ニコマコス倫理学
アリストテレス「ニコマコス倫理学」(山本芳久、100分で名著)
アリストテレスは、つかみ所がないので避けていたけれど、この本によれば、あまりに自然であり普通の感覚/常識だ。自分が小さい頃から考えていたこと/考えてきたこと、気づいてきたことの道筋にしっかり沿っている。
それは気づいた自分がアリストテレスなみにエライ、という意味ではなく、単に自分はアリストテレスから連綿と続く思考の枠組みの中に生まれて育ったということなのだろう。もうすでに自分の身体の中に血肉化している。それほど、多くの基本的な物事の考え方の根底にアリストテレスが居る、ということだし、人々もその上に立っている。そのことはほとんどの人に知られず意識もされていないけれど。
倫理とか道徳というと、自分は反射的にとても嫌な感じをもってしまうのだが、それはおそらくカントのせいだ。アリストテレスの取り上げる主題としての「倫理」は、現代的/一般的なイメージとはちがう。よく生きるにはどうすればいいか、よいとはどういうことか、というソクラテスの系譜に連なる視点である。自分流にいえば価値の問題に関するニュートラルでベーシックな基本事実を解いているだけのようだ。
一言でいえば、人が幸福になるためにはどうすればいいか、に関する考察である。
ニコマコス倫理学
史上初の体系的な倫理学。
幸福論的倫理学(cf. 義務論的倫理学:カント)
※幸福論的倫理学→事実を捉えようとしている
※義務論的倫理学→「べき」論
目的の連鎖:つねに「なんのため?」と問えるが、「幸福」でその問いの連鎖は終わる。
幸福になれること → 善「すべてみな何らかの善を目指している」
三つの学問分類
知ること(理論的学、知識) ← 自然学、数学、形而上学、(自然科学)
すること(実践的学、行為) ← 倫理学、政治学
作ること(制作的学、制作物) ← 詩学、弁論術、(デザイン?)
学問のタイプ:
理論的学 → 常にそうであるところのもの(を目指す)
実践的学、制作的学 → たいていはそうであるところのもの(を目指す)
→ ゆえに、倫理学は若者には向かない。それでも、学ぶ価値はある。
「倫理学」の語源
エトス(習慣)
エートス(性格、人柄)
エーティコス(性格にかかわる、人格に関わる)
タ・エーティカ(性格/人柄に関わることども)
善(アガトン)の意味
道徳的善 人助け、ルール遵守
有用的善 役立つ
快楽的善 快楽、楽しい
→ 価値
これらは時に相反するが、どれを重視するのかその人の判断である。
悪人といえども、自分のどれかの「善」を選んでいることにちがいはない。
最高善=幸福
3つの生活類型の中の幸福
快楽的生活 → ×安定的、持続的幸福につながらない
政治的生活 → ○社会で役割を果たす幸福、現実態としての自己実現
観想的生活 → ◎真理を認識する幸福、可能態としての自己実現
「人は生まれつき知ることを欲する」理性:人だけが持つ
枢要徳:4つの徳(アレテー:卓越性、力量)
幸福は徳によって実現される。
賢慮(判断する力、判断力)
勇気(困難に立ち向かう力)
節制(欲望をコントロールする力)
正義(他者を重んじ、ルールを守る力)
→ すべては「力」
徳は生まれつきのものではない。変わりうるから。
力(能力/可能性)自体は生まれつき備わっているが、その「在り方」を現実化していくことが必要。その在り方が「幸福」である。
徳を身につける
思考の徳:教示(知的能力・可能性)に負っており経験と時間が必要
性格の徳:習慣(エトス/人柄)によって性格(エートス)は形成される
徳は学んだ上で実際に作らなければならない/作ることによって学ぶ
like a 「勇気ある行動を取ることによって、勇気ある人になる」
※徳と技術の類似持性
有徳な人と悪徳の人
「節制」について
理性被支配
節制のある人(葛藤がない)
抑制のある人(葛藤がある)
欲望の支配
抑制のない人(葛藤がある)
放埒の人(葛藤がない)
喜びの感じ方:千差万別
喜びの感じ方は、味覚のように人それぞれに内容はちがう。しかし優れた料理人は「舌」が肥えており、微細なそれぞれの味のちがいがわかる。
中庸
「まぁまぁ/ほどほど」ではない。
×[臆病 ←(中庸)→ 勇気]
○[臆病 ←(中庸:勇気)→ 向こう見ず]
友愛(ピリアー)
すべての徳を備えていても、愛する友がなければ空しい。
〈友愛の成立要件〉
好意(相手の善を願う)cf.「嫉妬とは他者の善を悲しむこと」
相互性(相手からも好意が返ってくる〉
気づかれている(相手もそれを気づいている)
〈友愛の種類〉
人柄の善さに基づく → 似ている善き人同士で相互に相手を全体として愛する/持続的
有用性に基づく → 自分のため、状況によって変わる/持続しない
快楽に基づく → 自分のため、情動、恋愛/持続しない
前に「友人」という関係がもっとも貴いと考えたが、このことのような気がする。
友愛については鳩山由紀夫が一時取り上げていたけど、読んでいてああきっとアリストテレスの「友愛」のことなんだろうな、と思う。
アリストテレス:Aristoteles
BC.384〜322
ソクラテスの弟子であるプラトンの弟子。
リュケイオン(設立した学舎)(cf. アカデメイア:プラトン)
大王アレクサンダーの家庭教師
山本芳久:
「魅力的なものと出会うという出来事は、『出会い続けることのできるものとの出会い』である」
たとえ一度の出会いであったとしても、その出会いは以後の人生で何度も反芻され追想される。つまり再び、何度も出会う。
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