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「LINEMO」からたった3日で乗り換えを決めた件

最初は出来心だったのだ。3月17日、ほんの3日前から受付が始まった、携帯電話の割引サービス「LINEMO」。日頃の携帯料金に辟易としていたので、えいやとばかり申込みを完了し、さらには「eSIM」だか「APN」だかの設定も完璧に済ませ、ほくほくと待ち構えていたら、

待てど暮らせど、LINEMOの電波が来ない。

公式のカスタマーサポートはチャットしかなくて、なんとかオペレーターさんまでたどり着き、やりとりの末に「うちではわからんのでここに電話せよ」と案内された電話番号に、かけてみるけど、もちろん、つながらない。

夕方ごろ、一瞬だけつながって、自分の受注番号と、いくらかの情報を伝えると、お兄さんはこう言った。

「お客様の各種設定は問題なくできているのですが、こちらの回線が現在パンク状態でして、順次開通していきますので、夜まで待ってみていただけますでしょうか」

……といわれたまま、丸3日が過ぎた。

朝10時から自宅の電話に貼りついて、リダイヤルボタンを押しまくる。2時間経ってようやくつながり、「順番におつなぎしますのでしばらくお待ち下さい」のお待たせメロディ&メッセージを延々と聞き、ちょうど2時間かっきり経った頃、

向こうから、電話が切れた。

まじかーーー!

その時点では、もともと使ってたソフトバンクの電波が、かろうじて入ってきていた。でも「LINEMOへ乗り換え」されたとみなされた場合、この電波も閉じられちゃうんじゃないのか。あわてて最寄りのソフトバンクへ電話する。電話に出てくれたお姉さんは、私の話をすみずみまで聞いて、

「ソフトバンクの電波は、次の締日で切られてしまう可能性が高いですね」

そんな! そんなことになったら、私のiPhoneは、ただの四角いカタマリじゃないか!!

「LINEMOからソフトバンクに戻る手立てを、お探ししてみましょうか」

それ! それでお願いします! 閉店間際の窓口の予約をお願いして、その時間まで一応LINEMOのサポセンにリダイヤルを繰り返し、やっぱりつながらないまま、私はお店に向かった。

順番を待っている間に、地震がきた。

でも私の携帯はそのとき、瀕死状態にあった。ソフトバンクの電波はすでに「3G」になっていて、電話ができてもネットがまるでできない状態だった。きっとおかーさんからLINEが入ってるなー、まいったなー、とか思ってると、小一時間ぐらいしてようやく、お姉さんが呼びに来てくれた。

「LINEMOでお困りなんですよね!」

ああ、電話のお姉さんだ。そうなんです、これこれこうで、こうなんですよー。すると彼女はスマホを2台ほど取り出して、1台でLINEMOのサポセンとチャットをし、もう1台で「LINEMOからソフトバンクに乗り換える手立て」を検索している。「こういう事例はさすがに、うちも初めてなので」。

そこからの彼女がすごかった。まず、LINEMOのサポセンが「うちではわからんのでここに電話せよ」と、ある電話番号を指し示してきた。見覚えのありすぎるフリーコールの番号。「……そこ、そこに私、今日、まる1日電話してました!!」お姉さんがその旨打ち込むと、「そう言われても、そこでしかわからんのやもんー」とサポセンがゴネる。

お姉さん、即座にそのスマホを脇にやる。

「こうなってくると、手立てとしては……」

LINEMOを見限ったお姉さんの、脳内がフル回転しているのが見える。

「ソフトバンクに戻るよりも、いい手立てがひとつあって」

え。

「ソフトバンクじゃなくて、ワイモバイルの、18ギガのプランに新しく入る。ご自宅でのインターネットとセットで割引がきくので、月2千円ちょい。LINEMOが20ギガ3千円だから、もとは取れると思います」

え!!

「ご自宅のネットは、どこの何をお使いですか?」

ええと……たぶんNTTとソネットのなにかです。

「……わかりました、調べます!」

すごい勢いでタブレットを操作するお姉さん。即座に、NTTには私の登録がないことと、おそらく「ソネット光」であろうことが判明する。

「であれば、手順はこうです」

まず明日にでもソネットに電話して、なんたら番号を発行してもらう。それを電話でお姉さんに伝えれば、切り替えの手続きは全部お姉さんがやってくれる。工事なし。届いた機械を電源につなぐだけ。

「そ……それでお願いしますう!!」

かしこまりましたっ!とばかりにお姉さんの指は動いて、いろんなことがみるみる動いていく。かっけー……かっけーよ……今のお姉さん、なにかに似てる……そう、そうだ、あの人だ!

「ガリレオみたいですね!!」

私が伝えたかったことが瞬時に伝わって、お姉さんが爆笑してくれる。思いついたらその場に膨大な数式を書き連ねていく、あのかっこいい人に今、お姉さんは似ている。

「私、『きれい』とか『かわいい』よりも、『かっこいい』が一番うれしいです」

お姉さんが言う。ああ、仕事に生きる人だな、と私は思う。

「ばれちゃった(笑)。でも周りが『結婚しろ』ってうるさくて」

あーー、ね。わかりますよ。自分の幸せは自分で決めたいですよね。

「そーなんですよ! ほんとそう!!」

久方ぶりに、女子トークに触れた気がする。外では緊急事態宣言開けイブの若者たちがワイワイしている。コロナの話とか、オリンピックの無理さ加減とか、いちいち意見が一致する。その間、彼女の手はひっきりなしに動いている。

そして私の、新しい電話番号が決まる。20年以上前、初めて携帯電話なるものを持ったときから、私は番号を変えたことがない。フリーライター期には、携帯番号が命綱だと信じていたけれど、今はSNSとかLINEとかメールとか、私にアクセスしてもらう手立てがいっぱいある。

「もちろん、LINEMOの混雑が落ち着いてから、サポートを受けて電波を復帰してもらえば、もとの電話番号にもどれますよ」

いや……それはいいかな。「番号変わりましたー」って言いふらしたのに、また「もとに戻しますー」って言いふらすの、めんどくさいです。

「じゃあ、ほとぼり冷めたら、解約ってことで!」

了解!

すべての書類を整えたあと、お姉さんは紙に向かって、私がこれからすることの手順を、なんと手書きでしたためてくれた。

もう、夜の、9時近かった。

SIMカードの入れ替えから各種設定まで、iPhoneを元通りに使えるようにきっちり整えてくれたあと、お姉さんはすべての書類を手提げ袋にまとめて、お店の出口まで見送りに来てくれる。そして、袋を手渡してくれながら、彼女は言った。

「楽しかったです!!」

わたしもですーー!!!

入りたかったLINEMOには入れなかった。携帯番号も変わってしまった。でも今、こんなに満足している。

「オンラインじゃなくてお店がいい」なんて、古い人間が言うことかもしれない。でも、やっぱり、こういうのがいいよ。(2021/03/20)

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