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小椋 杏
2014年10月1日 11:27
「たったひとつだけだけど、願いが叶うとしたら何を願う?」 学校からの帰り道。 幼馴染の美友紀がこう尋ねてきた。あたしはそっと腕を組んで、うーん、と唸る。「たったひとつだけ?……何を願うかなぁ?」「アタシはこれ、って決めてある」 美友紀があたしに視線を向けて、ふふ、と笑って。「北城(ほうじょう)君と、両想いになること」 そして、顔いっぱいに幸せな微笑を広げた。 美友紀は隣のクラスの北城
2014年10月1日 11:29
その塔は、国境にひっそりと立ち尽くしていた。 何年前に造られた塔なのか、誰一人として正確なことを知るものはいなかったが、確かにそこに建っていた。石を積み重ねて造られたその塔は、ところどころ風化によって角が取れ、隙間からは雑草が這い出し、また崩れそうな部分は後の時代になってから補強されて、なお「見張り塔」という役目を担っていた。国にとっては大事な塔だった。 新月の夜。 見張り塔の天辺の見張
2014年10月1日 12:06
由利が通いつめる公園には、桜並木と銀杏並木があった。 桜並木の下は、春の盛りのころには花見の人々で溢れ返る。 銀杏並木の下は、紅葉の季節には落ち葉で満ち溢れる。この公園の銀杏には雄株しかないので、ギンナンはならない。ギンナンのために銀杏並木を作ったのではなくて、あくまでも紅葉と落ち葉を楽しむための銀杏並木らしい。 由利はいつものように桜並木の下を通り、噴水のそばのベンチに腰を下ろした。噴水