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ほしいのは、誰からも称賛される人生ではない
会社員生活が順調である。
前職では早起きにまったく自信がなくて、10時とか11時出勤にさせてもらっていた。しかし今回は8時45分勤務開始。にも関わらず、以前よりなんだか元気みたいなんである。
前の仕事はテレオペ業務だった。帰り道はもう、へろんへろんだった。だけど今は、帰り道にちょっと足を伸ばして、憧れていた焼き鳥屋さんに寄り道しちゃったりしている。以前より2時間は早起きしてるのに、である。
その前には、演劇雑誌でインタビュー記事を書いていた。あんな俳優さんや、そんな劇作家さんに、じかに会って話した。「ふ」がつく黒服の警部補が主人公のドラマを書いた、「み」のつく劇作家さんの監督映画のパンフレットを任されたことがある(力不足すぎて悔いばかり残るけれど)。古い友人は「すごーい!」って称賛してくれたし、「観る観る、絶対観る!!」ってはしゃいでくれた。
もちろん、私だってうれしかったのだ。でも、なんだろう、今のほうが、自分の足で歩いてる気がする。
誰の目から見ても明らかなサクセス。それが不意に目の前に現れることがある。死にものぐるいでそれをつかみ取りに走る者があれば、その恐ろしさに腰が引けちゃう者もある。どちらかといえば私は後者だった。まさかそんなサクセスの女神が、私なんぞに微笑みかけてくれるはずはない。これは何かの間違いだ、とにかく嵐が過ぎ去るのを待とう。とっさにそんなふうに思っちゃう人間がいることを、前者タイプの皆さんはどう思うだろう。
「どうしてチャンスをつかみに行かないの?」「このチャンスが次につながるかもしれないんだよ!」。ええ。そうですよね、わかります。でもね、あなたと私には、決定的に違うところがあるのです。それは、
私がほしいのは、そういうサクセスじゃない。ってことです。
私は、代わりのきかない道を行きたい。競争して、勝ち取って、でもすぐ次の誰かが現れて、また競争して、もし負けたら、あっけなく取って代わられるような人生ではなく。選んだ道が、どんなに地味で地道なものでも、その道の代えがたい価値をこの目で見つけ、この手で拾いあげ、他ならぬ私自身が、ひとつひとつ証明しながら進むような、そんな人生をゆきたいんです。
もちろん、誰もが称賛するような、華々しい人生も素晴らしい。でも、人知れず、毎朝決まった場所に通って、こつこつと仕事を重ねる毎日の中にも、光がある。同僚との会話があり、ひそかに交換するお菓子があり、気遣いや励まし合いがあり、そして、お腹のよじれる大爆笑がある。毎日ある。
そのことを知れて、ほんとうにほんとうによかったと思う。
こういう小さな光をポケットにいっぱい溜めておき、いつか何らかの形でブワッと空に放てたら楽しい。たくさんの小さな光に囲まれながら、大きな光にのみ焦がれて空ばかり見ている、そんな誰かに伝えたい。その人生、すでに、とっくに、イケてるんだぜ?(2020/08/26)
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