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箱根美術館巡り③(ポーラ美術館とゲルハルト・リヒターとの出会いとか)

※本記事はこちらの続編となります▼

箱根ラリック美術館を満喫した後は、ポーラ美術館に行きました。
何度足を運んでも好きだなと思うこの場所の感想を書いていきます。

考えられた建築デザイン

ポーラ美術館の建築デザインのコンセプトは「箱根の森にとけこむ」です。
美術館入口までの道は短いですが、背の高い周囲の木々と同じ目線を楽しめます。いつも見上げるばかりの木々が、こんなにも間近に

季節感あふれる風景

そして建物内に入っていきます。
ガラス素材のエントランスは、箱根の地に降り注ぐ木漏れ日をこんなにも体感させてくれます。

自然光をたっぷり浴びられるエントランス

実は、美術館は周囲の木々を超える高さにならないように設計されています。箱根の山の傾斜地に沿って建てられており、エントランスに入ると地下の展示室に続く長いエスカレーターを下に下におりていくことになるのです。その間、常に自然光を感じられる大きな吹き抜けを眺められます。

「光」を感じる吹き抜け

加えて、美術館の外には散策路もあり、歩くとさらに建築デザインのよさがわかるかと思うのですが、今回は時間の関係で散策できず…次の機会に楽しむことにします。

なにはともあれ、「自然を存分に感じられる建築物」というのがポーラ美術館のよさの一つだと思っています。

企画展の魅力

現在開催中の企画展は「ピカソ 青の時代を超えて」。
個人的に、ポーラ美術館には青緑色の印象があるので(ガラスがなんとなく青緑色だからかしら…?)、今回の展覧会のテーマカラーでもある青緑色がとても馴染んでいるように感じます。

今回の展覧会のテーマカラー

全体の3分の2程度は撮影禁止だったため写真をあまり撮っていないのですが、ピカソが10代の頃の作品から、70代以上のときの作品まで、バランスよく展示されています。

また、ピカソが描いた作品だけでなく、ピカソ自身の写真もありました。
おじいさんになってからの写真は見たことがありますが、若い頃の写真は初めてみるような気がします。たくさんの愛人をつくっていたことは知っていましたが、自信にあふれた格好良さが写真からも滲み出ていました。

マン・レイが撮影した40歳くらい(たしか)のピカソ

さて、今回の企画展で特におもしろいと感じたのが「おしゃべりガイド」。

展覧会のガイドと聞くと、皆さんはどんなものを想像されるでしょうか。
500円〜600円を支払ってガイド機を借り、BGM(印象派関係の展覧会の場合は大抵ドビュッシーかリストかラベルの音楽)が流れ、俳優さんが決められた台本を読み上げる形式のものを思い浮かべるのではないでしょうか。

ところが、ポーラ美術館さんが今回用意したのは、自身のスマートフォンで聞くタイプのガイド(無料)で、しかもお笑い芸人さんと学芸員の方の「おしゃべり」を録音したものです。

よくある「この絵は〜を描いていて、〜という特徴があります」といった説明をただ聞くタイプのガイドではありません。
イメージとしてはこんな感じ▼
(※あくまでイメージです。実際の音声とは異なります)


(ピカソの絵を見る学芸員さんと芸人さん)
学芸員さん 「こちらの絵は何が描かれていると思いますか?」
芸人さん  「え、なんだろ… アルミホイルくしゃくしゃっとした感じ?鮭のホイル焼き開ける前みたいな」
学芸員さん 「なるほど〜(中略)画面の真ん中の上の方をみると、顔のように見えてきません?」
芸人さん  「ええぇ!?顔…!?」


こんな感じです。本当に「おしゃべり」です。

いいなと思うのは、これまでのガイドだと「正解とされていること」しか分からなかったのに、このガイドだと「絵画の知識が多いわけではない第三者が、絵を見たときに抱いた素直な感想」が聞けるんです。
今までのガイドでは「これはこうなのか」と聞こえた情報をただ飲み込むばかりだったのですが、おしゃべりガイドだと芸人さんの正直な感想に「そうそう、私もそう思った!」と共感したり、おもしろい比喩表現に「たしかにそんな風にも見える」と笑ったりすることができます。

このタイプのガイドは初めて聞いたのですが、音声だけ聞いても「どんな絵が描かれているんだろう」と想像できて楽しめそうです。(キュビズムや未来派など、一見何が描かれているのか分からない絵画展に特に合いそう!)

展覧会の絵以上に、ガイドのおもしろさの印象が残った企画展でした。

コレクション展の魅力

企画展の他に、コレクション展も見れます。
モネやルノワールといった、日本においても名が知られている有名画家の作品の展示もされており、これも必見です。

が、今回私の心に一番刺さったのはこちら。

大きな抽象画

現代美術界で高い評価を受けている「ゲルハルト・リヒター」の作品です。「リヒターといえばやっぱりこういう抽象画だよね」と言われそうな大型作品が一つと、これまた彼らしい中型のフォトペインティングが一つの、合計二作品だけがひっそり展示されているこの部屋が、ものすごく印象的でした。(おやっと思うほど暗い部屋の照明もまた印象を強めてくれました)

数ヶ月前、国立近代美術館でリヒター展が開催されていたことは知っていました。そしてその評判がよいことも聞いていました。

でも、彼の主要作品(主に抽象画)をオンライン上で見て、「私に彼の作品が理解できるだろうか…」と怖気ついてしまい、ついぞ足を運びませんでした。

でも、こうして本物を目の前にすると、作品がもつ見えない力に圧倒されるような気分になりました。「思い出したいのに思い出せないなにか」が頭の中にじわりじわりと浮かんでくるような感覚です。
パソコンの画面上では分からなかったけれど、これがリヒターさんの作品の魅力なのかもしれません。やはりリヒター展に行っておけばよかった。。。

記憶に訴えかけてくるような筆致(写真じゃ伝わらないかも)

昔、とある小説家の方のインタビューで
「分かることが書かれた本ばかり読んで何が楽しいの?
よく分からない物語を読む方がおもしろいじゃない」
というような言葉を見かけました。(かなりうろ覚えですが)

私はこの言葉に賛同します。

分からないものは「こう考えなきゃいけない」と誰かに諭されることなく自由に考えを巡らせることができるし、見るたびに印象が変わり、何度も味わえる。
小説も、絵も、「よく分からないもの」を楽しめるようになったここ最近です。

…話が逸れてしまいましたが、コレクション展も見応えがありました!

美術館らしいカフェメニュー

最後に、館内のカフェに立ち寄り、開催中の企画展に合わせた限定メニューを注文。ピカソが青の時代に描いた「海辺の母子像」の色合いを呈した(でも味はトロピカルな)ドリンクです。
「海辺の母子像」では青い絵のなかに、一輪の赤い花が象徴的に描かれていますが、こちらのドリンクにも本物の小さな赤いバラが添えられていてきゅん!

850円でした

箱根ガラスの森美術館も、箱根ラリック美術館も、思っていたより楽しかったけれど、やっぱりポーラ美術館が一番好きだな、と思った一日でした。


ポーラ美術館だけやはり文字数が多くなってしまいましたが、最後まで目をとおしていただきありがとうございます!

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