愕然とする 虚構としての自身を呪い 呆然と眺めるワイドショーのなかごろ 雉の2乗による不倫が報じられ 実体の過剰も楽ではないと合点する ただれた意識のまどろみのなか 雉√鳩は緑黄色の夜空を地蔵のように切り裂いた
だんだんだらりとしていく右脳に 鬼を殺した雀の涙と 盆に返った頸動脈の プレパラート上の結合が 神も仏も粗悪な肉も 一緒くたにして映し出す 風上に置けない風見鶏は 歪んだ風しかその身に浴びず 思念体としての次長の腕毛と 同じ速度でふすふす泳ぐ
がらんどうのラットの胃袋 あした破けてうしおをひと呑み たちまち漏れ出た黄疸のサイレン しわがれた夜に鳴り響く 後ろに向きがちなくるぶしが 天使のふりして屑拾い 遡る先を忘れたトキシラズ 真昼の海で熊が鳴く
「このタバコ、ラムみたい」って言わなきゃさ、 吸ってなかったよハイ・ライトなんて。 「くちびるが、くっついちゃう」って フィルターに、残ったピンク・コーラル・ルージュ。 長雨に降り籠められて四畳半 きみ、タバコ、ぼく、コンドーム、ビール メール来た開いた読んだ「またいつか」、 五秒で返信「いつかっていつ?」 ガレージの老朽化だけが心配と 困り顔で話してた君がぶら下がっていて 倒れてた椅子を起こして僕は君を 梁から下ろして君はまだ息をしていて 部屋に運んで意識を取り戻す
「大丈夫です。当日は安心してお任せください」 女医がそう答えると、男は目に涙を浮かべながら首を縦に振った。 夏の匂いを残した、秋の手前。 手術は失敗に終わり、女はこの世を去った。 赤、黄、緑、それぞれに色づく楓。 旅行先にて、恋人は小さな箱を開けながらプロポーズをした。 何万秒よりも長く感じる一秒。 女医は目に涙を浮かべながら首を縦に振った。
安眠に注いだ雨はひどく尖った形をしていて、蠍の尾のようにけれどもいやに誘惑的なのでもある 痺れた脳髄はだからおそらく毒によるもので、鼠くらいなら一瞬で死に至らしめるはずなのだが、鼠は死んで私は死なずに痺れている、これこそがエコノミーというやつで、しかし蠍の寵愛のために私が死なずに済んでいるのだとすれば、これはもっぱらポリティクスなのである 蠍の毒に愛が込められていたかは私のあずかり知らないところであるから、けれども私は蠍の愛について考えはじめてしまっているのであって、要す
ながいながい冬があけ そのあと冬がやってきて 先の冬よりすこしさむい そうしてめぐった幾星霜 氷河期に凍えてわたしは死んだ ながいながい夏がすぎ そのあと夏がやってきて 先の夏よりすこしあつい 寄せては返す幾年月 太陽になってわたしは死んだ いつも待たれた春秋が 面倒だからとひとつになって みんなはいやだと言うのだけれど わたしはほほえむとこしえの昼
一切の夢を見ることなく夜を明かした僕に硝子の剣みたいな陽射しが容赦なくふりかかる/コーヒー色に黄ばんだ脳は36.2℃にあっためられたって一向にめざめる気配がない/あの古池の蓮の根っこみたいなまどろみの中でぬかるんだ僕の細胞は今にも溶けて落ちてしまいそう/けだるさと昨晩の残りの酒気とに手を曳かれていまだ漂う君の紙巻のにおいを探り当てる/その手触りをなつかしみながら僕は疾うに羽化した君の殻に包まれる/ぺなぺなする布団の上で低い天井に向けて丸めた背を破って出るみどりごの飴細工みたい
おまえの 眼と耳と鼻と口と腕と手と脚と足と指と爪と皮と毛と血と肉と骨と息と そしてmanasから 生まれた、 僕だよ。