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組織カルチャーへのIT投資がうまくいっている、とはどのような状態か?

どうも、世界中のヒトや組織の可能性を拡げたい、小倉です。アトラエという会社で情報システムやセキュリティの管理をしています。

最近つくづく感じることではありますが、業務改善のあらゆるレイヤーで多くのツールが生まれ、あらゆる業務プロセスへ導入され生産性が高まっています。

一方で利益に直結しない IT 導入の判断は非常に難しいと思われます。利益に直結しない IT 投資は例えば、

  • そのツールを導入することでメンバーの働きやすさ向上に繋がる可能性があり(直接的な、1つ目の指標)、

  • その結果、会社の利益の向上に繋がる可能性がある(間接的な、2つ目の指標)。

という感じに、IT の投資対効果としての経常利益が、ツールの導入から遠い上にその達成の不確実性が高い状態のことを指しています。特に組織カルチャー(働きやすさ、働きがいなどに関すること)に対する IT 投資はその中でも難しさを感じる方が多いのではないのでしょうか。

しかしながら組織カルチャーに対して一定の IT 投資を継続したり、アクセルを踏んだりする企業も見受けられます。つまり難しい中でもそこに対して実行に移す企業もあるということです。

ということで、今回は「組織カルチャーへの IT 投資がうまくいっているとはどのような状態か」について、私なりに考察していきます。

なおこの投稿における組織カルチャーとは「組織のメンバーが過去に積み上げてきた行動から、共有されている仕事における”行動基準”」とします。すなわち、組織カルチャーに対する IT 投資とは「組織内で共有されている仕事における”行動基準” を念頭において IT の投資をすること、ソフトウェア等を導入すること」を指します。


もはや IT 投資そのものを疑うことはない

マーク・アンドリーセン が Software is eating the world と言ったように、IT 企業に限らないほぼ全ての企業で IT の利活用が進んでいます。もはや「進んでいる」という表現は2024年においては正確ではなく、業界に限らず全ての会社が、程度の差はあれど IT 企業であると言えるのではないでしょうか。

ツールの導入を検討する際の理由の殆どは生産性の向上を目指したものであると思います。これまで手作業でやっていたことを自動化したり、データを蓄積することによって付加価値を期待していたりと、概ねビジネスの価値を直接的に高めることを志向していると見受けられます。

逆説的ですが、そのように考えると ROI を論理的に説明できない場合の稟議は難航することも理解できます。そしてそもそもツールの導入の発起にすら至らないのではないでしょうか。

なぜ組織カルチャーに対する IT 投資の判断は難しいのか?

問題意識をもっと端的にいうと「このツールを導入したら組織やチームは良くなるはず!」という直感に対して、多額の投下を判断するのが難しい、ということです。そりゃあ難しいよねという感想もありますが、少し構造的に考えてみました。

まず IT に対する投資を発起する際は、ボトムアップとトップダウンの両方が考えられます。

ボトムアップのアプローチでは、現場のメンバーが作業内で生産性改善の余地を感じている中で、それを解消できるツールの存在を認識した際に、導入を進めていくという流れになります。

この場合、発起するメンバーに投資の全体感がないと、投資を承認する立場にいるメンバーとの優先順位に関する議論が困難になります。承認する立場にいるメンバーがその議論の余地を吸収してくれる場合はその限りではありませんが、それもそれで難しさはあります。

一方でトップダウンのアプローチでは、ビジネス要件達成のために年間予算の中で優先順位を決めて IT 化を進めていくという流れになります。

この場合、IT 化を推進してくメンバーに "土地勘" がない場合、現場の生産性を高めきれないばかりか、逆に生産性を落とすことにもなりかねません。当たり前のことではありますが、対話の中で獲得したビジネス要件やメンバーのコンピテンシーを鑑みた上で判断していくことになります。

もちろん、どちらかのアプローチしか採用しないということは少なく、現実的には大なり小なり両方を組み合わることが多いのではないでしょうか。

その際、GQM+Strategies のような IT 投資のフレームワークを用いて、経営戦略と整合するように投資額や活動内容を決めていくことが多いと思われます。GQM+Strategies では経営レイヤーの KPI だけではなく、そこから逆算される小グループの各レイヤーの KPI を設けることを重視します(と私は解釈しています)。

株式会社クニエのWebスライドより(リンク

ただし立場によって責任範囲やビジネス上の KPI が異なるため、ここと整合するような IT に関する KPI を作ることが非常に難しいと思われます。

より経営層に近いメンバーが考える KPI が正しいとか、そういうことが考えられるメンバーが偉いとか、そういったことはありません。これを視座の高低で表現することもありますが、役割分担とも解釈できます。

ビジネスにおける IT 投資そのものでさえ難しいのだから、投資対象が組織カルチャーという雲を掴むような存在であれば難しいのはなおのことだと想像できます。

組織カルチャーにおける KPI を作る難しさ

上記の GQM+Strategies に照らして考えると、組織カルチャーにおける KPI を上方向と下方向から作って突合させれば良いものができそうですが、ここで4つの難しさが待っています。

まず第一に、組織カルチャーにおける違和感や、規範を正しく言語化することの難易度が非常に高いことです。組織カルチャーにおける経営の優先順位を高めることの難しさもここに含まれます。

