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盲目的な恋と友情 辻村深月

結婚式で夫なる人を見つめながら、「あの人」と別れて良かった、と主人公の蘭花が思うところから始まる。そして「あの人」は、もうこの世にいない。

あの人って誰?なんでもうこの世にいないの?それが知りたくて、ページをめくるのが止められなかった。いや〜…もう登場人物、全員子供。恋って、ここまで人を狂わせるのか…。それが正直な感想。

簡単な要約

恋を知らない、自分の美貌にも無自覚な一ノ瀬蘭花。だけど大学のオーケストラ指揮者に茂実星近がやってきて、蘭花の人生を一変させる。彼女は茂実に夢中になり、恋の楽しさや快楽を知る。でも茂実の裏切りによって、2人の関係は綻び始める。でも蘭花の友人・留利絵から見たら、また違う真実が浮かび上がってくる。

この小説は「恋」と「友情」のふたつの物語。「恋」は、蘭花目線からの話。「友情」では留利絵目線からの話。

第一章では、「恋は盲目」になった蘭花の話から始まる。

茂実は最初から危険な香りがプンプンした。彼の最初の裏切りなんて可愛いものに思えるほど、話が進むにつれてダメ男に変わる…というか、これが彼の本性だったのかなという気もする。巻き込まれて、泣かされてきた女性に同情したくなる。

蘭花は茂実がダメ男になっても、周りに別れを勧められても、「自分しか彼の良さを知らないんだから!」と周りの意見を聞き流す。こうなると共依存の始まり。愛が深すぎるが故に、それは憎しみに変わる。

蘭花と茂実はお互いを心底好きというより、損得で関係が始まったように感じた。「お前らセックスばかりしてるやんけ!」とツッコまずにはいられない。蘭花の心がボロボロになっても、お構いなく体を求めに来る茂実には「お前の脳みそは、チ◯コで出来てんのか!自分を好きでいてくれる相手を泣かすなよ」と喝を入れたくなる。

恋にのめり込むと、周りの意見は聞こえない。恋に溺れる自分に酔うから、友達に「アイツは止めた方がいい」と言われても別れられない。

激しく燃えるような、相手が好きで周りが見えなくなるほど、のめり込んで行くのが恋。愛は多分、安心感や信頼感があるものだと思う。”ときめき”や”スリル”とは程遠いものなのかもしれないけど。

激しい恋ほど、燃え尽きると呆気ない。でもじっくり温めて、火を燃やし続ける愛ほど、長く続いていくものなのかも。

蘭花の激しい恋は、ある日突然終わった。茂実が死んだから。

第二章の「友情」では、留利絵目線で蘭花の恋模様と蘭花への気持ちが描かれる。茂実の死んだ日のことにも触れていく。

私がこの小説のタイトルを見た時に、ふと気になったこと。「盲目的な友情」って何なのか?それは留利絵が蘭花に依存して、自分を見失っていくことだった。

この話を読んで、友情って恋に似ていると思った。友達は恋人より何でも話せるのに、友情は恋人には敵わない。自分が他の友達よりも一番でありたいのに、そういうわけにもいかず嫉妬してしまう。程よい心の距離を保たないと関係を築くのが難しくて、素直になっても分かり合えないこともある蘭花と留利絵には、そんな印象を持った。

蘭花には、留利絵が苦手なタイプの美波という仲良しの友達がいた。留利絵は自分の容姿にコンプレックスがあるからか、着飾って男女に人気のある美波が苦手だった。でも留利絵は常に自分の周りや環境に不満を持ち、嘘で自分を守り、歪んだ解釈をするようになる。

そして、彼女はいつも誰かに”選ばれる”ことを望んでいた。

だから留利絵は、蘭花にとって”一番の親友”になろうとした。まさに「彼女のためなら何でもする」、そんな雰囲気。でも悲しいことに、蘭花にとって留利絵はルームメイトで、”友達の一人”だった。そこで2人の思いはすれ違い、段々と歪んでくる。

茂実に泣かされても傷ついてもなお、彼から連絡があると答えてしまう、体を求められれば応じてしまう蘭花。留利絵は「別れた方がいい」と強く言ったり、茂実が彼女たちの住む部屋に来た時は、気を使って一晩中ファミレスで過ごしたにも関わらず、蘭花は自分のことしか見えていないので、留利絵の心配する余裕はない。留利絵はしびれを切らし、蘭花にこう言った。

「私にもみんなにも反対されているのに茂美さんに執着しているのは、蘭花ちゃんが優しいからでも、茂美さんにいいようにされてるからでもないよ。蘭花ちゃん自身の欲のせいだよ。好きだからって言うけど、『好き』って気持ちはそんな、何もかもより一番偉いの?それは、蘭花ちゃん自身の快楽と欲だよ。それが周りを苦しめてるんだよ。」

で、留利絵は最終的に”ある復讐”をする。


この本を読んでいて思ったのは、結局は「自分の人生を生きろ」ってことなのかなと。

友達のことを思って言ったことも、相手は自分のことで精一杯だからこちらの思いは伝わらない。ダメな男と分かっていても、そんな男ほど尽くしたくなったり、ダメな男を改善させることが使命のように感じたりする人もいる。でも、堕ちるとこまで堕ちてパートナーを傷つける人は、本人が心から変わろうと努力しない限り変わらない(はぁ…私の家族みたい)。

自分に向き合うこともせず、他人のせいにして、他人に尽くすことを生きがいにしていては、結局欲にまみれて、盲目的になるのではないかと私は思う。

自分の存在価値は自分で見つけるしかないのだと思う。そうすれば、「何かがおかしい」と気がついた時に立ち止まって考えたり、依存する前に対策できたりする。

自分にとっての幸せは何なのか、どんな人間とは関わりたくないのかを知ることが、自分の人生を生きることに繋がるはず。


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