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雪と水道管(Scene1)

 都会に降る雪が嫌いじゃないのは、「こんな場所にも雪は降るんだな。」という当たり前のことに対する違和感のせいだと思う。今日の千代田区は風もないから、空からまっすぐに落ちてきた雪はアスファルトに消えていく。東京でも西側の山の方は積雪の恐れもあるというが、こちらはどうだろう。

 都会の雪は嫌いじゃない。嫌いじゃないけれど、好きだとも言い切れない。

 このまま振り続ければ積雪はないにしても、夜には凍結してしまうかも知れないな。歩きづらくなった凍結路は面倒だけど、それより何より僕を陰鬱な気持ちにさせるのは「店の水道管の凍結問題は、雪の日に限って起こる」という忌まわしいジンクスだ。

 毎年毎年、雪が降るほど冷え込んだ日には店の水道管が凍ってしまって水が出なくなる。原因は分かっている。雪が原因なんかじゃない。冷え込んだ気温に加えて、外部のエアコンから出される極度の冷気に水道管が晒されるから凍るんだ。だからといってこんなに寒い日だからエアコンの暖房を付けないわけにもいかないし、これが不可抗力によるものなのは理解している。だけど、水道管が凍って水が出なければ営業なんかできやしない。それがここ数年ずっと続いてる。そういう理不尽さが嫌なんだ。

 今年は事前に準備した。義理の父が水道管周りに発泡スチロールで壁を自作してくれた。それに賭けて、昨晩は夜中に店に来て水を出すということもしなかった。

 店に着いて恐る恐る蛇口を捻ってみる。
あれほど心配してたのに、拍子抜けするほどあっさりと水は出た。良かった。「これで営業ができる」とひと安心したところで僕は一度店を出た。準備よりも前にやることがある。

 いつものコーヒー屋でコーヒーを頼んで、窓の外を見る。相変わらず雪は降り続いている。間もなくコーヒーが来て、僕はそれを飲んでまた窓の外の雪を眺める。都会の雪はやっぱり嫌いじゃない。陰鬱な不安の種さえ無くなれば、こうやって違和感を眺めていられる時間は幸せでしか無い。

今日はのんびり営業するか

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