第二に、組織カルチャーにおける目標を達成したかどうかを判定することが難しい、もしくはやるべきではない場合があることが挙げられます。定量化自体も難しいですし、望ましい行動が増えた場合にそれが望ましい状態かどうかを短期で判断することの危うさもあります。

第三に、短期的もしくは局所的に業務遂行を邪魔する可能性があることです。これは、全体最適で考えるとそのツールの導入が望ましい場合でも、自身や自チームの業務が滞ったりパフォーマンスが低くなる可能性があり、そこで賛同を得にくいということです。言い換えると「資源動員の難しさ」と表現できるかもしれません。

第四に、これらの性質を鑑みて、事業における目標数値と横並びで掲げ続けることが難しいということです。


いずれも難しいだけで KPI に落とし込むことは可能です。ただし性質を鑑みて落とし込まない判断をしている組織もあると思います。

ここまで組織カルチャーに対する IT 投資が難しい理由について考察してきました。IT に対する投資は業務プロセスに対する投資と混合されやすく、その上、組織カルチャーに対する投資(IT に限らない)は根本的に KPI との相性が良くないです。

そのため、ある IT 投資を考えた時、それが成功しているかどうかを判断する別の観点が必要そうです。それが①「らしい働き方」を持続できているか、と、②成長に伴うカルチャーのトレードオフを解消できているか、の2点です。

観点①:「らしい働き方」を持続できているか?

冒頭に記載した通り、組織カルチャーを「組織のメンバーが過去に積み上げてきた行動から、共有されている仕事における”行動基準”」としています。

つまり明文化、合意されている「その会社らしい行動基準」が持続できている場合、その IT 投資がうまくいっていると判断できそうです。

例えばある組織において、「スピードを重視する」という行動指針を社内外に掲げており、従業員もこれに同意しているとします。あるコミュニケーションツール A(仮)を導入していることで、社内外のやりとりの速度が非常に高く、その行動指針を従業員に促せているのであれば、IT 投資がうまくいっている、と考えます。

一方で、例えば会社の成長に沿ってガバナンスを強めることになったとします。毎回の投稿に申請と承認が必要で、何かあったら管理者によって差し止められる、というコミュニケーションツール B(仮)を導入した場合、ガバナンスの強化という側面では投資は成功といえるかもしれませんが、組織カルチャーの側面ではむしろ「スピードを重視する」という行動基準から逆行しています。そのため、組織カルチャーにおける IT 投資はうまくいっていない、と考えます。

なお誤解なきように記載すると、組織カルチャーに良い・悪いはありません。あくまでその組織を構成するメンバーの行動特性や志向性を特徴づけて表現しているに過ぎません。その組織で重視することが「スピード」よりも「ガバナンス」であれば、むしろコミュニケーションツール B(仮)の IT 投資はうまくいっていると考えていいのではないでしょうか。

カルチャーに対する IT 投資と KPI は相性がよくないと書きましたが、上記の状態を計測するための健全性に関する指標は持っておくと良いかもしれません。

「マッキンゼーの7S」というフレームワークがあります。これは7つの経営資源の相互作用を表現するためのものです(ややミスリードですが、ここでのシステムは IT システムのことではなく会社の制度や仕組み全般を指します)。

マッキンゼーの7S

古典的なフレームワークではありますが、見ての通りそれぞれの経営資源資源に対して IT システムを導入できる余地があり、そしてそれがレバレッジとなります。何が言いたいかというと、IT は経営の一部と考えるより、経営全体に覆い被さるものと捉えた方がいいということです。そう考えるとなおさら「らしい働き方」や行動基準を IT でエンパワーできると考えられます。

観点②:成長に伴うカルチャーのトレードオフを解消できているか?

IT 投資を考えた時にそれが成功しているかを判断するためのもう一つの観点は、成長に伴うカルチャーのトレードオフを解消できているか、です。

前述のコミュニケーションツールで考えた場合、一般的には成長に伴って、スピードを多少落としてでもガバナンスを強化するような経営判断がなされると思います。この場合、組織カルチャーがトレードオフによって阻害された、と考えます。

一方で、IT 投資によって、スピードを落とさずにガバナンスを高めるような環境を作ることができた場合、組織カルチャーがトレードオフを乗り越えた、と考えます。

組織が成長するにつれてたくさんのトレードオフが発生します。上記は一例ですが、成長に伴って捨てなければならないと考えていた組織カルチャーを、IT 投資によって守ることができた場合、それはその IT 投資はうまくいっていると考えていいかもしれません。

アツいですね。

この場合は、トレードオフの解消前と解消後とで KPI を作りウォッチしておくといいかもしれません。そう考えると前述の難しさは多少緩和されるとも思われます。

またメンバーの意見を聞いてみたり、行動基準を満たすような動きがあるか観察してみたりするのもいいかもしれません。

組織カルチャー、作っていきましょう

ここまで読んでいただきありがとうございます。なんだか偉そうに書き連ねましたが、私自身も日々難しさを感じています。

組織カルチャーは変わりうるものでもありますし、それに合わせて IT 環境も変わっていく必要があります。この見極めが非常に難しいと思います。

ただしそれ自体を面白そうと思えるのであれば、お気軽にお声がけください。是非一緒に組織カルチャーを作っていきましょう。もしくは喧々諤々と議論しましょうw ご連絡お待ちしております。


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